#38 二次予選
『さて、先日は色々と大会に不備があったがそんなの気にしてちゃやってられないのがこの大会だ!二日目第二予選試合、これより開幕!司会・進行役は昨日に続き、私ことブルーオーガが進行を務めさせて頂きます!』
照りつける日差し……炎天下の中、大会が二日目に突入した。
選手達が戦う「アリーナ」は四つのブロックに分かれており、早めに試合を消化させるために予選は同時に各ブロックで1on1が繰り広げられることになる。
ネルさんがAブロックで僕はBブロック、二ファ調べによるとマッツはCブロックにいるのだという。
目をつけている鬼に関しては、名前が不明なもので「アリーナの出てくるまでわからない」のだそうだ。
ちなみに選手の控え室は二つに分かれていて、それぞれAB・CDブロックの選手が控えている。なのでこちらからはマッツの動向は掴めない。
気掛かりに思うが今は考えても仕方ないと、イメージトレーニングをして平常心を保つ。
暫くそうしていると、センスの欠片も無いリングネームがアナウンスで響いた。それは僕なのだが。
深く下ろしていた腰をゆっくりと上げると、筋肉痛が僕を襲う。動けないほどではないがこれがなかなかキツイ。
「出番だな、頑張れよアキ」
「勿論ですよ」
「珍しく自信ありげに言うな?」
「特訓しましたから……なんて言っても少しだけですが」
「まあ下手さえしないかよほどの相手と当たらない限り大丈夫だな!」
「それはフラグなんじゃ……」
「フラグ?なんだそれ」
「何でもないです、とりあえず行ってきますね」
とベンチを立ち上がり控え室出口の扉に手を掛けようとした時、それに続いて一人の鬼が控室を出る。Aブロックの選手か、あるいは僕の対戦相手なのだろうか。
そんなことを考えながらも、係員の案内に従いアリーナへと出る。
『さぁ!第二予選、最初の試合を飾るのはこの選手達だ!』
ワアァァァァァァァッ!
僕を含めた各ブロック二名、合計八名の選手が出る。それと同時に歓声が舞った、真夏日の暑さにも負けないほどの熱気が会場を包み込み、まるで空気が沸騰しているような錯覚に陥ってしまいそうだ。
砂の敷き詰められたアリーナの中心には何をイメージしたのか分からない様な不思議な形の銅像が飾られており、それを中心に各ブロックに合わせた四つのバトルスペースが設けられていた。
指示に従い、Bブロックのエリアへと向かう。そしてもう一人と対峙する形で向き合う事となった。相手は老人の……鬼だろうか。輝いている妙に雄々しい一角に、鬼では珍しいヨボヨボの体つき。そして仙人のような白髪と地面に着いた見事な長ひげが特徴的だ。
鬼特有の大きい図体は無く、身長も一般的な人間の老人に近い。でも油断は出来ない、相手は鬼だ……。
相手になるべくなめられないように、プレッシャーを振り払い出来るだけ堂々とする。沢山の観客に見られているのかと考えてしまえば、緊張で足がガタガタと震えてしまうだろう。
そしてその緊張を更に駆り立てる様にアナウンスが会場全体に響く。
『さぁさぁさぁ!やってきました一回戦!誰が勝っても誰が負けても、悔やみっこ無しだああっ!』
お互いに歩み寄り、目の前の老人と握手を交わす。これは戦いを始めるために必要な礼儀的なものらしい。
「お前さん若いの。この手からするに
「えっ!?」
「お見通しじゃよ、マスクくんと言うたか?わしの名前は
「は、はぁ。よろしくお願いします……」
軽く礼をして、また互いに距離を置いた。
手を触っただけで分かるなんて、この人只者ではなさそうだ。暑さのせいか、はたまた緊張のせいか蒸れた覆面やコートの下を汗がぬらりと伝う。
相手の武器は、多分……棒かな?一メートル以上はある。
棒術?一体どんな攻撃を仕掛けてくるんだろうか、一瞬たりとも気は抜けない。
『さぁー準備も整ったところで、第一試合を開始します!──それでは健闘を祈って…………いざっ、開戦だああぁっ!』
開幕の合図とともに観客のボルテージが大合唱を起こし、それは闘技場に響き渡った。
その一瞬で体を貫くような緊張が僕を襲う、まさに一触即発だ。
両者一歩も動かず、押すことも引くこともないような状況下だ。
しかしその状況が続くにつれ、時間が体力を奪っていく。そして痺れを切らし最初に攻撃を仕掛けたのはリュウであった。
「きえええぇいっ!」
相手がどこに攻撃をするのかを見定める、正面……横から、下から。考えてもしようがない!
