第19話 始めてすぐに作戦失敗⁉
ユキちゃんが泊まりに来た日の夜。布団から顔を出して隣を見ると、ユキちゃんはスヤスヤと寝息をたてていた。
晩ごはんの後、二人でお喋りして、ゲームをして、とっても楽しかったけど、はしゃぎすぎた分疲れもたまったみたい。今はグッスリ眠っていて、ちょっとやそっとじゃ起きそうにない。
時計を見ると、時刻は午前2時。わたしも、いつもなら寝てる時間だ。
だけどわたしは目を閉じることなく、音をたてないよう注意しながら、こっそり布団から抜け出した。
そして自分の部屋からも出ていって、家の中にある別の部屋に向かって歩いていく。お父さんの部屋の隣にあるそこには、タンスが一つ置いてあって、中にはお父さんがたまに着るスーツや、よそ行きの服が入ってるはずた。タンス以外はほとんど何もないから、わたしはタンス部屋って呼んでいる。
ちなみに忍者衣装は、もし人に見つかったら大変だから、普通は分からないところに隠してある。
タンス部屋に入る前にお父さんの部屋を確認すると、まだ電気がついていて、何か話し声が聞こえてきた。
きっと、忍者のお仕事の電話なんだろう。こんな夜中だけど、忍者に昼も夜も関係ないってお父さんは言っていた。
起きているのはともかく、電話中なのはチャンスだ。これなら、お父さんに気づかれずにすむかもしれない。
タンス部屋に入って、タンスの中を覗いてみると、そこには思った通りお父さんのスーツが入っていた。少しの間、これを借りよう。そう思って静かに手を伸ばし、取り出そうとしたその時だった。
「真昼、何をやっているんだい?」
「────っ!」
急に後ろから声がして、悲鳴をあげそうになったところをなんとかこらえる。恐る恐る後ろを振り返ると、いつの間にいたのか、そこにはお父さんが立っていた。
「ど、どうして? 電話してたんじゃなかったの?」
「ああ、さっきまではね。だけど途中で変な気配を感じてね。早々に電話を切り上げて、何をしているのか様子を見に来たって訳だよ」
気配ならバッチリ消したつもりだったのに、こんなにアッサリバレるなんて。こういうところはさすがプロの忍者だ。
「それで、こんな時間に黙ってお父さんのスーツを持ち出して、いったい何をしようとしていたんだい?」
「それは……」
聞かれて簡単に話せるようなら、最初からこんな風に黙ってコソコソしたりなんてしない。
だけど黙ってばかりでどうにかなるわけもなくて、仕方なく、やろうと思っていた事を話す。
「ユキちゃんを、お父さんに会わせてあげようと思ったの」
「お父さんに?」
「うん。忍法に『変化の術』ってあるでしょ。それを使って、わたしがユキちゃんのお父さんに化けて会おうって思ったの」
変化の術って言うのは、その名の通り、別の人の姿に変身するって言う忍法で、やろうと思えば大人の姿にだってなれる。
でもわたしじゃ服まで変えることはできないから、それはお父さんのスーツを借りて何とかしようと思っていた。これが、こんな時間にこっそりタンスをあさっていた理由だった。
問題は、これを聞いてお父さんが何て言うかだ。
「真昼。軽々しく人前で忍法を使ってはいけないって教えたよね」
やっぱり、思った通りの事を言われてしまった。
そんなのは分かってる。だからお父さんにもナイショでやろうとした。だけどこうしてバレてしまって、それでも簡単には諦められなかった。
「ユキちゃんが本当のお父さんだと思ったままなら、忍法を使ったってバレないよ。それならいいでしょ?」
なんとか許してもらいたくて必死にお願いするけど、お父さんはいいよと言ってくれなかった。
変わりに、こう言ってきた。
「だけどね真昼。もし真昼がユキちゃんのお父さんに化けて会ったとするよ。でもその後、ユキちゃんが本当のお父さんと話した時、そんなの知らないって言われたらどうするんだい? ユキちゃんだって、帰れないって言ってたお父さんがこんな時間にやって来たら、きっとおかしいって思うんじゃないかな」
「それは……」
「それに、ちゃんとユキちゃんのお父さんになれるのかい? 今までも変化の術は練習してきたけど、大人の男の人になったことはないだろ」
お父さんは強く叱ったりはしなかったけど、一つ一つ言葉を選んでは、わたしのやろうとしていた事がどれだけ難しいかを話した。わたしも最初は、それでもやるって言いたかったけど、話を聞いていくうちにだんだん自信が持てなくなっていった。
「じゃあ、ユキちゃんをお父さんに会わせてあげられないの?」
そう口にすると、悲しさと悔しさがこみ上げてくる。ズシンと気持ちが落ち込んでいって、いつの間にか頭が下がって、気がつけば下を向いていた。
だけどそんなわたしに向かって、お父さんはさらにこう言った。
「そう言う時は、まずはお父さんに話しなさい。一人より二人で考えた方が、きっといいアイディアが出るからね」
「えっ?」
思わず顔を上げると、お父さんは優しく笑ってくれていた。
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