第14話 違う違う~っ!

 それから、三人並んで学校を出る。わたしが保健室で休んでいた分、いつもよりちょっとだけ遅い時間だ。


「そう言えば涼子ちゃん、今日はわたし達と一緒に帰ってよかったの。せっかく先輩と付き合えたんだから、一緒にいたいんじゃない?」

「今日は部活があるって言ってた。だけど今度の土曜に一緒に遊ぼうって約束したんだ」


 相変わらず、幸せいっぱいの涼子ちゃん。お休みの日、好きな人とずっと一緒なんて楽しいんだろうな。


 それからわたし達は、宿題のこととか今夜あるテレビのこととかを話したけど、その途中、話が途切れたタイミングで二人に聞いてみた。


「ねえ、二人とも、沖くんのこと、なにか知らない?」

「沖くん?」


 突然の質問にキョトンとする二人。


「うん。わたし、今まで同じクラスになったことが無いからよく知らなかったんだけど、どんな子なのかなって思って」


 沖くんが忍者かどうかなんて、いくら考えても分からない。けどその前に、そもそもわたしは沖くんのことをほとんど何も知らない。


 だけどユキちゃんや涼子ちゃんなら、わたしの知らない何かを知ってるかもしれない。まさか忍者かどうかなんて分かるとは思えないけど、少しでもそのヒントが見つかればと思って聞いてみた。


「でもわたしも、沖くんと同じクラスになったことはないから」

「あっ、そっか」


 ユキちゃんは、一年生の頃からずっとわたしと同じクラスだから、当然、沖くんと一緒にのクラスになったのは今回が初めてだ。

 なら、涼子ちゃんはどうだろう?


「わたしは、前に同じクラスだったことがあるよ」

「ほんと!?どんな子だった?」

「って言っても、そんなに仲良しだったわけじゃないよ。知ってるのは運動が得意だって事と、男子の中ではあんまり騒がないってくらいかな?」


 うーん。それだけじゃ、沖くんの謎を探る手がかりにはなりそうもない。運動が得意だってのはよーく分かったし、忍者じゃないかって思った理由の一つではあるけど、それだけで決定ならオリンピック選手は全員忍者ってことになる。


「ごめんね、なんにも知らなくて」

「ううん。思い出そうとしてくれてありがとう」


 とは言え、これで沖くんについて調べようって言うわたしの作戦は、あっさり終わってしまった。


「でも、どうして急に沖くんのこと知りたがるの?何かあった?」

「うーん、何かあったと言うか、どんな子か知りたいって言うか……」


 まさか、わたしが忍者だってことがバレたかもしれないとか、沖くんも忍者かもしれないとか、そんなことを言うわけにはいかない。

 だけどそんな曖昧な答えを聞いて、涼子ちゃんがなにやらうーんと唸りだした。


「ねえまひるちゃん。それって、沖くんが気になるってことだよね」

「うん。気になるかどうかって言われたら、すっごい気になる」


 本当に忍者なのかとか、あの時職員室で何をしていたのかとか、聞きたいことはたくさんある。


「もしかして、さっき二人でいた時、ドキドキした?」

「したよ。なんで知ってるの?」


 忍者って言葉が出てきた時は、ドキドキどころか心臓が止まるかと思った。だけど涼子ちゃんは、どうしてそんなことが分かったんだろう。


「それって、もしかして……………」

「もしかしてって何?」


 一人何かを考えている涼子ちゃんを見て、わたしもユキちゃんも首をかしげる。だけど涼子ちゃんが次に口を開くと、そこから思いがけない言葉が飛び出てきた。


「まひるちゃん。それってもしかして恋じゃないの?」

「恋!?」


 それがあまりにも予想外で、思わず素っ頓狂な声をあげるわたし。だけど涼子ちゃんは、自信たっぷりに続ける。


「だって沖くん、ドッジボールの時まひるちゃんを助けてくれたし、保健室にも付き添ってくれたでしょ。それで、沖くんのこと好きになっちゃったんじゃないの?」

「いや違うから!そりゃドッジボールで助けてくれたのは嬉しかったし、保健室に行く時手を握られたのにはドキッとしたけど……」

「ほらやっぱり。きっと初めての恋に自分でも気づいてないだけだよ」


 そうじゃないの。沖くんが忍者かもしれないって思って気にしてるだけなの。

 できることならハッキリそう言ってやりたかったけど、そんなことできるはずがない。


「ユキちゃん。ユキちゃんなら分かってくれるよね?」


 このままじゃ、わたしが沖くんを好きだって勘違いされちゃうよ。何とかしてほしくてユキちゃんに助けを求めるけどムダだった。


「そっか。まひるちゃんは沖くんのことが好きなんだ。そう言えば、ステキな彼氏がほしいって言ってたっけ!」

「だから違うってば!」

「涼子ちゃんに続いてまひるちゃんにも好きな人ができるなんて。わたしにも誰かいないかな?」

「わたしにだっていないよ~っ!」


 ユキちゃんはユキちゃんで、涼子ちゃんの話を完全に信じてしまっていた。

 こうなったらもう止められない。多くの女の子は、恋愛の話が大好きなんだ。


「沖くん、いいと思うよ。助けてくれたり心配してくれたりして、優しいじゃない」

「まひるちゃん二人が付き合ったら、わたしと一緒にダブルデートできるかもね」

「でも、付き合うって言ってもどうすればいいのかな? 涼子ちゃんみたいにラブレター渡すとか?」

「それよりも、もっと仲良くなる方が先だと思うよ。一緒に遊んだり、おしゃれして可愛くなったところを見せるとか」

「さすが涼子ちゃん。彼氏もちは違うねー」

「もう、からかわないでよ。それに彼氏持ちって言っても、まだお付き合い始めたばかりだってば」


 いや、二人ともわたしのために色々考えてくれるのは嬉しいんだけどさ、わたしは一言も沖くんが好きだなんて言ってないからね。

 だけどここまで盛り上がっていると、今さら何を言っても二人は止まらない。


「「よし、決まった!」」

「ふえっ、なにが?」

「沖くんへのアピール作戦のプランだよ」

「プランもなにも、いつの間にそんな作戦することになったの!?」


 戸惑うわたしをよそに、二人はハイタッチして喜んでいる。わたし、なにも聞いてないんだけど。


「いきなり告白するよりも、まずは少しずつ近づいていった方がいいと思うの。それで、近づくためにはどんなアピールをすればいいかって考えたんだけどね」

「そもそも近づかなくていいから!」


 どうしてこうなったんだろう。わたしはただ、沖くんが忍者かどうか確かめたかっただけなのに。


(……ん、まてよ?)


 だけどその時、わたしの頭にある考えがひらめいた。


(沖くんの近くにいたら、忍者かどうかの手がかりがつかめるかもしれない)


 例えば、忍者にしかできないような怪しい動きをするんじゃないか。こっそり忍法を使うんじゃないか。そんな時近くにいたら、忍者だって言う確かな証拠を見つけられる。

 そこまで分かりやすいものが無かったとしても、沖くんのことを調べるなら、近くにいた方がずっといいに決まってる。


「やる!わたし、もっと沖くんの近くにいたい!」

「おおっ、ついに認めた!」

「がんばって!わたしたちも応援するから!」


 高らかに宣言すると、二人とも声をあげてはしゃぎ出す。

 恋とは違うって教えられないのは悪いけど、二人が協力してくれるなら便りにしたい。


「それで、そのアピール作戦ってどういうの?」

「それはね、今度ある宿泊研修を利用するんだよ」

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