とある心霊スポットにて ~ 怪異譚は眼帯の巫女とたゆたう ~
佐久間零式改
第1話 起
日向明(ひむかい あきら)は某県の最恐心霊スポットとして有名な○○トンネルの前に来て、若干尻込みしていた。
車一台通れるかどうかといった広さの夜のトンネルは古めかしいこともあってか異様な雰囲気が出ていた。
「全然怖そうじゃないわね」
真夏といえば肝試しと言い出した赤坂睦月(あかさか むつき)は、同じ大学の同じサークルに所属していて暇そうにしていた日向に車を運転させて、来てみたのはいいものの、想像していたよりも怖い場所ではない事に失望したようだった。
そんな二人の後ろにいて、冷ややかな視線を向け続けている三十三佐知(みとみ さち)が何も言わずに立っていた。
「本当に入るの?」
トンネルの前まで歩かされて、トンネルの奥の様子をおっかなびっくり見つめている日向が振り返った。
行くのを止めようよと言いたげに引きつった顔をしていた。
夜のトンネルは禍々しい空気を含んでいて、行くのも躊躇われた。
日向も赤坂も懐中電灯を手にしているが、LEDの光では心許なかった。
「な~に怖がっているのよ、幽霊なんて出ないわよ。ほら、さっさと先に行きなさいよ、男なんでしょ?」
赤坂は怖がりの日向に声をかけた事を若干後悔しつつ、鋭い目を刺すように見つめてトンネルに入るよう促した。
「……あ、ああ。分かっているって。怖がっているかもしれないと思ってさ」
引き返す事ができないと分かってか、日向は不承不承頷いて、トンネルと再び向き合った。
「……行くぞ」
勇気を振り絞るように頬をピシャリと叩いてから日向が歩を進める。
最初は躊躇いがちだったが、段々と普段と変わらない歩調となる。
歩き出してみたら、自然と勇気が出て来たのだ。
「何よ、できるじゃないの」
呆れたように言ってから赤坂が歩き出す。
日向がようやくトンネルに入ったのを見届けてから赤坂は小走りで追いつき、追い越してトンネルの中へと消えていく。
「あ、待って。赤坂さん」
赤坂に追いつかないと思って日向も走り出す。
そんな二人が見えなくなってからようやく三十三もトンネルの方へと歩き出す。
そして、三十三がトンネルに入ろうとしていた時に、
「ぎゃああああああああああああああっ!!」
「な、何よ、あれぇぇぇぇぇぇっ!!」
赤坂と日向が追い越し追い抜きを繰り返しながらトンネルから出て来て、三十三とすれ違った。
三十三はそんな二人など興味がないとばかりに一顧だにせずにトンネルの中へと入っていった。
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