#5 クエスト受注

「はい、こちら同居人のノーデムくん。種族は悪魔で、私と同じギルドの受付嬢ですね」

「あぁ……?なるほどねぇ、てっきり仕事かと思ったんだけど、きみが誰かを連れてくるなんて……珍しいよねぇ。よろしくねぇ」


 掴み所のよくわからない話し方をするのは、紫髪で目に何故か十字架のある悪魔だ。肌の色は黒く一部割れたようになっている、容姿からでは男か女かはっきりしない。受付嬢なら女性なのだろうけどあまりそうは見えない。

 この人もギルドの受付嬢ということは、ここに住んでいるのは仕事関係からだろうか。


「よろしくお願いします。中村秋です」

「私はねー、柊!よろしくねおねーさん達」

「さて、挨拶も済みました、私達も仕事が明日に控えてますし、今日はもう寝ましょう。二階の空き部屋を好きに使ってくれて構いませんよ。……貴方達にやってもらうことは明日伝えますね」

「んじゃー、おやすみぃ……」


 相当疲れていたのか、それとも元からこうなのかノーデムさんはテーブルに突っ伏して数秒、寝息を立て眠ってしまった。

 それに続いて、僕たちも二階で寝ることにしたのだった。

 ……朝起きて目覚めたら家だったりして。


**********


 なんてことはなく、目覚めたら見慣れない天井、窓から差した陽の光が妙に眩しい。

 まだ眠たいという欲望を抑えながら起き上がろうとするが見事撃沈、二度寝をしようとしたところで先に起きていた柊からののし掛かりの攻撃を受けて仕方なく目覚めた。

 まだ起きたばかりの頭は働かずに、今この瞬間が夢ではないかとすら思えてしまう。昨日は確か、突然この世界に飛ばされて……ってなんで異世界に飛ばされたんだ!?やっぱり僕たちのせいか?どうして今こんな状況になっているんだ!?


 昨日はまだ夢だと心の中で半分信じているところがあったのと、状況が把握できなかったせいで冷静(?)でいられた、けれど今起きて確信した。

 これをどうする、どうやって生きていけばいいのか、しっかりと働き始めた頭で、今頃慌て始めた。


 ……でも、僕が嘆いたってどうにかなる事じゃないだろうし、いいか。

 「これでも適応力には自信があるつもり」と先程の考えはどこに行ったのやら、自分でも不思議になるくらいの落ち着きを見せる。


「おにぃ、難しそーな顔してどうしたの?変だよ?」

「うん、大丈夫です。とりあえず下に降りましょう」


 やっと目覚めた体を引きずる様に、下のリビングへと降りていく。

 そこには、テーブルに腰掛ける(椅子ではなく)ノーデムさんの姿と、キッチンで料理を作るグラニアさんの姿が。

 いや、料理というか眺めているだけというか。グラニアさんは も使わずに、自由に動いている調理器具を見ている。


「あれ、気になる?グラニアの浮遊魔法ってやつなんだよねぇ。羽を汚したくないからってよく使ってるんだ。聞いたよ、きみらが異世界人だって。よろしくねぇ」

「浮遊魔法!?わぁあ、すごいなぁ、私にもできないかな?」

「え?さぁ……どうでしょう」


 持ち前の適応力からか、僕はその光景を平然と見ている──と言っても心の中でものすごく驚いていることは言うまでもない。

 そしてノーデムさんからは、昨日の様な気怠さは感じられなく、やはり疲れていただけだったのだろうか。まぁ流石に常にあのような状態では受付嬢の仕事もできていないだろうと納得する。


「はーい、朝食ですよ。遠慮なく食べてください」

「はい、いただきます」

「いい匂いだね」


 促されるまま席に座ると、食事を載せた皿が、僕たちの前に運ばれる。

 その動作も浮遊魔法で行われているようだ。

 全員席に着いたら「いただきます」と感謝を込めて、食事を口に運ぶ。


「あっ、すごく美味しいです」

「ママのより美味しいねー」

「あら、ありがとう」


 あの母さんと比べたらどんな料理でも美味しいだろうと突っ込みたくなるが、それ抜きでも本当に美味しい。

 ただ、異世界の料理ということもあり原料がわからないのと、料理名も不明だ。

 一体何を口に入れてるのか。


 見た目はステーキの様だが、見たことのない色をしている、腐ってるわけでもなくこれでもかと言うくらいこんがり焼きあがっている。とてもジューシーな味わいで臭みなどはない。

 

「あれ?ノーデムさんは食べないんですか?」

「んー?悪魔だからねぇ。主食は人間とか──の不安や恐怖の感情。だからよく冒険者の悩みとかを食べてあげたりするんだよねぇ」

「そうなんですね、美味しいんですか?」

「わたしにとって食事は生きるための手段に過ぎないから、そういうのは考えたこともないねぇ」


 悪魔と言っても、普通の生き物なのだろうか。

 基本的に誰かに取り憑いたりするイメージだけど、本体があるし、そこらへんも僕の知識とは違う、と。なるほど。


 そうして、食事を終えた僕たちは、二人と一緒にギルドへと向かうことになった。


**********


 ギルドの控え室でグラニアさんと話をすることになった。

 向こうからの提案があるようだ。


「さて、それで二人にやってもらいたい事があるんだけど、冒険者になってみるのはどうですか?」

「なりたい!」

「うわ即答……冒険者ってどんな職業なんですか?」

「そうですね、冒険者の良いところは誰にでも簡単に始められるのが強み。雑用、護衛、パトロール、アーリエの討伐だったり他にも、実際にやってみると戦えない人でも受けられるクエストが多いんですよね」

「なるほど……」

「ほぼその日働きみたいな所はあるけど、給料も悪くない。クエストをこなしていくうちに他の職業に抜擢されたり、受けられる仕事の幅も広がる。そしてギルドのある都市ならどこからでも稼ぐことができるんです。結構力仕事のイメージがありますけど、わかりやすい言い方だと何でも屋みたいな感じです」


 なるほど、それなら結構安心かも。

 アーリエっていう存在もよく分からないし、討伐系はできるだけ避けようか──


**********


「よーし、頑張って倒すよ!」

「なんでそうなるんですかぁ……」

「異世界に来ておいて、戦わないは無いって!ほら、頑張ろ?」

「うぅ、乗りかかった船。やりますよ?最後までやりますけど」


 柊のゴリ押しにより討伐系のクエストを受けることになった。

 正直得体の知れないものを相手にするのはリスクがあるから反対したのだけど「それだけは譲れない」と言われ、兄としても流石に付き合わないわけにもいかない。

 

 大丈夫かな、怪我するのかな。できればしたくないけどそんな甘いこと言ってたらどんな目に合うか分かったものじゃない。やるからにはやり遂げる、


「それじゃ行くよ!」


 グラニアさんに貰った道具を、ポケットにしまう。

 何の変哲も無い石に見えるが、瞬間移動テレポーテーションの魔法が込められていて、念じるだけで一度訪れた所にワープできるという色々な法則を無視したかのようなトンデモ道具らしい。無くさないようにしないと。


 今回のクエストの対象がいるのは、アーグスの街を出てすぐにある平原。

 そこに「レイ」というアーリエが居るそうだ。


 初めてのクエストを受け、出向くのであった。

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