#4 ここにはいない
僕たちは今、とある人の家にお邪魔させてもらっている。
その人はギルドの受付嬢の一人で、ギルドの側の一軒家に住んでいるという。
突然家に来ないかと言われ、行く当てもない僕たちは少し怪しんだりしながらもその提案に乗ることにしたのだ。
「はい、いらっしゃい♪さて、そこの席に着いてください」
「あ、はい」
「綺麗な家だねー」
玄関に入ると、目の前に階段、隣にリビングが見えた。日本人であるが故に間違えて靴を脱ぎそうになる。
リビングに入ると、キッチン、木製のテーブル、ソファが向かいに並べられた接待場所の様な所があり、その奥の窓には、美しい花が生けられた花瓶があった。
床は木の色のフローリングで壁は少し色のついた白色。
一人暮らしにはかなり大きい家であることがわかる。
僕たちは指示通り、リビングに置かれた椅子の上に座る。緊張少し動きがぎこちなくなってしまう。
そして、数秒後、その女性も席に着いた。
「ごめんね、突然連れてきちゃったけど別に何かするという訳ではないから……そう、好きに質問してくれていいんですよ?」
質問か、現状何もわからなく、質問したいことはたくさんだ。お言葉に甘えてさせてもらうとしよう。
そして最初に柊が、質問を投げかけた。
「お姉さんってだれ?その羽とか……」
「ああ、紹介が遅れちゃいました。私はグラニア。種族はハーピーですね」
グラニアと名乗る女性は、ハーピーだと言う。
発達した手が羽となっており、腰の左右にも羽がついている。
全体的に羽は水色で、上に行くほど色が薄い、グラデーションがかかっている。
その髪や瞳も、羽と同じ色であり、全体のカラーは統一されている。
彼女の着る制服は白いシャツに黒いスーツであり、その格好が大人の女性という雰囲気を引き出している。
羽が無ければ人間だと言われても違和感がないだろう。
ハーピーという種族は皆このような容姿なのだろうか?
「あら、そんなに見るなんて、珍しいですか?まぁ魔物の中でも
「うん!初めて見たよ、すごい綺麗だなぁ……でも、魔物って敵じゃないの?」
「確かに、魔物と言うくらいですから──でもそんな感じはしませんね」
もし敵意があったら今頃僕たちは襲われていることだろう。
でもしないと言うことは、そういうことである。
大体のゲームにおいて、モンスターは人間の敵というのが常識であり、僕でも知っているくらいだがこの世界においては違うのかもしれない。
「あぁ、昔は確かに争っていましたが、世界も色々と変わっちゃったんですね。当然私も昔は人を襲いまくってましたよ!こう、ガシッと掴んでガブ!みたいに」
「……それは聞きたくなかったですよ」
「……だねー」
「何ですかー、ちょっとした冗談ですってばー。今では人と魔物は、互いに結婚が認められるくらい仲良しなんですよ。まぁ、元から凶暴な種族もいますが」
それを聞いて、疑問が生じた。
それを察したかのように柊がまた質問をする。
「それなら、冒険者ギルドって必要なの?あ、お手伝いとか、護衛とかするのかな」
「ああ、確かにそう思いますよね。実はこの世界には、魔物以外にも敵となる存在がいるのですよ」
「え?それって何ですか?」
グラニアさんは何故かコホン、と咳払いをして間を開ける。
「その名は『アーリエ』、二百年前、突如としてこの星にやって来た外来生命体達の総称です」
「えっと、どういうことですか?」
「つまり他の星からやってきた宇宙生物みたいなものですよ。別の星の存在が私たちの星を侵略しようとやってきた訳で、侵攻を防ぎきれずこの星の各地にはその宇宙生物たちが居るのです。所謂『現代版魔物』とでもいいましょうか」
突然宇宙の話って、かなりスケールが広がったというか……。
つまり、もともとこの星に住んでいた魔物は今は敵ではない、しかし他の星から来た宇宙生物たちが、今は魔物(アーリエ)となっているという事だろうか。
少し複雑な話だ。
「取り敢えず質問はこれくらいで大丈夫ですかね?──それで、私が貴方達を連れてきた理由ですが、まぁ簡潔に言いますと異世界人という存在に興味があったからです」
