#10 神速

「さあ、共に行動するとなれば自己紹介するのが冒険者の基本。自己紹介をさせてもらう。俺はマグル、職業はアサシン、言っておくが俺はSランクだぞ。そちらはどうなんだ」

「なっ!?Sランク……。──わ、私はラクト・リアン・セス・クローク・アーサーだ。ラクトと呼んでくれ。職業は勇者、Bランクだ」

「あーえっと、僕はナカムラアキです。アキが名前、職業はスナイパー。Eランクです」

「私ヒイラギ!職業はナイトで、Eランク!」


 それを聞いて、マグルは嘲る。

 まるで見下すかのような態度で。


「勇者がB?最近の勇者は劣ったものだな、そして連れの二人はなんだ!勇者のパーティであるにも関わらずEランク!そして職業もクナイでスナイパー、刀でナイトとまるで武器と職種が噛み合っていない。法螺を吹くのも大概にしてほしいものだ」


 やっぱりダメだったんだ──遠距離だから一応スナイパーにしたけど、失敗だったかな。柊も何でガード役のナイトにしたか分かんないし……。

 まぁバカにされるのは当然だろう。何度も言われてる事だ。

 けれど、流石にラクトさんは黙ってないかな、これ。


「何を言う!ランクなど……私はまだ、旅立ったばかりなんだぞ!何より気に食わないな!二人を馬鹿にするのはやめてほしい!」

「まぁいい、着いて来ると言ったからには役に立って欲しいものだが。安心しろ、俺は寛大。なんなら貴様らの分まで働いてやってもいいのだぞ」

「何でそう突っかかるんだ!……もういい!とりあえず行くぞ、秋くん、柊くん!」

「うー、わかったよ」

「了解、です……」


 はぁ、なんかもう、最初から険悪だし大丈夫かなこの人たち。

 あんまり争い事は好きじゃないから波風を立てるのもやめてくれたら良いのだけど、そういう問題じゃないよなぁ。

 

 因みに先程話に出てた通り、冒険者にはランクがある。内容はこうだ


S * その職業でのエキスパート。一流をさらに極めた、極地

A * 一流。かなり強く、一般の冒険者はこれを最終目標としている

B * 二流。結構強い、大半の依頼はこなせる様に

C * 三流。ありふれた強さ、一番数が多い

D * そこそこ

E * 誰もが通る道、できれば早く抜け出したい


 まだ僕たち兄妹はE、どんなに強かったとしても最初はここからだ。だからと言って僕たちが強いってわけでもないんだけど、ラクトさんには今はDランク相当だって言われたし。受けられる依頼も報酬額が少ないものばかりなので早く昇級あがりたいとは思うが……。


