2章 『孤を』コワガルヤマイ

 いつからだろうか、孤独を嫌うように、怖がるようになったのは。



 今までは、孤独の方が心地よかった。本当に、『今まで』と言える程つい最近まで。

 孤独というと聞こえが悪いかもしれないけど、それは人に邪魔をされることもなければ、人の邪魔をすることのない、私のお気に入りを最大限に出すことのできる空間。孤独とはそういう当たり障りのないとてもいい状態のはずだ⋯⋯少なくとも私はそう思うし、共感してくれる人も少なからずいると思うが。



 なのに、ここ最近⋯⋯というか、ここ数日で正解かもしれないくらい最近からだと思う⋯⋯孤独が怖くなった。


 一人自分の部屋でお気に入りの歌手の音楽を聴いているとき。

 お気に入りのペンで、お気に入りのキャラの絵を描いているとき。

 お気に入りの漫画を、お気に入りのソファの、お気に入りの日差しの温かい窓際の位置で読んでいるとき。


 ⋯⋯そんなふとした瞬間に起こる。多分、本当に些細な感情からだろう。


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯バサッ⋯⋯」 

 そんな些細な感情は私の体を小刻みに揺らす。⋯⋯気が付いたときには、そのペンや漫画を落とす位に手が震えている。その謎の症状ともいえる現象は、登校時のバスの中とか、周りに人がいる状態でさえ起こってしまう。授業中なんてその震えと戦うのに必死にさえなってしまう。


 しかし、その手は、なぜだかあることをしたときに、あっけなく震えが止まる。



 それは⋯⋯人の手を握ること。


 自分で体験した。教室で一人で本を読んでいるときに例の手の震えが起こった時、友達から、

「寒いの?熱があるんじゃない?」

 そう聞かれた。悟られまいと

「そんなことないよ」

 そう答えた。そうは言うものの、体が言うことを聞かないのだ。ブルブルから、がくがくにさえなりつつあるこの手を、

「ほんとに?こんなに手を震わせて⋯⋯」

 そう言って友達が握った瞬間。

「⋯⋯あ。⋯⋯止まった?」

 ぱたりと止まった。驚く位に突然のことだった。自分が隠そうとしていたにも関わらず反応をしてしまったくらいに。それを見たその友達は、

「は、はぁ?⋯⋯詳しく聞かせろ」



 それを考慮したことで、こういう答えが出た。

 自分は、孤独という状態に対応できなくなったんだ、って。

 友達には話した。(半分は強制尋問?)友達の方は、

「⋯⋯まぁ、わかったよ」

 と、とりあえずは認めてもらえた。

 だから授業中は手を握ってもらえる。たまに気づいてくれたりして。


 まぁ最終的に、『孤独』に適応できなくなった。

 だから、




「ん、どうしたの?」

 この時はすごかった。


 わたしとその友達ともう一人、吹部唯一の男子である彼(代名詞ですよ)。

 3人で自転車を押しながら歩いていた時、

「⋯⋯カク⋯⋯カ⋯⋯」

 と、隣から音がしたのだ。

 その方向を友達の話に対応しながら見ると、その彼が、あごの震えに戸惑っているように見えた。私と同じなのかなと思う位に。

 だから、

「ん、どうしたの?」

 そう何気なく聞いてみた。


 ⋯⋯だが、実際は逆だったかもしれない。


 彼はその瞬間、急に自転車に乗り、思いっきり漕いで帰ってしまった。


「あ、【彼】くん!?」


 そう呼びかけたが、答えてはくれなかった。

 大きな物から逃げている、そんな感じだった。



 とても、悲しく、⋯⋯怖くなった。



「⋯⋯どうした、【彼】は?」

 隣からその友達の声が聞こえたが、対応できなかった。


「⋯⋯⋯⋯!」

 私はその場にしゃがんだ。

 今日は手だけではない。


 手足もろとも、力が抜け、逆にこわばり、震えた。


「⋯⋯ちょっと?」


 友達に手を握ってもらっても、この時は一時は止まらなかった。



 とても、怖かった。




 後になって知ったことだが、彼は自分の反対、


 ――『ヒューマロスト』なんだと思う。

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