第2章 〜最強のアサシン〜
#9 黒の男
「おお、よく来なさった。旅の方。ここはべレッド村……って、その胸の紋章はまさか!?」
「ああ。初めまして、私はラクト。アーサーの勇者だ」
「あの勇者様ですか!ようこそいらっしゃいました、歓迎の催しも出来ずに、申し訳ありません」
「なに、ただの一冒険者さ。それより、村長のところへ挨拶させて貰ってもいいだろうか」
「ええ、勿論です!お連れ様もこちらへ」
「分かりました」
村に到着して早々、見て回る暇もなく、僕たちはこの村の村長のところへと案内された。
村長の家は、他の家と比べても特に変わったところは無く普通の民家のようだ。玄関前には趣味だろうか、沢山の植木鉢が並べられており、綺麗な花がつぼみを膨らませている。
ラクトさんが、礼儀正しくドアを二回ノックする。
すると、少ししてドアが開き、中からは初老の男性が出てくる。
「おお、お待ちしておりました勇者様。私はこの村の村長です、隣の方はお連れ様で?」
「ああ、よろしく頼む村長殿。二人は私のパーティだ」
「アキです。こちらは妹です」
「ヒイラギだよ!よろしくねー」
「これはどうも、さぁ立ち話もなんです、家の中でゆっくりとくつろいでください」
「ありがとう、そうさせてもらう」
そうして中に案内される。
部屋の中は質素な様で、生活に必要ではない置物や、装飾などの最低限以外のものは置かれていない。しかし辺りには、外と同様に植木鉢や園芸道具が置かれている。やはり趣味なのだろうか。
奥まで案内されたところで、そこにある丸い木製の椅子に腰をかける。
「それで、依頼の内容とは?」
「え、ええ。実は最近、村の離れにある無人の小屋に、人が住み着いたようなのですよ。最近は付近で盗賊団の被害にあった村人もいるくらいで、その小屋を盗賊が根城にしているのではないかと」
「なるほど、小屋を調べて、盗賊がいたらひっ捕らえて欲しいと」
「要約するとそうなります……それでお願いできますか?」
「もちろんだ!私は勇者、そういう事こそ私のやるべきことだろう。任せてくれ」
「まかせてー!」
「何とも頼もしい──ありがとうございます勇者様方!」
「時間も惜しい、すまないが私達はもう失礼するよ」
「あっ……そうですか」
ラクトさんが席から立ち上がると、それに僕たちも反応して立ち上がる。
そうして村長の家から出て行ったのであった。
正直そこまで急ぐ用事があるのだろうかとは考えたが、確かに長居するのも悪い。先ほどの依頼に関しても対処は早いほうがいい訳だし。
その足で、真っ直ぐその小屋へと向かうことになった。
小屋へと続く砂利道は、ほぼ草に侵食されており、注意しなければ辿れない様になっていた。
到着すると、何年も使用されていないようなボロ小屋がある。
外の屋根の下に蜘蛛の巣が張り、窓は内側からの埃で内部が見通せない。基礎も崩れかかっており、魔法の一発や二発放てば倒壊しそうな気さえする。最早住むためと言うよりは、雨風をしのぐ程度の場所にしかならないだろう。
本当にこの中に賊がいるのだろうか?
