第13話 バレたら怒られる!
沖くんの口から出てきた、忍者と言う言葉。それは、わたしを動揺させるのには十分な威力を持っていた。
「な、なに言ってるの。わたしが忍者なんて、そんなことあるわけ無いじゃない」
「俺は忍者みたいな素早い動きだって言っただけで、本物の忍者だなんて言ってないぞ。それとも、本当は正体を隠した忍者なのか?」
「いや、そう言うわけじゃないんだけどね……」
本当は、思い切りそう言うわけだ。
決して問い詰めるような強い口調で言ってるわけじゃないけど、なんだか探られているようで居心地が悪い。もしかしたら、わたしが忍者だって知っていて、本当の事を喋らせるためにこんなことを言ってるんじゃないかって思ってしまう。
だとしたら非常にまずい。もしわたしが忍者だってことがバレたら、そんなことになったら……
(お父さんに怒られる)
昨日、忍者であることは絶対秘密って言われたばかりだってのに、バレちゃったなんて言ったらいったいどれだけお説教されるだろう。だからここは、なんとしてもごまかさないと。
「だいたい、今の時代に忍者なんているわけ無いじゃない」
「本当にそう思うか?」
「…………うん」
本当はそう思わないです。今も忍者がいるって知ってます。でもそれを言うわけにはいかないので嘘つきます。
だけど沖くんの次の言葉に、そんな嘘さえも出てこなくなった。
「わからないぞ。もしかしたら、こっそり職員室に忍び込んだりしてるかもな」
「ふぇっ!?」
職員室に忍び込む。それはまさに、昨日わたしがやったことそのものだ。これ、もしかして完全にバレちゃってる?
(どうしよう。どうしよう。どうしよう)
なにか言ってごまかさないと。そうは思うけど、ちっとも言葉が出てこない。
隠し事って言うのは、普段の修行やのドッジボールよりもずっと大変だ。さっきまでとは全然違う意味で、ソワソワした気持ちがいっぱいになって、どうすればいいのかわからなくなる。
だけどその時、まるでそんなわたしを助けるみたいに、急に保健室のドアが開いた。
「まひるちゃん、大丈夫?」
声をあげて入ってきたのは、ユキちゃんと涼子ちゃん。さらに坂田先生までいた。
ドッジボールが終った後、みんな一度教室に戻って帰りの会をやって、それから三人でここに来たらしい。これぞ天の助けだ。
「二人とも心配してましたよ。まだ痛みはありますか?」
「ありません。すっごく元気です!」
沖くんの話なんて忘れたみたいに、先生の言葉に全力で返事をする。
その途中、チラッと沖くんの方を見るけど、みんながやって来た今、忍者についての質問を続ける気はないみたいで何も言ってこなかった。
ホッとしていると、坂田先生が冷やしてあるわたしの足を見て眉を下げた。
「ごめんなさい。これだけのケガなら、ちゃんと止めるべきでしたね」
「いえ、わたしも痛いの忘れてましたから」
先生が頭を下げるけど、わたしだって沖くんに言われなかったらこうして保健室にくることもなかっただろう。
それからもう少しの間足を冷やしてたけど、保険の先生が戻ってきて、これならもう大丈夫だろうって言われたから帰ることにした。
「歩くのが大変なら、先生が車でお家まで送っていこうか?」
坂田先生がそう言ってくれたけど、もうそんなに痛くないし、ユキちゃんや涼子ちゃんと一緒に帰りたいから断った。
「それじゃ、帰ろうか。でもその前に着替えなきゃ」
「鞄と着替え、持ってきたよ」
「ありがとう」
ユキちゃん達からそれらを受け取りながら、沖くんを見る。
さっきまで、忍者についてあれこれ言ってきていた沖くん。結局ちゃんと答えることはできなかったけど、もしかしてまだ疑っているのかも。みんなの前で、また同じように聞かれたらどうしよう。
そう思って不安になったけど、その心配はすぐになくなった。
「沖くん。まひるちゃんが着替えるから、出てもらっていい?」
「ああ、そうだな。俺、先に帰っとくから」
涼子ちゃんの言葉に、沖くんは頷いて保健室から出ていこうとする。これで、ひとまず危機は去ったと思っていいかな。
だけど扉を閉める直前、沖くんは振り替えって、小さく顔を出して口を開く。いったい何を言う気だろうと、思わず身構える。
「芹沢」
「な、なに?」
「痛いと思ったら、あんまり無理はするなよ。お大事にな」
「う……うん。つきそってくれてありがとう」
今度は何を言われるのかと警戒していたけど、ただ心配してくれただけだった。
驚きながらお礼を言うと、沖くんは小さくうなずいて、今度は本当に帰っていく。
(さっきまで忍者こことばっかり聞いてきたのに、ここでいきなり心配してくれるなんて、ズルいよ)
忍者の事を聞かれた時は、不安で苦しかった。
だけど、あんな風にケガの心配をしてくれると、そんなのも忘れて嬉しくなる。
感謝と不安。これから沖くんには、いったいどっちの気持ちを向ければいいのか、さっぱり分からなかった。
「じゃあ着替えるから、二人とも少し待っててね」
保健室のベッドにあるカーテンを閉めて、普段着に着替え直す。その途中、思い出すのは沖くんのことだ。
忍者かって聞かれただけなら、まだ偶然っかもしれないけど、職員室のことまで言ってたんだから、疑われているのは間違いない。
だけどそうなると、沖くんはどうして職員室の一件を知っていたんだろう。
もちろん忍び込んだことは誰にも言ってない。それを知っているのは、わたし自身か、あの時出会った忍者の男の子だけだった。
そうなると、出てくる答えはひとつだけだ。
「沖くんが昨日の忍者だったってこと?」
忍者の男の子の姿を思い出すけど、ズキンを被っていたから顔は分からない。
だけど、身長は確かわたしと同じくらいで、沖くんもそうだった。そして何より、修行で鍛えているわたしにも負けないくらい、沖くんは運動が得意だった。それは、彼がわたしと同じ忍者だからじゃないか。
なんだか考えれば考えるほど、だんだん沖くんがあの時の忍者だって思えてきた。
だけどそう簡単に決めつけるのは危ない。今までのは全部わたしの想像で、証拠なんてひとつもないんだから、もしかしたらただの勘違いかもしれない。
はたして沖くんは忍者か。もし忍者だとしたら、あの時職員室で何をしていたのか。
一度考え出したら、疑問と好奇心が心の中でみるみるうちに大きくなっていくのが分かった。
(わたしが忍者だって言ったら、沖くんも本当のこと教えてくれるかな? ああ、でもそれはダメ)
忍者だってバラそうかとも思ったけど、すぐにそれはやめることにした。
もしも、「実はわたしは忍者なの。沖くんも忍者なんでしょ」なんて聞いてみて、「ちがうよ」なんて言われたら、取り返しのつかないことになっちゃうよ。
それに、沖くんが忍者かどうかは気になるけど、わたしが忍者だってバレるのは嫌だ。
わがままかもしれないけど、バレたらお父さんから怒られちゃうから仕方ない。
じゃあ、どうやって沖くんが忍者かどうか確かめればいいんだろう?
うんうん悩んだけど答えなんて出てこなくて、気がつけばいつの間にかずいぶん時間が経っていた。
「まひるちゃん、まだかかるのー?」
「あっ、今行くねーっ」
待ちくたびれたのか、ユキちゃんと涼子ちゃんの声が飛んでくる。結局わたしは考えるのをやめ、待たせている二人な所に大急ぎで向かっていった。
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