第9話

『誰も私の存在に気づかないの』

僕は目をパチパチさせてサヤを見た。サヤは悲しげに笑っていた。無理に笑っていた。

『どういう、こと?』

『そのまんまだってば。誰も、先生だって、私のこと知らないの。わからないの。おはようって言っても無視されて、怪我して血を流しても声すらかけてもらえない。目も合わせてくれない。その現状に耐えきれなくなって、辞めたの。私が辞めたことも知らないんだろうけどっ。』

いじめに遭っていたのかな、と僕は思った。先生も学校の問題にしたくなくて、無視していたのかな、と。

『それはさ、相談とかしなかったの?親とか。』

『しないし、しようと思ったってできない。』

『お母さん、厳しかったの?』

『お母さんと、話したこと、ないの。』


僕はなにも言えなくなった。先程から感じていた違和感がだんだん大きくなる。彼女は、サヤは、誰なんだ?


『なにその顔〜』サヤが笑顔で僕の頬をつねってきた。

『痛いよ。ねえ、サヤってさ、』

『ねえ、もう帰ろうよ。家帰ってハルは物語の続きを作りなさい!いいね!?』

サヤの目には涙が溜まっていた、ように思ったから、僕は帰ることにした。

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