#37 閉店中
「うーんと、問題点を挙げるならこうにゃ。『マッツはなぜこの大会に出ているのか』と『この鬼たちを倒したやつの正体』にゃ」
「そうですよね……」
鬼の問題に関しては一旦無視するとして、明らかな問題はマッツのこの大会への参加だ。
一旦病院の外へ出て二ファと情報を整理してみることにした。
まず、この武闘大会にはマッツが参戦していると言う事だ。もしかしたらただただ名前が被った可能性も考慮は出来るが、敢えてその考えは排除することとする。
すると、なぜどの様な目的でこの大会に参加したかが重要になるが、僕は彼の事を知らないのでこれについては不明。二ファもこれに関してはサッパリだと言う。更に居場所も分からないと迷宮入りの様な状態、僕たちはこれを一旦見送り、試合でマッツの姿を確認するべきだという結論に至る。
なのでその件の計画の実行は明日だ。今日はその代わりに別のことをする。
それが昨晩発生した喧嘩の件だ。
とある鬼が数十人の鬼を返り討ちにしたと言うもので、これに関しては目撃者と被害者共に多数おり実際にことがあったのは揺るぎのない事実だということが分かる。
正直調べなくても良いとは思ったが、マッツと関係している可能性がゼロでは無いのでこれに関しても調査することになった。
そして今、その闘争が起きた場所……とある酒場の前に来ているのだが。
「うっわー」
「うわぁ……」
「ひどいにゃ」
「ですね」
酒場は、地上から階段で繋がっており、地下に店を構えている。間に合わせのような作りで”臨時休業中”と書かれた看板。ガラス張りの扉からは内部がよく見え、若干店が傾いているようにも見える、とても大丈夫なようには見えなかった。
ガラス壁から通して見える光景は「悲惨」という二文字をこれでもかと言う風に体現した、無法地帯どころの騒ぎでは無い様子だ。
あちこちに転がったビールジョッキ、まるで漫画のように底の抜けた人型の穴、逆さまになったテーブルに椅子、辺りに散らばる食事、散らばる血痕。
そこで激しい戦いがあったことを示している。
中に入ると、オーナーっぽい男の……人間が、せっせと慌てて清掃をしている姿が見えた。二ファは取材メモをサッと取り出すと、男に近寄り声を掛ける。
「ちょっといいかにゃ〜?」
「……ん?んん!?な、何ですかね君たちは!今は閉店中なのですよーっ!」
「やーすまないにゃ。取材をさせてくれないかにゃ?」
「取材……ですと!?ふーむ」
多少強引に詰め寄る二ファに多少おどおどした様子の男性は、その青眼鏡を正しながら答える。
片手に持ったモップをくるくると回しながら、何か考えるようにしてもう片手を顎に添える。そうして少しの沈黙が訪れた後、彼の口が開く。
「わかりました。どうせ閉める店、なんでも聞くが良いでしょう!」
「おっけーおっけー、んじゃ昨晩のことを聞きたいにゃ」
「昨晩?もしかして取材とは鬼の件ですかな?」
「そうそう、何か知っているかにゃ?その、犯人について」
「あーうん、あの迷惑客のことですな」
迷惑客……。まぁそうだよね。
「鬼が好戦的な種族とは心得ていたつもりなのですが、まさかここまでやられるとは思いませんでしたよ」
「知り合いかにゃ?」
「初対面ですとも。驚くほどの食欲でしたよ全く、そのお陰でうちは破産ですよ!……おっと、申し訳ない」
「特徴を教えてくれるかにゃ?」
「ローを深くかぶっていたので顔は確認できませんでしたが。多分女性の鬼……ですかな」
「他に有力そうな情報とかはあるかにゃ?」
「確か武闘大会に出るとか出ないとか──」
武闘大会……!そこに繋がるか。
二ファと顔を合わせ、互いに頷いた。
「ふぅ、そろそろ私も掃除が残っておりますので。ここいらでよろしいですかな?」
「ありがとにゃ!じゃ失礼するにゃ!」
「ええと、ありがとうございました!」
僕たちはそのまま店を離れることにした──
「何だったんですかねぇあの方々……まあ良いですとも。早く私も荷造りをしないとですね」
***
その後僕たちは寮に戻り、そこで話し合う。
「まぁというわけで、明日の試合で犯人の存在を確認することが目標にゃ」
「僕はどうすればいいですかね」
「アキは何も考えずに戦いに専念するにゃ」
「わかりました、お願いしますよ」
「おーい!何話してんだ!」
後ろから声が掛かった、もちろんその主はネルさんである。
「試合、終わったんですか?」
「ん、まーな」
「勝ったかにゃ?」
「そりゃもちろんだぜ!んで二人して何してたんだ、試合が終わったから一緒に観ようと思って観客席とか回ってたんだが?」
「あー、まぁちょっといろいろな事情がありまして」
「ネルは信用に足る人物だと思うから、話してやらんこともないにゃ」
「えっ!?いいんですか!」
そうしてちょっとした経緯、マッツの存在についてや鬼のことについても話した。
一部隠したこともあったが、それでもある程度理解できる程度には。
するとネルさんまるでそれを気にしないように笑い飛ばす。
「ははぁ、なるほどな……よし!そのマッツってやつと強い鬼と当たったら、俺がぶっ飛ばしてやるぜ!」
「本気ですか?」
「あーしから言ってもそれは無謀だと思うにゃ」
「無理だと思ったら一生無理だぜ?まずは信じてみることだ、かっ飛ばしてやる!」
そんな訳で、その後僕はネルさんと練習場へと向かい、悩みが吹っ飛ぶほどきついトレーニングをするのであった……。
若干筋肉痛になって翌日の朝、支障が出たということは本人には内緒だ。
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