第25話 見られた
それから少しの間、お喋りしながら休憩して、改めて出発しようってなったんだけど、その時涼子ちゃんが声をあげた。
「わたしの帽子がない」
見ると確かに、少し前まであったはずの帽子が、いつの間にか無くなっていた。
「ここに座った時、近くに置いといたはずなのに」
「風で飛ばされたのかもしれない。探してみるか」
男子二人も加わって、全員で涼子ちゃんの帽子を探す。しばらくすると、岡田くん声が届いた。
「おーい、あったぞ。あったけど……」
だけどなんだか、それは困っているようにも聞こえた。
どうしたんだろうと思いながら、声のする方に駆けていったけど、その理由はすぐに分かった。
わたし達が休憩していた場所のすぐ近くには柵があって、そのすぐ先は崖になっていた。そしてその崖の途中に、涼子ちゃんの帽子は引っ掛かっていた。
わたし達がお喋りに夢中になってる間に、ここまで風で飛ばされたんだろう。
「どうしよう……」
そんなに離れた場所に引っ掛かってるわけじゃないけど、崖の上から手を伸ばしたくらいじゃとても届きそうにない。
「よし、俺が行って取ってきてやる」
岡田くんが柵を乗り越えようとするけど、すぐにみんなから止められる。
「危ないよ。落ちたらケガするし、絶対にやっちゃダメ!」
「わ、分かったよ」
帽子より、ケガをしない方が大事。当然だよね。
正直、わたしならこれくらいの崖、落ちずに帽子を取って戻ってくる自信はあった。だけど今のを見ると、取りに行くって言っても絶対反対されるだろう。
あきらめるしかないのかな? けどやろうと思えばなんとかできるのに、何もしないで終わるのは嫌だった。
だけどその時、ある考えがひらめいた。
「長い木の枝があれば、取れるかもしれないよ。わたし、探してくる!」
そう言って、みんなから離れるわたし。だけどそんなつごうのいい長さの枝なんて、なかなか落ちてない。
でもそんなの分かってる。本当は木の枝を探すんじゃなくて、みんなから見えないところに行くのが目的だった。
少しはなれた場所に行って、しげみの中に隠れる。ここならみんなからは見えないし、逆にこっちからは、さっきの崖と引っ掛かってる帽子がよく見えた。
そこでわたしは、こっそりと忍法を使う。印を組んで、気をためて、叫ぶ。
「風遁の術!」
風遁は、風を操る忍法だ。とたんに崖の下から突風が吹いて、帽子を上に上にと押し上げて、崖の上まで運んでいく。
遠目にみんなの様子を見ると、偶然にしてはできすぎた事態におどろいているようだった。でもまさか、忍法を使ったとは思わないだろう。
これで、涼子ちゃんの帽子は無事戻った。わたしも、早くみんなのところに戻ろう。
だけどもう一度みんなのいる方を見た時、そこにわたし以外にもう一人姿が見えない事に気づいた。
「沖くんがいない」
もしかして、わたしがさっき言ったみたいに、長い木の枝でも探してるのかな? そう思ったけど、すぐその考えは止まってしまった。
わたしのすぐ後ろから、沖くんの声が聞こえてきたからだ。
「芹沢。今、何をしたんだ?」
予想外のその声に恐る恐る振り返ると、やっぱりそこにいたのは沖くんだった。
(いつからいたの?)
一応、周りに誰もいないか確認したはずなのに、ちっとも気がつかなかった。しかもさっきのセリフって……
「今、忍法を使ってたよな。やっぱり、忍者だったんだな」
バレた!
ビックリして、なんて答えればいいのか分からなくなったわたしを、沖くんはじっと見つめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます