#32 大和大陸
「ここが……大和大陸ですか」
「あぁ!中々良いところだろ?」
マルクリアからドラゴンに乗せられて、約三時間。僕たちは
辺りは既に暗くなっており、雲の合間からは月がこちらを覗いている。何故だろうか、この大地から見上げる月は他の場所より一層美しく見える。
本来ならばこの大陸に辿り着くためにはもう一つの大陸を経由するのが基本らしいが、ドラゴンのお陰でその面倒な移動も省くことができたようだ。
「ありがとな、リューさん!」
「えぇ、とても貴重な体験でした」
「例には及ばぬぞ、さて。俺は朝になるまでしばしここで休む」
ドラゴンはそう言い残すと、ゆっくりと瞼を閉じ、その場で眠りに就いた。
すでに寝息が聞こえるのを考えるとかなり疲労していたことが分かる。
「よしっ、んじゃ折角だから俺らも野宿だ。いいかアキ?」
「はい……なかなか慣れないですけど。大丈夫ですよ、それよりも──」
「にゃ〜」
僕の隣で鳴き声がする。
「いつの間に来てたんだよその猫!気がつかなかったぜ……」
どうしよう、このついて来てしまった猫は。
流石に元の場所に返すことは出来ないし……だからと言っても危険だから連れてく訳には行かないし、置いて行ったら置いて行ったでアレだなぁ。
「ふふん、それなら心配する必要は無いにゃ」
「それなら安心──って猫が喋った!?というかその声はもしかして!」
「なんだ!?こいつケットシーかよ!」
「ご名答!あーしはケットシーの二ファ!『元情報屋』だにゃ」
って言うことは、僕にわざと着いて来たってことか!?
と二ファはくるりと変身する。
するとみるみると体格は先程の数倍となり、四足歩行から二足歩行になる。何処からともなく現れた洋服が謎を呼ぶが、気にしないほうが良いのかもしれない。
「なんで付いてきたんですか!?と言うか、証拠の方は……」
思い出した、昨日の事件が起きた時、彼女はレコーダとカメラを使用し現場を押さえていたはずだ。
「知り合いの新聞社に音声と映像を提出は、一応したんだにゃ。でも見事突っぱねられて、取り合ってすら貰えなかったにゃ。丁寧に録音機とカメラもぶっ壊されて、もうあーしにはメモしか残っていないにゃ………」
二ファは酷く項垂れた様子だ。
きっとエラリスの方で色々あったのだろう、正直二ファがもしかしたら事件をなんとかしてくれるかも知れないと考えていたが、それは無理な様だ。
仕方ないだろう。
「それでも、なんで着いてき──
「いや、待てよ!置いてけぼりだぞ俺!すまん、状況を説明してくれないか」
「あっ……そうですよね、ネルさんは初対面でしたね」
いろいろ説明しようと思ったけれど、事件の詳細までネルさんに話す必要は無いか。ちょっとした紹介程度でいいだろう。
「この方はケットシーの二ファ。ちょっとした知り合いなんですよ」
「よろしくだにゃ!」
「なるほどな、宜しく頼む」
するとネルさんは二ファに対して手を伸ばした。
「握手かにゃ?」
「ああ、俺なりの挨拶だと思ってくれ」
「わかったにゃ」
二人は握手を交わす。鱗で覆われた手と、肉球が互いに触れる。
しかし、すぐに二ファは手を離した。
「うわっ!湿ってるにゃ!びっくりするにゃ!」
「ははは!すまない、俺はネーラ・オルディスだ。種族はマーマン、よろしく頼む」
「水棲の魔物かにゃ、陸にいて平気なのかにゃ?」
「ああ、肺呼吸もエラ呼吸もいけるぜ。水に入ると姿が変化するんだ」
それは初耳だ、ってそうそう。
話が脱線したけど聞かなきゃいけない事がある。
「二ファはどうして着いてきたんですか?」
「うっ、それは……まぁ。ネタの為だにゃ」
「ネタ?」
「だって!納得いかないにゃ!私はでっかいネタを掴んで、編集長をギャフンと言わせてやりたいんだにゃ!」
「それでも、僕である理由がありますか?」
「異世界人だからにゃ!アキに着いて行ったらスクープが手に入ると思ったんだにゃ!」
「お、おい?アキ、異世界人って言うのは……」
地雷──!圧倒的地雷を持ち込んできた!
そうだった、この人が異世界人の噂を流した張本人なの忘れてた!
「異世界人っていうのは、ほら。あれです」
「あれってなんだ?」
「僕、小さな『イセカイ村』っていう場所の出身でして、なのでイセカイ人って呼ばれてた事があったんですよ」
よくもまあこんなにするすると嘘が出て来るなと、自分の頭の回転に感心してしまいそうである。
しかも全然援護できてないし、嘘下手だし。
あとで二ファさんには注意しておこうか。
「あー……なるほどな。わかった」
「本当ですか?」
「ああ」
よかった……えぇと、ここまでの話を整理すると。
「普通に興味があった」程度で良いのだろうか。
「でも、お金無いですから多分僕とネルさんでいっぱいいっぱいですよ」
「にゃ!?断るつもりかにゃ!?」
「アキ、いいじゃないか。旅は道連れって言うだろ?なぁ二ファ」
「そうだにゃ!それに、好きなだけもふもふさせてあげるにゃ!」
「いや、うーん」
もふもふかぁ。
いや、でももう所持金2万だし、いやそれでも猫、猫は……。
どうする。
安全を取るか、欲望か。
**********
夜が更けて、太陽が昇る。
「よし、行こうぜ!」
「ごーごーだにゃ!」
「はぁ……」
猫には勝てないや。
うん、癒しがあるっていうのは偉大だ。構わず全力でもふろうと、若干ヤケクソ気味に二ファの頭を撫でる。
「なかなかこそばゆい感覚にゃ」
うわ、最高。いつまでも触っていられそうだ。
──このまま堕落の極みを突き進む未来しか見えない、誘惑を振り払う様に撫でるのはやめてなんとか自我を保つ。
そこで僕たちを先導していたネルさんが急に立ち止まり、こちらを振り向く。
「そうだアキ、お前どこに行くって言ってたっけ?」
「ええと、大和国の……あれ、どこだっけ」
「そのままでいいだろ、大和国は一つの都市で一国家なんだ」
「世界常識だにゃ」
珍しいな、じゃあ大和国は国としてはかなり小さいのかな。
もしくは巨大すぎる国……は無いか。
「そうだな、ここが大和大陸の西のはずだ……なら鬼の国を通る事になるな」
「お、鬼!?鬼ってあの伝説上の生き物の、鬼ですか!?」
「何を驚いてるにゃ、鬼は妖怪の中で唯一国を持つ超種族なんだにゃ!」
国を?妖怪の中でって事は、この世界にはそれ以外にもたくさんの妖怪がいるって言うことなのか?
というか鬼が国ってなんだ、鬼なんて存在が、沢山居るのだろうか?
これが……大和大陸?名前だけなんて思っていたけど、本当に日本じみた場所だ。勿論元の世界では鬼なんて見た事はないんだけど。
「おーい、アキ。何ボケっとしてるんだ?行くんだろ!大和国!」
「……はっ!?ああ、はい。もちろん行きます!」
これはまた随分と非現実的な話だ。
この異世界の存在自体非現実の塊みたいなものだが。
「うわぁーっ!撫で過ぎだにゃ!」
鬼か、一体どんな種族なんだろう。
早速、この大陸の洗礼を受ける秋なのであった。
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