#6 アーリエ(魔物)

「あれが……?」

「多分、そうなんじゃないんですかね。特徴も一致してますし……」

「なんか、うん。想像していたのと全然違うよ!?」

「そりゃあ、アーリエって他の星からの外来生物って話ですし。どんな姿でも不思議ではないでしょう」

「何だろう、そう!私はもっとカッコイイ魔物とのカッコいい戦闘を求めてたんだけどー……なんかね?」

「えぇ、でも討伐の依頼が出るってことは少なくとも危険ではあるってことです。気を抜いたら大怪我するかもしれませんよ」

「ないってー」


 とは言ってみたが、確かに柊の言いたいことも全く分からない訳ではない。

 僕もてっきりもっと魔物というか、獣らしい姿を想像してた。

 でもあれは獣というよりは……何だろう、機械寄りみたいな。

 少なくともあれが生き物だとは信じがたい。


 キューブの形をした頭部に、数珠のように蒼い球が繋がった胴。

 ケーブルみたいな細い足。体をうねらせている、伸ばせば二メートル以上はあるだろう。あれがアーリエ──


『基本的にアーリエは、機械型、獣型、シンボル型に分類されて、その他にもたくさんの種類がいるんですよ。中には人間に近い姿をしたアーリアー。大人しく友好的なアーリーなどがいるんですよね。基本的に私達がアーリエと称しているのは、あくまでも敵対勢力になり得る者達だけなんです』


 とグラニアさんに教えてもらったことを思い出す。

 きっとあのレイは、攻撃的な『アーリエ』で『機械型』に分類されるのだろう。

 色々ややこしい……。


「ねえねえ、考え事はいいから、早く戦おうよ!」

「戦うって言っても、どうやって」

「ほら、なんかさー。バババーってやって!しゅっ!みたいな!?」

「なるほど、ぜんっぜん、分かりません。実戦で慣れるしかないみたいですね……」


 グラニアさんに言われた。

 僕は魔法攻撃型で、柊は物理攻撃型のステータスらしい。

 僕は火、氷属性。柊は雷属性。先ほど魔法の使用方法を教わって何とか使えるようになった。魔法は元から持っていたように体に馴染み、使用することができる、これは才能ではなくあくまでも基本的なことだそうだ。


 そして武器を借りた、柊は刀で僕は何故かクナイ。忍者とかが使っているアレ。もちろん武器は借金、カード、生活費も込みで借金だ。一、二週間あれば返せる金額だというから、僕たちもクエストをするしかない。


「そりゃ!切り込み隊長、柊、いくよーっ!」

「あっ、ちょ!この馬鹿!勝手に突っ込むとか自殺行為ですよ!」

『!?』 

「せいやっ!」


 ああもうバカ、なんで勝手に行っちゃうかな!?

 いつも勝手に行動するから、本当に世話の焼ける妹だ──


『生体反応。ターゲット。排除』

「うわぁっ!?」


 レイの目から黄色の光線が放たれる。

 予備動作を感知した柊がそれを避けた事により、光線は僕に命中し肩を焦がした。

 耐えられない威力ではないが、服が貫かれる。高温により肌がじりじりと焼け確実にダメージを与える。


「あっつ!あっつ!」

「おにぃ!?」

「大丈夫、集中です!僕に構ったら死ぬ、くらいの気持ちで戦ってください!」

「う……うん、わかった!」


 相手はアーリエ魔物、弱いからといって今のように怪我することもあるし油断していい理由にはならない。柊には覚悟とか、危機感というものがない。

 これは現実、ゲームなんて生温いものじゃないことくらい考えればわかること。柊にとっては夢だったり、遊んでるようなものだろうけどそれでは取り返しのつかないことになるかも知れない。


 この戦いは教訓になるかもしれない、将来のことまで見据えなければ。


「せーいっ!っと、わわ……」


 柊が勢いよくジャンプ斬りをかますが、相手の硬度に弾かれて体制を崩す。

 よろめくが、なんとか持ち堪える。


「格好付けず戦ってください!」

「もー!なんで急のそんな厳しく……」

『反撃。殴打』

「柊、避けて!」


 レイは固そうな頭部を、見境なく振り回し攻撃する。

 刃を弾く硬度だ、当たったらかなりの重症だろう。


「おおっ……。予想以上に厳しいよ!でも──戦いバトルはこうでなくっちゃ!」

「そういう思考は捨てる!」

「はいはい、うるさいよー!」

 