「ああ、確かに……それなら納得がいきますね」
「先程、魔力をみた結果、この星の住人とは思えない魔力反応を確認したんですよね。もしかしたら貴方達がアーリエの可能性も捨て切れませんが……考えにくかったので、気になったんです」
ではギルドに連れてこられたのは運が良かったのだろうか。
あの時のオークの方が助けてくれてなかったら今頃僕たちは路頭に迷っていたかもしれない、感謝しなければ。
「まぁそんな訳で、泊まっていってください。そうだ!同居人の紹介を忘れていました、呼びに行ってきますね」
「はい、ありがとうございます……」
グラニアさんは、席を立ち、そのまま階段を登り二階へと向かっていった。
──そして静寂が訪れる。
柊はこの家を彼方此方と見回しており、落ち着きがない様子だ。
きっとワクワクしているのだろうと言うことは長年の付き合いからすぐに分かる。
「同居人って?魔物かな?」
「さぁ、僕にも分かりませんよ」
「にしても、まるで夢みたいだよねー。今朝まで家に居たんだもん、ふへへ」
「随分にやけた顔ですね、まぁ確かに新しい環境に珍しいと思う気持ちは分かりますが、僕は母さんのことが心配かな」
「え?ママならなんとかなるってー」
「いやぁ、あの人は……」
僕たちが居なくなったことに気付いたら、あの母さんのことだ、かなり焦るだろう。……それは普通の反応か。
きっと今頃真っ青な顔で警察署やら、色んなところに向かっているに違いない、仕事や生活を放り投げて僕たちを血眼で探すことだろう。
もしかしたら何週間、何ヶ月、何年も、それ以上に、ずっと諦めずに探すかもしれない、それが僕たちの母だ。
不器用で、怒りっぽくて、性格がきつく、そして怪力、どれを取っても母親らしいとは言えないが、それでもその真っ直ぐな愛情を受けて僕たちは育ったんだ。
かなり心配だ───
**********
中村桐は、手に持った書類をバンと机に叩きつけ、呻き声をあげる。
「うあぁぁあぁ〜っ!やっと終わった、なかなか手強かったな、今回の敵は」
座禅をやめて、パソコンから逃げるようにリビングへと向かう。
時刻は夕方、お日様が今日と言う日にお別れを告げている。
桐はふわぁと大きな
「うわ、ベランダの窓が開きっぱなしだな。蚊が入ってきたら面倒だからやめろって言ってるのに。──というか、今日はやけに静かだな。二人とも部屋にいるのか?」
ベランダの鍵を閉め、カーテンも閉める。部屋の電気をつけて、テレビをつけた。
『──えー、今年は連日続く猛暑日により、熱中症による死亡者が全国各地で多数出ております。これについて、どう思われますか?』
『──そう、ですねー。これは本当にもう、対策が大事ですね。温暖化は年が経つにつれ、収まるどころか勢いを増しています。北極が溶け、数十年後にはこの日本が沈むという話も──』
最近問題になっている、地球温暖化か。
正直オレには関係ないけど……って。
「秋と柊、大丈夫かな」
嫌な考えが頭をよぎる、もし熱中症なんかで倒れていたらどうしよう。
すぐに確かめるよう、テレビをつけたまま二階の部屋へと上がっていく。
「おーい、居るか二人ともっ──は?居ない……。そうだ、秋の部屋は」
柊の自室を確認した後、秋の部屋へ続くドアのノブを捻り、勢いよくドアを開ける。
勿論、二人はいない。
急に、焦りが募り恐怖となる。
「なんでだ、なんでなんでなんで!いや、地下室だ!そうだ、地下室に──!」
そこに居るはずだ、いない筈がない。
まるで鬼のような顔で、階段を駆け下り、地下室へと続く通路を渡る。
ドアノブに手をかける。しかしその手は震えていた……。
もし、二人がいなかったら?そんな考えが頭をよぎる。
「くそっ!どうにでもなれ!」
あまりの勢いにより、轟音とともにドアの蝶番が壊れる。
しかし、その先に、二人はいない。
そこにあったのは、静寂と、ガラクタ、蜘蛛の巣に……何も書かれていない乳白色の紙だけだった。
彼女の子供達は、もうここにはいなかった。
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