第16話 岡田君、もしかして……

 色々あって、岡田くんにオシャレについての意見を聞いてからそろそろ一時間。その間、わたしとユキちゃんは洋服やアクセサリをあれこれ手に取っては、岡田くんに感想を聞いていた。聞いてはいたんどけど……


「ねえ、これはどう?」

「いいんじゃねーの」

「じゃあ、こっちは?」

「いいんじゃねーの」

「もう、さっきからそればっかりじゃない」


 適当な返事をする岡田くんに、ユキちゃんが文句を言う。なんだか普段の二人とは立場が逆になったみたい。それからユキちゃんは新しい服を見つけると、とりあえず着てみようと試着室に入っていく。


「なあ。女って、服買うだけでもこんなに大騒ぎするもんなのか?」


 岡田くんは、疲れた顔でグッタリとしながらつぶやいた。


「もしかして、なにか用事でもあったの?」

「いや、別になにもねーけど、買い物一つにこれだけかかったら疲れるだろ」


 わたしは、いろんな服を見て回るだけでも楽しいんだけどな。それに、ユキちゃんがあんなに一生懸命あれこれ選んでいる理由も、よく考えればなんとなくわかる気がした。


「きっと、一番かわいい格好で会いたいからだよ」

「なに?かわいい格好で会いたいって、もしかしてあいつ、好きなやつがいるのかよ!?どこのどいつだ!」


 なぜかとたんに慌てる岡田くん。まあ、好きな人って言えば好きな人だね。


「ユキちゃんのお父さんだよ」

「は? 何で父ちゃん相手にかわいい格好なんてしなきゃなんねーんだよ」


 岡田くんは、訳がわからないって顔をしてる。だけどユキちゃんのおうちの事を知ってるわたしは、それで間違いないと思ってる。


「ユキちゃんのお父さんは忙しくて、なかなか一緒にごはん食べたりもできないからね。久しぶりに帰ってくるから、かわいくしていたいんだよ」


 ユキちゃんがお父さんのことを話すと、時々寂しそうになる事がある。だけど一緒に遊んだりごはんを食べたりした話になると、とても嬉しそうになる。きっとユキちゃんにとってお父さんと一緒にいられる時間はそれだけで特別だから、だから会うときは目一杯オシャレしたいんだと思う。


「そうか。いつもは家に父ちゃんがいないのか。あいつも大変なんだな」


 岡田くんも納得したみたいで、少ししんみりした声を出す。ユキちゃんの買い物に付き合わされたり、気にかけたり、なんだか今日の岡田くんはいつもと違うみたいだよ。


「そう思うなら、ユキちゃんにイジワルしないであげてね」


 これがきっかけで、岡田くんのイジワルも直ってくれればいいな。そう思って言ったんだけど、それを聞いて岡田くんは目を丸くした。


「俺がいつ要にイジワルしたんだよ!」

「しょっちゅうじゃない。本を読むの邪魔したり、無理やりドッジボール誘ったり、ユキちゃんにばっかりボールぶつけたり──」


 まさか、あれだけやってて自覚なしってことはないよね。もしそうだったらお仕置きしてやろうか。そう思ったけど、岡田くんは納得できないって顔をした。


「だってあいつ、いつもつまらなさそうな本ばっかり読んでるじゃねーか。それよりみんなで遊んだ方が楽しいだろ」

「じゃあ、何度もボールをぶつけたのは?」

「ボールが飛んでこないとつまらねーだろ」


 ちょっと待って。今まで、てっきりユキちゃんが嫌いだからイジワルでやってると思ってたけど、もしかして違うの?


「それじゃ、岡田くんはユキちゃんと遊びたくて何度も誘ってたの?」

「べ、別に要と特別遊びたいって訳じゃないぞ。ただ、いつも本ばっかり読んでたらつまらないだろうなって思って誘っただけだ」


 胸を張る岡田くん。だけどわたしは頭を抱えた。本当にユキちゃんを楽しませようと思ってやってるなら、ものすごーく間違ってるよ。


「あのね岡田くん。ユキちゃんは、本が好きだから読んでるの。つまらないなんて思ってないよ」

「えっ?」

「あと、ドッジボールは嫌い。ボールぶつけられるのが怖いんだって」

「ええっ!? だってそれが面白いんじゃねーか。本だって、あんな字ばっかりのやつ読んでも、頭がいたくなるだけだろ」


 どうやら岡田くんは、自分が楽しいものはみんなも楽しい。つまらないものはつまらないって思い込んでるみたい。でもそれ違うから。


「そうじゃない子もいるの。ユキちゃんは本を読むのが好きで、ドッジボールは嫌いなんだから」

「う、嘘だ。だって要のやつ、お前がドッジボールで俺達をやっつける度に、凄いとかカッコいいとか言ってたじゃねーか。だから俺だって、お前より上手くなって凄いとこ見せてやろうとしたんだぞ!」


 ユキちゃんを誘うだけじゃなく、わたしにも勝負を挑んできたのには、そんな理由があったんだね。


「わたしはユキちゃんの味方で、危ないとこを守ってるもん。岡田くん、ユキちゃんにボールぶつけようとするだけで、ちっとも守ってないじゃない。全然違うよ」


「そんな。じゃあ俺は、ずっとアイツが嫌いなドッジボールに無理やり誘ってたって事なのか?」


 ようやく分かってくれた。正確には、岡田くんのせいでドッジボールが嫌いになったんだけどね。でも、それを言うのはやめておいた方がいいかな。今言ったことは岡田くんにしてみれば衝撃の事実だったみたいで、ショックで呆然としていた。


 やってることは間違いだらけだったけど、元々ユキちゃんを楽しませようと思ってやったんだとしたら、ちょっぴりかわいそうだ。


 それにしても、岡田くんはどうしてそんなにユキちゃんに構うんだろう。今までは、てっきり嫌いだからイジワルしてるんだろうと思ってたけど、さっきから話を聞いてると、そう言うわけじゃないみたい。


 つまらなさそうにしてるからって声をかけたり、ドッジボールで凄いとこ見せてやろうと頑張ったり、むしろ好きな人でもないとやらないと思う。


(ん、好きな人?)


 その時、わたしの中に考えが浮かんだ。何度もユキちゃんに構う岡田くん。これって──


「ねえ。もしかして、ユキちゃんのこと好きなの?」

「なっ、なっ、なっ――――――っ!」


 思いついたことを聞いてみたけど、岡田くんはすぐには答えてくれず、かわりによくわからない声をあげていた。

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