「着いてこい、盗賊団のアジトはもう突き止めてある」

「では行こう!早く案内してくれないか」

「はぁ。頑張りますか」

「やっつけるぞー!」


 こんな成り行きで盗賊団を襲いに行くのもどうかと思うけど、この世界では僕の常識は通用しないんだよな──。

 まずアーリエを平気な顔して倒すことが信じられないし、平気で人が死ぬ世界。まともな精神でいると僕の体力がゴリゴリ削られていくようだ。



**********



「ははは!ここがその盗賊のアジトだ!」


 そう案内されて来た場所は、村から数キロ、岩山の麓にある小さな洞穴だ。

 入り口は七十センチほどで、しゃがまないと入れず、気付きにくい様になっている。

 頭上に注意して、中に入る。中は暗く湿っており、奥には暖色のほのかな明かりが見える。


「獲物がきたぞ!」

 その言葉に反応し、洞穴の奥から人の声が聞こえる。

「敵襲だ!」


「ふん。見張りか、敵襲を知らせたのだろうが、それだけで止められる俺ではないぞ!」

「まずい、奥から人が来る!二人共準備を!」

「おっけー!」

「出来るだけ、やってみせましょうか」


 早速気付かれた様だ、相手は盗賊団。そもそも勝てる相手なのか?S級冒険者と勇者様がいるからって油断ができる相手ではない。

 クナイを手に取り、準備をする。


「うおおぉぉぉぉぉーっ!敵襲じゃー!」

「かかれかかれ!」

「ヒャッハー!」

「うわ、どこの世紀末ですか!?」


 敵勢力は数十人、皆がたいが良くて強そうだ。

 対してこちらは僕含め四人だ。

 どう打開する──


「はっ!スキル『神速』!」

「マグルくん!一人で突っ込むな………な。な!?」

「はぁっ!?」

「なにあれ!?」


 マグルさんがスキルを発動した──瞬間。

僕の目には、彼がただそこに立っているだけのように見えた、なのに、何故。既に彼の攻撃は終了していた。


「ぐっ……はぁっ」


 バタバタと音が連鎖し、まるで物のように、人が倒れていく光景。

 一体何があったのか理解することさえ出来ず、戦闘は終了──。

 たった三秒の出来事だ。

 「雑魚め」と言い捨てると、マグルさんは小刀を懐にしまう。その場にいた彼以外の全員は、唖然とした表情でこの光景を見ていた。


「な、なんだ今の攻撃は!まるで見えなかったぞ!」

「──この程度の斬撃が見えないようでは、勇者と名乗るのには早すぎるな。言っただろう?『自身の強さを恥じることになる』と。偽りとでも思ったか」

「ばっ……馬鹿な!勇者である私がこんな意味も分からないアサシンに負けるなど、あってはならないはずなのに──」


 ラクトは地面に倒れ、地に膝を着いた。

 反則的な技、圧倒的強者を目の前にして足がすくんで動かない。

 彼女のプライドはきっと今にも砕けそうになっている。誰よりも努力してきたつもりだった、なのにそれを否定するかのように力を見せつけられた。

 勇者は悟る、あの極地に自分は至れぬのだろうと。自分程度では絶対に敵わないのだと、理解してしまった。


「ラクトさん……」

「げ、元気だそうよ!ね?」

「………すまない、ちょっと静かにしてもらっていいだろうか」


 そうして数十秒、放心した後に立ち上がる。

 心配し柊と一緒に近寄るが「平気だ」と朗らかな声で言う。それが偽りと知っていても指摘することなんてできなかった。


「もうなんて事はないさ。さあ、村長殿に報告しに行こう。結構遠回りしてしまったようだ」

「分かりました、早くこの穴から抜け出しましょう」

「じめじめするからねー」


 フォローも出来ない自分を恨めしく思うが、性格なのでしょうがないと言い聞かせる。できた人格者なんかじゃないんだから、柊のように明るくもないし……って、なんで僕がネガティブになり始めているんだ。気持ちは感染するから、怖いものだ。


 そのまま村へと向かったが、ラクトさんは笑顔を崩さないで堂々とした態度を取っている。それが彼女の本性なのか、それとも勇者としての皮なのか。何にせよそのメンタルは評価に値するものだと思う、なんて僕がこの人の何を知っているんだと言いたくなる。



**********



 無事、村へと戻り依頼を達成した僕たちは、ささやかな報酬を貰いエルム大陸を目指す旅に戻る。次の街へと続く街道を、雑談しながら歩く。


「村長さん、喜んでくれてよかったですね」

「それが私の役目だからな、誰かの役に立つというのは良いことさ」

「はは、僕には中々考えられないですよ」

「そーかなー。おにぃも頑張れば出来そうだけど」

「柊の方が向いてますって……にしても」


 チラリ、と振り返る。


「なんだ?俺に構わなくてもいいのだぞ」

「いえ、そういうのじゃありませんけど」


 ──結局付いてくるんだ。僕とラクトさんは思った。

 もしかしてマグルさんは進行方向が同じなだけかな、多分そうだろう。近くにある街はこの先にあるところしか無いみたいだし。



**********


 街に着いて、すぐ宿屋へと入る。

 今日は全員疲れているので、夕方ではあるが早めの休息だ。節約の為ボロ宿だが、野宿よりはやはりマシと言える。

 ラクトさんはすでに寝ており、僕も寝ようとしていたところだがなかなか寝付けなく起き上がる。

 ベッドの上で何を考えるでもなく足をパタパタ動かしてくると、隣の壁から会話が聞こえる。柊ともう一人だ。


「それでねー!私のおにぃ、そこで失神しちゃって!」

「ははは!なんだ、幽霊相手、しかもハリボテに気絶とは。かなりのビビリだな!」

「でしょ?もう本当おにぃってば捻くれた性格してるからそれを認めないんだよね」

「まぁ、男にはプライドがある。仕方ない──でも幽霊で気絶……はははははっ!」

「あー!?もうなんですか!さっきから!」


 全力で壁を殴りつけた。

 さっきから僕の黒歴史ばっかり掘り出して何がしたいんだ柊!そして。

 何で、マグルさん宿屋までついてきてるんだ……。

 というか部屋の振り分けおかしいって……。

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