第33話 わたし達の決意
突然聞こえてきた大きな声は、近くの部屋の中にまで届いたみたいで、何かあったのかと、何人か出てきて様子を見に行っている。わたしも気になって、みんなといっしょに声のする方に行ってみた。
その間もずっと、叫ぶような声は続いていた。そして廊下の角を曲がると、その声の正体が目に飛び込んできた。
(岡田くん!?)
そこには、先生に肩をつかまれ取り押さえられている岡田くんの姿があった。
「岡田くん、落ち着いて。こんな時間に勝手に外に行こうとして、どうするつもりだい」
外に行こうとした? 何で?
不思議に思っている間にも、先生はなだめるような言葉をかけている。だけど岡田くんはそれでも暴れるのをやめずに、何度も声をあげていた。
「いやだ!要がいなくなったんだろ。だったら、みんなで探した方がいいじゃねーか!」
「それは先生達や警察の人がやるから、大人しく部屋に戻って!」
そうか、ユキちゃんを探しにいこうと、助けに行こうとしてたのか。必死でわめくその姿を見て、ユキちゃんのことをどれだけ心配しているかが、いたいくらいに伝わってきた。好きな子が誘拐されたんだから当然だ。
だけどどれだけ抵抗しても、取り押さえる先生の力にはかなわない。とうとう抱えあげられて、そのまま部屋に戻されていく。
その様子をながめていると、後ろから小さな声が聞こえてきた。
「探しに行くって言っても、見つかるわけないだろ」
振り返って、声のした方を向く。沖くんだ。
「わざわざ拐っておいて、ちょっと探して見つかるようなところにいるわけない。ムチャだ」
確かにそうだと思う。さっき沖くんが使ったような発信器があるならともかく、なんの手がかりもないまま探して、なんとかなるわけがない。ハッキリ言うと、ムダにしかならないかもしれない。きっと岡田くんだって、ムチャなことを言ってるのは分かってると思う。
だけどそれでも、わたしはそれを笑ったりはできなかった。
「でも、わたしは岡田くんをすごいって思う。そりゃ何にもならないかもしれないけど、あんな風にできることを探すなんて、わたしにはできないもん」
そう言言うと沖くんはゆっくりうなずいてそれに答えた。
「ああ、俺もそう思う。すごいな、あいつ」
沖くんも、ムチャだって言いながら、そんな岡田くんを決して笑いはしなかった。最後まで暴れて、ユキちゃんを探しに行くのをやめようとしなかった岡田くんを、すごいと言った。
「みんなももう部屋に戻って寝なさい。」
先生は集まってきたみんなに向かってそう言いながら、岡田くんを部屋に連れていく。みんなはまだ少しの間さわいでいたけど、しだいに一人、また一人と、それぞれ部屋に帰り始めた。
だけどわたしと沖くんは、まだそこから動かなかった。動けなかった。
そして気がつくと、こんなことを言っていた。
「ねえ、沖くん。ユキちゃん、今ならまだ、さっきのところから動いてないかもしれないよね」
「ああ」
「急いで行ったら、間に合うかもしれないしれないよね」
「ああ」
それは、特に深く考えて言ったわけじゃない。だけどユキちゃんのことを考えると、さっきの岡田くんを思い出すと、自然とこう思った。
「わたしだけで、ユキちゃんを助けられると思う?」
「本気か?」
わたしだって、ムチャを言っているのは分かってる。お父さんからは何もしないようにって言われたし、何よりわたしだけじゃ危険だ。
だけど──
「本気だよ」
こうしている間にも、ユキちゃんは別のどこかに連れていかれるかもしれない。そうなったら、助け出すのはもっともっと難しくなる。それなら、例えどんなに危なくても、何もせずにじっとしているのはイヤだった。
「ムリだろうな。相手は大人で、本物の忍者なんだ。一人でまともに戦って、勝てるわけない」
沖くんの答えを聞いて、ぐっと言葉につまる。普通に考えて勝てない相手だってのは分かってたけど、そこまでハッキリ言われたらやっぱりショックだ。
だけど沖くんは、それからさらにこう続けた。
「でも二人なら、少しはマシになるかもしれない」
「それって……」
「オレも行くってこと。ダメか?」
ダメなんてとんでもない。いくら行くって決めていても、決して不安がないわけじゃない。だけど沖くんも一緒だと思うと、少しはその不安もマシになる。
「でもいいの? 沖くんも、何もするなって言われてるんでしょ」
「ああ。後で怒られるかもな。それに、忍者にとって命令は絶対だ」
沖くんは肩をすくめて、だけど決して止めるとは言わなかった。
「オレ、怪我させた父さんのためにも、ずっと忍者になりたいって思ってた。けど、目の前で要がさらわれたの見て、さっきの岡田を見て、それに、泣きそうな芹沢を見て、今何もしないのは、すごく嫌だと思った」
それを聞いて、初めて自分が泣きそうになっていることに気づく。どれだけ不安になっていたかに気づく。
だからこそ、沖くんの言葉を嬉しいと思った。
「芹沢こそいいのか? さっきも言ったけど、忍者にとって命令は絶対だ。もしかすると、もう忍者を目指せなくなるかもしれないぞ」
「いいよ。だってわたしは、忍者じゃなくてユキちゃんの友達だから」
元々、将来忍者になるかなんてわからない。わたしにとって、忍者になることよりもユキちゃんの方がずっと大事だ。
「オレ達二人で助け出すぞ」
「うんっ!」
気がつけばわたし達は二人とも右手をさしだし、お互いにそれを強く握りあっていた。
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