相手の動きに合わせるように鉄線を懐から取り出して構えると、奥義を広げて受けの構えを取った。
「そいやぁぁっ!」
ブンッ!と棒がしなり勢いよく空を搔きわける。
突き、そして下段!脇!
相手の行動に合わせて咄嗟の回避、一歩手前をよく見て先読みでの回避、よし見切れる。なんとか避けれているぞ。
慌てずに冷静に、一挙一挙を確実に。
「ほほぉ鉄扇使いか!若者は剣か金棒が好きなものかと思っておったんじゃがの!ほっほっほ!」
「それはどうも!」
喋る余裕は正直ない。集中がどうにも乱れて……まずい!
棒が僕の胴を掠める、早い、集中しないと一瞬でやられる!
そしてその気の綻びを突き崩すように的確に相手は攻撃を繰り出している。
段々と行動に反応速度が追いつけなくなって、行動が読めなくなってくる。
仕掛ける?
いいや、まだか。
いや、攻撃したほうがいいのか!?
「ほれほれほれ!避けたり守ったりばっかでは落ちるぞい!」
「う、うわっ!」
気づけばいつの間にか土俵上の端にいた。落ちたら失格だ!
攻めるしか……!でも棒が邪魔で近付けない!
いや、待つ!目的の攻撃が来るまで!
上段からの振り、横からは受け止める、下からは鉄扇でなんとか受け止めて……よしきた、突きだ!
「どうですか!」
「んおおうっ!?」
相手が突きを放った瞬間、体を横にずらし勢いよく棒を片手で掴んだ。
そしてそれを勢いよく、引いて──立場を逆転させる!
その目論見通り、バランスを崩した老人、リュウは僕と入れ替わる。
「よし!形勢逆転!」
もう少しでこの台から落とす事ができる、そうすれば僕の勝ちだ!
「ふぉふぉふぉっ!甘い甘いぞ小童あぁっ!」
乱暴に棒を振り回した老人は、見境なしに攻撃を始める。
「うわっ!?」
明らかに曲がるほどに力の込められた棒は、地面の盤を砕く程の凶器へと変貌する。
もうそれ棒である意味が無いのでは!?
いきなりの猛攻にたじろぐが確実に避けて行く。でもどうすれば、これじゃまるで攻撃できない!
やっぱり鬼は鬼だということか、その体型からは信じられないほどのパワーだ……。
「ひょひょひょ!小童相手だから手加減したがもうええわい!」
「はあっ、本性現しましたね!」
「手加減無用!行くぞぉぉぉぉっい!」
一瞬追い詰めていたはずなのにいつの間にか一転攻勢、また追い詰められているぞ!
どんどん地面が抉れていって……安定した足場がなくなっていく!このままじゃバランスを崩してやられる!
何か穴はないのか?確実に相手の首を取れるような穴……。
いや、頭が冴えない!考えることができない!こんな状況でどう思いつけというんだ!
「おひょっ!」
攻撃を受け流そうとするが虚しく、耐えきれずに持っている武器は宙を舞った。
「ああっ!武器が!」
そして遂に、一撃が僕の腹わたへと叩き込まれる。
「ほほーっ!」
「ぐっ……あっ!」
そのまま胴体が打ち上げられて数メートル吹っ飛ぶ、呼吸ができない。激しい鈍痛が神経を通して全身に行き渡る。痛みを通り越して意識が消えそうなほどの強烈な一撃だった。
地面に打ち付けられると、視界に赤い空が見える。横を向くと、あんな遠くへ飛んだ武器が……この状況じゃ拾えない。
意識が朦朧として頭がっ……働かない。
これで負けるのか?このまま負けていいのか?
駄目だ、でももう勝機なんて──体がボロボロだ、血が出ているのかさえ分からない。痛みも最早分からないほどの衝撃だ。
「おっと、ちとやりすぎたかのう。すまんのー」
「……うう゛っ」
「武器もないしの、もうこれは勝ちじゃな」
老人がこちらに近づいて、ゆっくりと腰を下ろすとこちらを見下ろした。
「審判!判定を頼むぞい!」
まずい!このままじゃ負けてしまう!
でも体が動かない。
一体どうすれば。
そうだ。
……いけるか?もしか体が動くなら、いけるはずだ。
きっと十分なはず……!
これで!
その時、審判が駆けつけて判定をする。
「Bブロック勝者、
「どうした!」
「訂正、覆面マスク選手の勝利です!」
「はぁ!なんじゃっと!?わしの勝ちじゃろがい!」
「い、いえ。ですがこの状況はどう見ても……」
「どう見てもなんじゃい!」
「いや、ほら下見てください」
「見ろとな、んん?……なっ、なにいっ!?」
下の方を見た柳は、驚きのあまり開いた口が塞がらないという感じだ。
柳は気づいた。
己の喉元に突きつけられたその刃に。
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