#3 急な提案
「おにぃ!今、ワープしたよ!一瞬で!」
「一体どういう原理なんですかね、気にしたらダメってやつでしょうか」
一体どうして、突然こんな場所に来たのか。理解ができない。
まるで夢を見ている様な、不思議なことだ。
「さて、付いてきてくれ」
と、そのまま案内され、僕たちはギルド正面、受付のカウンターへと進んだ。
そこには、もふもふの羽根で体を覆った、不思議な女性がいた。その水色の羽はとてもよく手入れされているようで、汚れが一切見つからない。
そして、こちらに気づいてどこかふわふわしたトーンで話しかけてくる。
「あら?新規の方ですか?いらっしゃいませ♪今日はどういった用でこちらに?」
「ああっと、この子達……迷子らしいんだが、身元が分からなくてな、調べて欲しい」
「ええっと、お姉さんと弟さんですね」
「なっ──僕が兄です!」
「あはは!おにぃ間違われてるー」
「あっ!すいません、失礼しちゃいましたね」
本当に失礼だ、別に僕が優位に立ちたいとかそういうのじゃないけど、間違われるのは純粋に正したくなる。
いつも昔から間違われて……っていいか。この話をしたら時間がいくらあっても足りない。
と言っても、このギルドで身分を調べるって、一体どうやって──?
「ええと、ここに手を乗せてください」
と、その女性はその羽でカウンターの上にあるをクリスタルをちょんちょんと指差した。
よく見たら手が無い、その羽が手の役割を果たしているのだろうか、とまじまじ見てしまう。
クリスタルを見ると、半透明で、どういう力の働きがかかっているのかふわふわと浮遊している。
上下にゆらゆらと、少し不安定な感じでバランスを保っている。
そして、我先にと柊がそれに触れる。
「……あれ?何も起こらないなー」
「何か起こったほうが嫌ですよ、僕は」
一体何が起こるのを期待していたのか、柊はしょぼんとしている。
そしてそれを確認した受付の女性は「確認しました」といい、僕の方を向いた。
それに促され、僕も恐る恐るそのクリスタルに手を触れる。
……もちろん何も起こらない。一体何をしているんだ?僕たちは。
「ええと、今の行動には何の意味があったんですか?」
「魔力を少しいただきました。その魔力のデータを元に、人物を特定することができるんです」
「それって、もしかして冒険者カードみたいな!?」
「はい♪少々お待ちくださいね」
冒険者?カード?確かに柊の読んでいた本にそんな記述があった気がする。
ということは、定番の設定、みたいなものなのだろうか。僕はそこらへんあまり詳しくはないから正直どうなのか分からない。
そんなことを考えている内に「終わりました」と、言われ声の方を向いた。
女性の手には、二つのカードがあった、これが柊の言っていた物なのか?
「出身地……不明、ですね。まるで別世界のような魔力が混じってる?……すいません。どうやら身元の特定が出来なかったようです」
「え?そんなことあり得る筈はないんだが、魔力がそう示したなら仕方ない。──すまん!俺は仕事に戻るよ!じゃあ失礼!」
カードを見た警備の人が、そういって僕たちの元から風の如く去っていった。
何か、悪いことしたのかな?
と、それを見て受付の女性が呆れ顔でため息をついた。
「はぁ〜。本当に、警備隊の務めを果たして欲しいものです。たまに、解決できないと分かったら逃げる人がいるんですよ。そういう大人は信用してはいけませんからね。仕方ありません、私がなんとかしてみせましょう」
「え?あ、はい」
一体、どういう展開なのか。このまま残された僕たちは一体どうすればいいんだ。
異世界のことなんて何にもわかっていないのに、こんなギルドに取り残されて……。
ぐちぐち言っても仕方ないのはわかってるけど、文句の一つや二つは言わせてほしい。
「取り敢えず、このカードは渡しておきますね。……迷子、でしたよね?」
「はい、突然ここにきて、訳のわからないまま連れてこられました」
「家の中にいたら、急に外に居たんだよー!」
「突然ですか──
本当だとしたら、元の世界に帰ることはかなり困難だろう。
「はぁ、出身が分からない、ですか。これはかなりレアなパターンですね。……少し席を外します」
困った様子で、女性は奥にある部屋へと入っていった。
それを確認すると、僕と柊は渡されたカードを確認した。
……確かに出身が書かれていない。
カードにはこう記されている。
<ナカムラ アキ>ー人間ー
出身??? 年齢18
Lv1
◇MAGIC
火属性 氷属性
◇SKILL
-NODATA-
◇ABILITY
-NODATA-
<ナカムラ ヒイラギ>ー人間ー
出身??? 年齢18
Lv1
◇MAGIC
雷属性
◇SKILL
-NODATA-
◇ABILITY
-NODATA-
名前、種族、出身、年齢がわかるのか。
しかしその下にあるレベル、マジック、スキル、アビリティの項目は一体──?
こういうことは柊に聞いた方が手っ取り早い。
「あの、これ一体なんなんですかね。マジック……とか」
柊の顔を見ると、とてもニコニコした表情である。
どうやったらそんな表情ができるんだ。
そして、すぐに柊は説明をした。
「これはきっとステータスを確認するものだよ!」
「ステータス?」
「攻撃力とか、スキルとか!今自分たちが使えるものが分かるんだよ!きっと」
「へぇぇ、よく分からないけど、便利なものだと思えばいいんですかね」
「ふふふ……すごいでしょ!私たち、本当に異世界に来ちゃったんだよ」
「異世界、ですか──
非現実的だとか言いたくはあるが、流石にここまでリアルだと否定のしようがない。
僕たちは今、原因もわからないような不可解な出来事に巻き込まれているのだろう、原因はきっと、家の地下室で触った魔法陣。
けれど、地下室になぜあんなものがあったのか理由も分からないし、なぜここに飛ばされたのか、全てが不明。
これは──
「柊、僕にはイマイチこの世界が分かりません。帰る方法でもあれば良いですがそれも不明、柊の知識でこの世界のこと教えてくれませんか?」
「おぉ!?おにぃが頼ってくるなんて、やっと私の凄さに気付いたんだね!勿論いいよ!」
兄としてのプライドは捨てて、頼れる者に頼ったほうがいいだろう。
そうして話をしているうちに、先ほどの女性が戻ってくる。
「お待たせしました♪ええっと、ですね。耳を貸してくれませんか?」
「耳、ですか?」
「はい、伝えたいことがありますので……」
突然何だろう、僕はその人の近くに寄った。
その人は、僕たちにしか聞こえないような小声で囁いた。
まさに耳を疑うような内容で……
『貴方達、異世界人──でしょう?』
「「えっ」」
『よければ、私の家に来ませんか?宿代もきっと所持していないでしょうし……別に何もしません。悪い話ではないと思いますよ?』
何故、バレているんだと。不思議でならなかった。
僕も柊も、驚きのあまり開いた口が塞がらないという感じ──しかし、互いに顔を合わせ、頷いた。
今の僕たちはそうするしかないのだろう、その提案を、僕たちは受け入れることにした。
「よろしくお願いしますね♪」
その人は、どこかにやけたような顔でこちらに微笑んだ。
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