第31話 ユキちゃんのお父さん
お父さんに電話をかけたら、なぜかその隣にはユキちゃんのお父さんがいた。なんで?
「おどろかせて悪かったね。実はユキちゃんのお父さんとは、昔からの知り合いだったんだよ」
それを聞いて、ユキちゃんがうちに泊まった時のことを思い出す。あの時お父さんは、会ったことの無いはずのユキちゃんのお父さんに変化していた。そう思っていた。
だけど本当は、ずっと前から知ってたんだ。だけどそれを聞いて、同時に新しいナゾが生まれる。
「それにユキちゃんのお父さんって、大きな会社の社長さんだよね。どう言う知り合いなの?」
「ええと、それはね……」
言いにくいのか、なんだか歯切れの悪いお父さん。それに変わって、ユキちゃんのお父さんが答えてくれた。
「真昼ちゃん。君は、お父さんのやっている忍者が、どんなお仕事をするのか知っているかな?」
「ええと、確かボディーガードみたいな仕事が多いって言ってました」
「そう。もっと正確に言うと、直接守るだけでなく、警備方法を考えたり、他の人にそれを教えたりもしているんだ。そして、うちの会社は、そんな真昼ちゃんのお父さんの仕事相手のひとつなんだ。真昼ちゃんが生まれる前から、お父さんはおじさん達の会社を守ってくれているんだよ」
お父さん、そんなこともしてたんだ。まだまだ知らない忍者の話、そしてお父さんの話を他の人から聞くのは、なんだかとっても不思議な気がした。
「でも、そんな話今まで聞いたことなかったです。お父さん、どうして教えてくれなかったの?」
「それはね、わたしが黙っていてくれって頼んだんだよ」
「おじさんが?」
「真昼ちゃんにはまだ分からないかもしれないけど、親同士が仕事でつながっていると、子ども達の中にもそれを気にする子がいるんだよ。だけど小雪やその友達には、こんなこと気にして窮屈な思いをさせたくなかった。親は関係なく、本人同士仲のいい子と自由にすごしてほしかった」
電話ごしに聞こえてくるおじさんの声は優しくて、それだけユキちゃんのことが大事なんだなって思った。
「真昼ちゃん。小雪といつもいっしょにいてくれて、ありがとう」
「そんな。だってユキちゃんは、わたしの友達だから」
友達。改めてそう言うのは、ちょっとだけ照れくさい。だけどユキちゃんは、いっしょにいる楽しい、とても大切な友達だ。だからハッキリ答えることができた。
「そうか、よかった。小雪も、何度も真昼ちゃんの話をするし、いっしょに写ってる写真を、何度も送ってきてるよ」
そうなんだ。わたしの知らないところで、ユキちゃんがわたしの話をしてくれている。それがなんだか、すごく嬉しいと思った。
だけどそんなユキちゃんは、今悪いヤツに誘拐されている。それを思うと、今度はとたんに胸が苦しくなってくる。
「どうして稲葉は、ユキちゃんをさらったりしたんだろう?」
ポツリと言ったその言葉は、決して答えを期待していたわけじゃない。だけどそれにも、ユキちゃんのお父さんは返事をしてくれた。
「それは多分、わたしの仕事のせいだろうね」
「おじさんの?」
「ああ。会社が大きくなって、やる事が増えてくると、それをよく思わない人達も出てくる。その稲葉って忍者も、きっとそんなヤツらに雇われたんだろう。今までにも、嫌がらせや攻撃を受けたことは何度かあるんだ。そのたびに真昼ちゃんのお父さんが守ってくれたんだけど、今度はまさか小雪が狙われるとはね。これじゃ、何のために日本に帰らなかったか分からないよ」
「どう言うことですか?」
おじさんは、本当ならこの前の土曜日に、仕事先の国からおうちに帰ってくるはずだった。だけどお仕事が忙しくて、急にそれがムリになったはずだった。
「実は少し前から、こっちで何度も嫌がらせを受けていてね。このまま日本に帰ったら、もしかしたら小雪も危ない目にあうかもしれない。そう思って帰るのを取り止めて、犯人を見つけるため真昼ちゃんのお父さんを呼んだんだ。だけど今思うと、それもワナだったのかもしれない。君のお父さんは優秀だ。相手の狙いが最初から小雪だったとしたら、少しでも遠ざけておきたかったんだろう」
「そんな……」
じゃあユキちゃんはそんなヤツのために、久しぶりにお父さんに会うのをじゃまされて、今も怖い目にあってるってことだ。
ひどい。あまりにも勝手な犯人に、ふつふつと怒りがこみ上げてくる。
「お父さん、稲葉を捕まえて。一流の忍者のお父さんならできるでしょ」
「もちろんだよ。準備ができたら、お父さん達もすぐに日本に戻るから」
助けを求めると、すぐに電話の向こうから力強い返事が届く。だけど最後に言った、日本に戻ると言うのが気になった。
おじさんは外国に行ってたんだから、そこに向かったお父さんだって、もちろん同じ国にいるのは当然だ。だけど……
「外国からだと、帰ってくるのって時間かかるよね?」
「……そうなるな。きっと稲葉も、そこまで考えて仕掛けてきたんだろう」
その狙いはみごと成功したってわけだ。少なくとも、お父さんがかけつけてくるまでは、ユキちゃんはずっと怖い思いをすることになる。
「ねえ、わたしに何かできることない?お父さんが来るまでの間に、色々調べたりできるかも」
ユキちゃんが危ない目にあっているかもしれないのに、じっとしているなんてできない。そう思って言ってみた。
ユキちゃんを助けるためなら、何だってやりたかった。
わたしも忍者なんだから、できることがあるかもしるないって思った。
だけどそれを聞いたお父さんは、静かに言った。
「いや、真昼は何もしちゃダメだ。いいかい、絶対に、自分で何とかしようと思ってはいけないよ」
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