#33 金は盲目
大和大陸に到着してから早一日、やっぱり電車が無いから移動が大掛かりで辛いな。
それでも荷物は
なので大体は雑談で暇を潰している、あまり話すことは得意では無かったが、この世界の人達がかなりアクティブな事もあってか僕もそこそこ話せる様になった。
自分から話を切り出すことが出来るようになったのが特に大きいだろう。
「あぁ、ネルさん。この大陸のことについて知ってる事ってありますか?初めて来たんですよねここ」
「そうだな……ここの大陸はかなり異色だな。冒険者という概念が薄い」
「え?それってどういう」
「すまんな、それくらいの知識しか無いんだ。詳しく聞くなら二ファの方がいいんじゃないか?」
「確かに」
人それぞれ知識の幅が違う。ネルさんはたくさんのことを知っている”広く浅く”タイプなのに対して、二ファは特定の情報に対して強い”狭く深い”タイプだ。
なので冒険者をやってた二ファに聞けば、色々と分かるだろう。………彼女は興味のないことに対してはとことん弱いのだが。
「確かにその通りだにゃ。説明すると、この大陸には冒険者ギルドがないんだにゃ」
「それじゃ、冒険者の身分証とかは……カードって通るんですか?」
「そこは安心するにゃ、でも冒険者が少ないから当然……周りを見るにゃ」
「あー」
周りにいる不思議な生物達……やっぱり、アーリエなのか?
二ファの方を見ると、コクリと頷く。
「冒険者の存在が薄いから、アーリエたちが繁殖しまくってるんだにゃ。でも不思議なことに、こちらから何かしない限りは大人しいのにゃ」
「そうなんですか?」
「あーしは、アーリエ達が凶暴なのも、環境のせいだと睨んでいるにゃ」
「環境、ですか……」
「そうにゃ!この子達はきっと、敵が居ないから襲うことを知らないんだにゃ、極端な話、冒険者なんて居なければ、共存できるかもしれないにゃ」
共存か。
アーリエ、この世界に巣食うと言われている未知の生命体。多くは宇宙から来たと言われており、殆どが不思議な見た目をしている。
二ファの言う通り、確かにここにいるアーリエ達は、僕たちを不思議そうな目で見るだけで、襲ってこようという敵意が見られない。
まるで提灯のような姿をして、さらに炎を纏っているアーリエ、矢印のような姿をしており、何かを訴えかけるようにあたりをうろうろしているアーリエ。
いったいどのような星で生まれ、どうやって育っているのか。
僕たちが最初に出会った「レイ」というアーリエは、機械の見た目でありながらも繁殖能力があった。
もしかしたら、外来生命体というだけで敵視されている彼らは、元の星ではペットのような存在だったかも知れないし、生物兵器だったかもしれない。一体何なんだろう、彼らって。
正直あまり戦った事ないし、寧ろ暗黒大陸で魔物を狩った数の方が多いのではないか。
「まぁそれはいいとして……アキは、平気なのかにゃ?」
「ん?何がですか?」
「何ってそりゃ、先日の事件の事にゃ!」
「あぁ……あんまり思い出したくない、あの」
「アキは淡白過ぎるにゃ、もうちょっと怒ったり悲しんだりとか、しないのかにゃ」
えぇ、そうは言われても。
どういう反応をすれば良いんだろう。
「別に、あの人達は騙されただけでしょう。そりゃ、マッツは許したくないし、柊だって、なんでああなったのかは分からないですよ……」
「もうちょっと自分の感情を吐き出すことも大事だにゃ、ストレスでぶっ倒れるにゃ?」
「こいつ、実際にぶっ倒れたんだぜ」
「にゃ!?………アキはおかしいにゃ。どうしてそんな我慢するんだにゃ」
「それは……」
だって、それは怖いから。
それで大切な人が消えてしまった時の絶望感は、計り知れない。
僕のせいで、また人が消えるかも知れないんだ。だから怖い、感情をむやみに吐き出すのは苦手なんだ。
そう僕が俯くが、二人は仕方ないといった様子で別の話題を切り出して僕を和ませようとしてくれた。
僕もそれに乗っかり、また何気ない雑談をしながら歩き続けるのであった。
**********
もう少し歩くのかと思っていたけれど、意外に距離が近かったようで、僕たちは日が暮れる直前に鬼の国へとやってきた。