 扱いに慣れず、震えるクナイに氷属性アイスを付与してレイ目掛けて投げつける。何個か投てきしても掠りもしない。

 コントロールだってまだ覚えてないのに……。

 うねうね動く胴と頭が厄介だ。それなら、先ほどから動かない足の部分を狙えばいけるか──?

 それか、柊なら胴を繋いでいる細い線を切れるかもしれない。


「柊、頭じゃなくて体の繋ぎを狙ってください!」

「わかった!」

「僕は動きを止めます!氷魔法アイス!」


 再度、クナイに魔力を込めて投げる。

 狙い難い体ではなく相手の下、地面に向かって。

 そして思惑通り、地面に刺さったクナイと共に魔法が発動し、あたりを凍らせた。

 相手は、足と胴の一部が動かせなくなり焦る。


『凍結……危険』

「とりゃぁ!っわあぁ!」

「うわっ!危な!」


 柊が、刀で切り裂く。

 レイは機械とは思えない程生々しい……いや、生き物なのだろう。切断面から若緑色の液体が滴り……その頭部は地に落ちた。

 そして同時に、柊が手を滑らせ結果的に飛んで来た刀が僕の頰を掠める事となる。いや、生きた心地がしない。


「ご、ごめん」

「もう少しズレてたら、生首がもう一個出来上がってましたね。ははっ」

「う、うん。そうだね」


 冗談を言ったが勿論、笑う為でも笑われる為でもない。

 それを察しての事か柊が目を合わせない、どうやら僕が起こっていることは理解できるようだ。

 ──と、これで討伐完了ってことになるのかな。


「あっ、お、おにぃ!」


 先ほどの行動を誤魔化そうと思ったのか、柊がわざとらしくレイの残骸を指差した。

 見ると、粒子のように体が分解されていくその姿があった。討伐したら、死体は残らず消えるのだろうか。


「そうですね、しっかり倒したことですし、帰ったらお説教ですね」

「なんで!?」

「そりゃ、勝手に突っ込むし、刀を飛ばしたし。最初ということもありますから大目に見ますが、できればそういう行動は無くしたいですよね」


 自分で「何様のつもりだ」とは思うが、素人目で見たって柊の行動が危険なのはわかる。まだ時間はあるんだし、連携とか、他にも色々覚えていくしか無いようだ。


 それと────


(血が流れるっていうのは結構精神的にくるなぁ……)


 一つの命を奪っているという行為、仕方ないのだろうけどあまりいい気分ではない。だからこそ、手を抜いては戦えないのだ。

 そうして僕たちは、初めてのクエストを終えて、アーグスの街へと戻っていった。


**********


 ギルドに行くと、受付にいたのはノーデムさんだった。グラニアさんの姿はない。


「はい、確かに確認したよ。お疲れ様だねぇ」

「ふふーん!頑張ったよー!」

「ああ、気になってたんですけど、ここの受付嬢は全員魔物なんですか?」

「んー。わたしとデーモングラニアハーピー、もう一人、人間の子がいるねぇ。ただそっちは雑務が多いから基本的に奥の部屋に篭ってるよ。面倒な手続きを率先してやってくれて、頼りになる子だよねぇ」


 だからこっちに来てから一回も見てなかったのか。

 正直ここのギルドが異常なんじゃないかと心配したけれど、そんなことはなさそうだ。


「んー、明日もクエストやって貰うからねぇ。今日はもう家に帰ったほうがいいかな。はい、キーを渡しておくねぇ」

「あ、どうも有難うございます。それじゃお先に、失礼します!」

「ばいばーい、また後でねー!」


 そうして、僕たちの初めてのクエストは無事終わった。

 さて、先の見えないこの異世界。明日から尚のこと気合いを入れないといけないかな。

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