そんな疑問に答えるように、躊躇なくラクトさんが扉を開けた。
続いて、一緒に中を覗く。
「あれは……」
「いるな」
「え?見えないなー」
小声で話す。
薄暗くて確認し難いが、窓から入るうすら明るい光の筋の先、部屋の隅に何者かのシルエットが見える。
暗くてよく分からないが、男だろうか。こちらに気付いて、顔のような部分を動かす。こちらを見ているのだろうか。
少々睨み合いが続くと、最初に話し始めたのは向こうからだった。
「……なんだ、こんな場所にまで来て。俺に何か用だろうか」
その言葉を端緒とし、こちらも話す。
「私はアーサー、勇者だ。ここに盗賊が居るという報告を受けてな。真偽を確かめるために、ここへ来たのだ」
そしてどこから取り出したのか。その手にベルのような道具を持っている。
「嘘を探知する"真実の鈴”か。言っておくが俺は盗賊じゃない。ただ休憩する為にここに厄介になっているだけだ」
「鈴が鳴らない……ということは真実なのだな。それは認める、しかしあくまでも盗賊ではないだけで悪人とは限らない、素性を話してもらおうか」
その言葉に男は、少々不快そうに答える。
何かやましい事でもあるのだろうか、きっとラクトさんの持つ鈴がキーなのだろう。
「俺は悪人じゃない」
「──」
「職業はアサシン」
「──」
「名前はマグルだ」
「チリーン──」
鳴った、嘘だということなのか。
「偽名だな、本名は?」
「……勘弁してくれ、俺は悪人ではない、それが真実だ。隠していることはあれど、やましい事は何もない」
「──」
「むぅ、まぁ……それなら仕方ない。しかし近隣の住民が君を賊だと思い込み怯えている、悪いが早く出て行って欲しいのだが」
「それは出来ない話だな」
「何故?」
「数日前、盗賊に寝込みを襲われた。なんとか返り討ちにはしたが、傷を負ってしまった。治癒するまではなるべく出たくない」
「治癒って──自然に治るわけないだろう!」
「アビリティ『自然再生』はどんな傷でも……時間さえ掛ければ元通り、……っだ。二、三日すれば出て行くさ」
そうは言っているが、喋るだけでも体の傷に影響が出ているのか、先ほどから少し呼吸が荒くなっている。口で言うほど、軽い状態ではないように思えた。
それに対して、ラクトさんは懐から水晶を取り出した。そして部屋の奥へと進み、男にそれを差し出す。
「これは回復魔法入りの魔法水晶だ。使うといい」
「──いいのか」
「もちろんだ、ただ使ったら立ち去ってほしい」
「……了解した、恩に着る」
そうして男は、魔法水晶を受け取ると、それを拳で砕いた。破片は散る前に、粒子となって空気に融けるように消えていった。
少しすると、男は立ち上がる。
そしてこちら──小屋の入口の方へと来た。
そこで顔と姿がはっきりと確認できた。
真っ黒く、少しはねた髪に生気の宿っていないような暗い、青く深い目。
口元は黒い布で、額はハチマキで覆われており、衣服は黒に染められた僧侶の服の様だ。胸当てもある。
全身、黒尽くめの、まるで忍者か侍を思わせるような人物だ。
「さて、俺は借りを返さなければならない。盗賊たちにな、ではさらばだ少年少女達よ!」
「なっ!返すって……盗賊団に挑むつもりか!?危険過ぎるぞ」
「俺に掛かれば朝飯前、寝込みさえ襲われなければ弱すぎる相手だ」
「やめろ!一人で行くというなら私達も同行しようじゃないか、なあ!」
「えっ、あぁ。はい!そうですね」
「それがいいと思うよ!」
ええっと、いきなりなんだろうこの展開は。
流石にラクトさんの頼みだから断る訳にはいかないけど。
「後悔しないなら、勝手に着いてこい。俺の強さを知り、勇者としての自身の強さを恥じる覚悟があるのならばな!」
「言うじゃないか!では行くとしようじゃないか、盗賊団のところへ!」
「おー!」
「えぇっ……」
勇者って本当に面倒ごとに自ら巻き込まれていくのだな、と実感した今日この頃。
勝てる確証も根拠だってないのに、まるで自分が取り残されてるみたいじゃないか。
はぁ──全く一体これからどんなことに巻き込まれていくのやらと考えると、かなり胃がキリキリするなぁ……。
僕たちは、新たな仲間(?)のマグルさんと共に、一緒に盗賊団を潰しに行くことになったのであった。
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