#39 第二試合

 スキル「ストレス変換」で体力を回復する。

 この大会は魔法が使用できない、武器以外の道具の持ち込みも反則となる。しかし回復手段はそれには限らないのだ。


 柳の敗因は、それに気づくことができなかったこと。そして僕が常に携帯しているクナイの存在を知らなかったことだ。

 どんな強者であれど完璧ではない、回復できる状態ではないという凝り固まった認識が引き起こした己の慢心を悔やむ。



「はぁ……っ。どうなるかと思いました」

「いんや〜、一本取られたわい!中々やるの!立てるか?」

「ええ、有難うございます」



 重心が不安定になった体をゆっくりと持ち上げる、回復してもすぐに感覚は戻る訳ではないからだ。

 そして、相手と握手を交わす。鬼は好戦的であるのに付け加えて戦いという行為を勝ち負け関係なしに互いに讃え合うのだそうだ。ちょっと僕にはわからない感覚だけど……それでも悪い気分ではない。


 しかしやっぱり鬼って、力強いなぁ……試合時間は数分程度だったが既に体がなまじキツい。これで二次予選っていう事実、三次予選はもはや通るかも怪しい。



『おおっと、Bブロックの決着がついたようだ!勝者は覆面マスクだあぁぁっ!』


 おおおおおぉぉぉぉぉっ!

 やるじゃねーか!

 次の試合もがんばれよー!

 


 試合終了後に声援が飛んでくる、驚くことに罵倒などのフレーズは一切聞こえてこないのだ。

 今の勝ち方は正直グレーゾーンだと思われても仕方のない様にも思えたのだが、鬼特有の勝てばいいという思考なのだろうか。そこらへんは正直よくわからない。


 辺りを見ると、僕以外の選手たちはまだ試合をしているらしい。

 僕はその様子を見届けながら僕は試合終了の開放感とともにアリーナを去ったのであった。



  ***



 試合終了後は大会が終わるまで、観客席にいることにした。

 一応今日の試合が全部終わったらシード表が発表されるという感じだ。大体の選手はこれを見て相手の対策をするらしいが、その愛twのことを知らない僕にとっては正直関係のないものだ。


 人の少ない後部座席を狙い、適当な席に座ると何処からともなく二ファがやってきた。



「お疲れ様にゃ!感想はどうにゃ?」

「生きた心地がしませんね……主に緊張的な意味で」

「まぁ頑張った方だと思うにゃ、とりあえず一緒に試合を観るにゃ」

「そうですね」



 ネルさんの出番はまだ先のはず、その前にどんな選手が現れるかだけど……。今日だけで試合が各ブロック16試合、合計64試合ある。

 正直観戦だけで疲れてしまいそうなプログラムだ、僕はこういうわいわいした空気にあまり慣れていないのでどういう目で見ればいいのかが分からない。選手として分析する感じで……いいのかな。

 取り敢えず目的は二人、マッツと例の鬼だ。その二人の姿を確認できたら寮に帰ってしまっても良いかもしれない。



『次の選手が入場するぞ!盛大な拍手で迎えてくれ!』


 という放送と共に、騒がしい会場内がさらに騒がしくなった。喝采が混じり合い、まるで大きな獣の雄叫びのようだ。この人たちの喉や体力、よく持つなぁ。

 そう若干関心の念を抱きながら、入場する選手へと視線を合わせる。



「ああっ!?」

「にゃっ!」


 間違いない!あの筋骨隆々の姿……男性の鬼と違い人間らしい肌色で、あの金髪のオールバック……。


「「マッツ!」だにゃ!」



 まさか本当に同一人物だなんて!心の奥で実は嘘なんじゃないかと疑っていたがこれで確信した。

 あれは紛れも無い、マッツ自身だ。身違えることなどあるものか、忘れることなどあり得なかった。僕にとっての悪魔である。


 マッツを観察していると、明らかに行動が不自然である。まるで誰かを探しているような……そんな感じに見える。


 っな──嘘だ!

 こっちを向いて……笑った!?バレているのか、姿を隠して変装しているのに?しかもこんな距離で、大衆の中にいるっていうのに。

 でも明らかに目が合った、まさかターゲット僕だっていうんじゃないのだろうか。



「アキ、あいつに狙われてるにゃ」

「……やっぱり見間違いじゃありませんよね」

「不気味すぎるにゃ、一体あいつは何が目的にゃ?もう──カメラさえあれば証拠を残せるっていうのに!」



 何をしでかすつもりだ?この大会で、何をするつもりだ。

 何を……。



「取り敢えずは様子見だにゃ、むやみに手を出したら運営にどやされるにゃ」

「……そうですね。何も起きなければいいんですが」

「あっ!アキ、Dブロックにいるあのローブ……もしかして例の鬼かもしれないにゃ」

「あれがですか?」

「確証はないけど、多分そうにゃ」

「多分って……」



 でもローブ上からじゃ正直鬼なのかも分からない、多分ツノの短い女性の鬼かな。体格的にも約2メートルって所だろうか?

 しかし何十人の鬼を倒したっていうのはちょっと信じれないかな。そう見たって普通の鬼だ。


 一体どうなるんだ……。無事大会が終わればいいけど、そんなことは流石にないよなぁ。

 そうして、試合開始の合図を境に、火蓋が切られるのであった。

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