第2話 承
赤坂睦月と日向明が駐車場にようやくたどり着いたのは、心霊スポットのトンネルから逃げ出してから十数分後のことだった。
あのトンネルで目撃してしまったものから逃れようと全速力で駆け出し、遮二無二走ってしまったため、車を停めていた駐車場を通り過ぎてしまったのだ。
そして、そのことに気づくなり慌てて引き返して、ようやく車のところまでたどり着いたのだ。
後部座席には三十三佐知が座っていて、赤坂達が近づいてくるのをうろんな瞳で見つめていた。
「……なんだったんだ、あれは?」
日向は血の気が引いた真っ青な顔で誰に言うとも為しに呟いた。
「幽霊? それとも妖怪? なんだったのよ、あれは」
生気が失われたような顔の赤坂が答えたワケではなく、心の中での問いかけに対して答えるようにして呟いた。
「あれが怪異とかいうものなのか?」
日向は鍵を取り出して開けると、運転席に滑り込んだ。
「いえ、あれは心霊現象よ。きっと幽霊の仕業よ」
赤坂が助手席のドアを開けて、同じように座席へと腰掛けた。
「来ていないわよね」
日向も赤坂もバックミラーで後方を確認する。
「はい」
三十三がそう答える。
そんな声などきこえていないかのように二人はバックミラーだけではなく後ろの方を顧みたりして化物がいないのを確かめた。
「ふぅ……」
「はぁ……」
何も付いてきてはいないと分かると、二人はほぼ同時に深いため息を吐いた。
「とりあえず行きましょうよ。ここに留まるのも嫌よ」
「同感だ」
顔色が青白くなったままの日向は逃げ出さんばかりの勢いで車を発進させる
高速に入るまで沈黙が車内を支配していた。
それを破ったのは、日向だった。
「あのトンネル、何が出るっていう話だったんだ?」
「……女の人の霊」
後部座席で三十三がぼそりと口にするも、日向も赤坂も背後を見もしなかった。
「……えっと、そう……女の霊だったはずよ。あのトンネルで起こった交通事故で死んだ女の霊が出るって話だったはずよ」
「女? 男じゃないのか?」
日向は正面を見ながら、怪訝そうに眉根に皺を寄せた。
「私が見たのは女よ。綺麗な女の足だけがトンネル内を徘徊していたわ」
赤坂がその光景を思い出して身震いするなり、自分自身を抱きしめるような仕草をして見せた。
「そんなの見てない。見たのは、落ち武者の霊だ。刀で斬りかかってきそうだったから思わず逃げ出したんだ……」
その事を思い出してか、日向はぶるぶると身体を震わせた。
「私、そんなの見てない。いなかった……いえ、みえなかったわよ……どういうことなのよ」
赤坂の唇からも血の気が一気に引いたと思ったら、色を失った唇をきつく閉じてうなだれた。
そんな赤坂の態度を見てか、日向は投げかける言葉を見つける事ができず、運転集中する他なかった。
「ふふふっ……。あなたは霊媒体質だから」
そんな二人を見て、三十三が低く笑った。
三十三には見えているのだ。
さきほどのトンネルでこの二人が拾ってきてしまった霊が靄として見えていた。
車に乗る前から二人の肩に靄のような霧がかかっているように三十三には見えていて、それが低俗な霊だと感じ取っていた。
「さっきから変な気配がしない?」
日向に顔を向けずに俯いたままそう問うと、
「……やっぱり? 肩の辺りが冷えるんだ。あのトンネルに行った後からずっと……」
「私もそうなのよ。肩が冷えて仕方がないのよ」
「こういう場合、どうするんだ? 心霊スポットで霊を拾っちゃうっていう話はよくあるらしいけど……」
「霊能力者に相談してみるのは?」
三十三がそう言うと、赤坂がハッと顔を上げた。
「確か地元に有名な退魔師がいるって話があったわね。変な霊が付いてきているかもしれないから見てもらった方がいいかもしれないわね」
「う、うん……それがいい。で、どこに行けばいい?」
「待って。調べるわね」
赤坂はスマートフォンを取り出して、検索し始めた。
そして、ようやくたどり着いた。
地元である東京都北区言実町にある賀茂美稲荷神社。
その神社で巫女をしている、稲荷原流香という退魔師という存在に。
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