関所には警備がおらず、中へはすんなりと入れそうだ。一度入り口の前で立ち止まる。
「国と言う割には、小さいですね」
「そうだな、かなり小さい方だ」
遠目から見えた時、国の端から端が視界に収まる距離だった。ネルさんは直径数キロ程だと見立てているようだ。
しかしそんな推測に、二ファがやれやれといった感じで首を振る。
「違うにゃ、あくまでもこれはただの街だにゃ」
「あれ、じゃあもっと鬼の国は大きいんですか?」
「違うにゃ、大国っていうのは鬼たちが主張しているだけで、実際は街。だからそもそもここは国じゃないにゃ!そこ、間違える奴等が多いんだにゃ!」
「国じゃなかったんですか……」
「俺も初耳だな、勝手に国だと思い込んでいたぜ」
「まぁそれでも街を持つ妖怪は鬼だけにゃ。人口は鬼だけで数万、魔物だって一種族でそこまで繁殖するのは珍しいから、すごいことには変わりは無いんだにゃ」
へぇ……そうだったのか。
確かに、鬼だけで数万って明らかにおかしいよなぁ。……街中に入ったらとって喰われるとか、多分無いと思いたいんだけど。
「それと朗報だにゃ。鬼の街は外界からの情報を遮断しているから、アキの噂も届いてないと思うにゃ」
「えっ、そうなんですか。確かにそれなら少しは楽ですかね」
「まぁ多少の変装はしたほうがいいと思うぜ」
「それと気をつける事は鬼に、食われないようにすることにゃ」
「食べられるんですか?本気で言ってます?」
「嘘だにゃ、にしてももうちょっと驚いた反応するにゃ〜……弄りがいのない」
「なくて結構です」
そしてしばらく会話して、方針を決めた。
その結果「鬼の街に一泊して通り抜ける」になった。確かに、お金も無いし旅は早く済ませた方がいい。
大和国に到着してからの計画は……考えてないけど。なんとかなると思いたい、かな。
そして、一番安い宿に泊まり、一日を過ごしたのだった──。
次の日、鬼の街をすぐ出る事にした。
街は小さく、数時間程歩けば出られるらしいので、それまでに観光しながら歩く事になった。
「しかし、あのベッド。ゴツゴツだったにゃ!石とか、ありえないにゃ!」
「俺は新鮮で良かったぜ……ま、1日だけでいいなああいうのは」
「二ファは僕の腹の上で寝ていたでしょう、猫の姿になってたと言っても地味に重かったんですよ」
「なんてこと言うにゃ!魔物にも気にしていることはあるんだにゃ!」
なんて、二ファのそのぷにぷに感が丁度いいんだけど、そんなこと言ったらきっと怒られると思い口を
そして歩いていると、路上ビラ配りをしている鬼の女性が居た。
そうだ、鬼の姿についてだけど、僕の想像していた鬼は半分正解で、半分違うと言ったところだ。
鬼は性別によって体格が大きく違うらしいのだ。
鬼の男性は、赤みがかった肌をしており、巨大なツノが生えて、体格が大きく三メートル程だ。
対して女性は、肌の色が人のそれに近く、ツノもちょこんと小さい。すらっとしている鬼もいるし筋肉質な鬼も、身長も基本的には人間と同じなのだが、たまに2メートルに到達する程の女性も居る。
そんなことを考えつつ、ビラ配りの女性をスルーしたのだが、二ファが紙を受け取ったらしい。それをネルさんが覗き込む。
「にゃ!?……こ、これは!」
「まじかよ!大変だぞアキ!」
「えっ!?まさか……!」
僕は焦りが募ると、急いでその紙を見る。……だが、予想していた内容とは違うものだった。
しかし、とても興味をそそられるような内容であったことも事実だ。
*第678回鬼武闘大会開催!エントリー受付中!*
優勝者には100万マートと金のトロフィー
準優勝者には50万と銀のトロフィー
断定三位には10万と銅のトロフィー
『『『100万マート』』』という文字に、三人して釘付けになった。
そして一番下に小さく”鬼以外も出場できます”と書かれた文字が。
「にゃ、二人とも……どうするにゃ?」
「どうするって、そりゃあ」
「これは……うん」
勝てるとか勝てないとかは、関係無い。
三人の心は、同じだ。
───お金が欲しい。
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