第10話 ゲーム開始 意気込むけれど……
ついに運命の6時間目。ドッジボールの時間がやって来た。
クラスみんなで体育館に集まって、まずはチーム別けのために先生が作ったクジを引いていく。
「それではみなさん、順番にクジを引きに来てください」
事情を知らない坂田先生がのんびりと言う。
先生が用意した箱の中、折り畳まれた紙が入っていて、そこに書いてかあるのがAかBかでチームが別れる。クジの結果、わたしはAチームになった。
「わたしもAだよ。よかった、まひるちゃんと同じだ」
ユキちゃんがわたしの引いたクジを見て嬉しそうに言う。どっちのチームになるかは完全に運だから、別のチームになることもあったかもしれないんだよね。ユキちゃんは守るって言ったけど、もし別のチームだったらできなかったよ。よかった~
「あっ、俺Aだ。芹沢と一緒」
「俺もだ」
さっきわたしに勝負を挑んできた男子のうち、何人かがそんなことを言っていた。まあ普通に考えると、半分くらいがわたしと同じチームになるよね。
だけどもちろん、残り半分は敵になる。わたし達の後にくじを引いた涼子ちゃんの手には、大きくBと書かれた紙が握られていた。
三人とも同じチームだったらよかったのに。残念。
「私にぶつける時は力抜いてね」
「じゃあ、ちょっとだけね」
そんな事を言いながら、それぞれ決められたチームに分かれていく。そんな中、次は岡田くんがくじを引く番だった。
「よし、Bだ!見たか芹沢!」
わたしと戦えると分かった岡田くんが、なぜか早くも勝ち誇ったようにクジを見せびらかしにくる。岡田くんは、特にわたしとの勝負にこだわっていたから、希望通りになって嬉しいみたい。
と言うか、あそこまでわたしをやっつけるって言っておいて、もし一緒のチームだったらどうしてたんだろう?
だけどわたしだって絶対勝ってやると盛り上がってたんだから、岡田くんと別のチームになれたのは嬉しい。それに沖くんにだって、なんとしても別のチームでいてほしい。
「ねえ、沖くんはどっちのチームなの?」
「えっと、どっちだっけ?」
ユキちゃんと二人で沖くんの姿を探すと、ちょうどクジを引いたところだった。
「沖、お前はどっちだ。見せてみろ!」
岡田くんはそう言うと沖くんの持っていたクジを手にとって、なんと本人より先に結果をみる。沖くんは別に気にしてないみたいだけど、いいのかな?
だけどそんな疑問も、すぐに上がった岡田くんの声で掻き消された。
「B!俺のチームだ!」
よし、これで沖くんとも戦える。願った通りの結果になって、わたしは小さくガッツポーズをした。
「二人とも、負けないからね!」
「いいや、今度こそ俺が勝つ!」
晴れて戦うことが決まってバチバチと火花を飛ばすわたしと岡田くん。だけど沖くんは、そんなわたしたちとは違ってテンションは低かった。と言うか、あんまり興味がないって言った方が近いかもしれない。
「ああ、そう言えば勝負するって言ってたっけ?」
この反応だよ。もしかして忘れてたの!?
その態度に腹が立ったけど、それならそれで、なおさら倒してやるって気持ちが沸いてきた。
「そんな余裕見せて、後で負けて泣いちゃっても知らないからね」
「もし負けたとしても、泣きはしないと思うけど。それより、そろそろチームで別れた方がよくないか?」
これだけ言っても、相変わらず沖くんのテンションは低いままだ。
だけど沖くんの言う通り、いつまでも文句ばっかり言ってられなかった。いつの間にかクラス全員がクジを引き終わって、既にそれぞれのチームに別れ始めていた。
「絶対勝つ!」
「わたしが勝つ!」
最後に岡田くんとそう言い合うと、それぞれ自分のチームの集まっているところに駆け寄っていった。
そしてクラス全員がコートの中に入って、いよいよ試合開始だ。
ドッジボールは、まずはそれぞれのチームの代表一人ずつが前に出て、ジャンプボールをするところから始まる。
わたしは普段なら、誰かやりたいって言ってる子に譲ってるけど、今日はわたしだってやる気だ。
「わたしにやらせて。絶対とってみせるから」
「それじゃ、芹沢でいいか」
お願いすると、みんなすんなり聞いてくれた。休み時間にわたしを倒すって言ってた男子達も、アッサリゆずってくれた。
同じチームになったから、勝負のことも忘れてくれてるみたい。
コートの真ん中に行くと、相手チームからは岡田くんが前に出る。そして先生が上に向かってボールを投げて。試合開始だ。
ジャンプボールは背の高い方が有利で、岡田くんはわたしよりも背が高い。
だけど、それだけで決まるもんじゃない。
「まひるちゃん、頑張って!」
まるでユキちゃんの言葉が合図になったように、わたしも岡田くんもほとんど同時にジャンプする。
さっきも言ったけど、岡田くんはわたしより背が高い。だけどジャンプの高さと早さは、わたしの方が上だった。
「やあっ!」
わたしの方が一瞬早くボールに触れて、自分たちのコートに向かってはたき落とす。
とりあえず、ジャンプボール対決はわたしの勝ち。目の前にあった岡田くんの顔が悔しそうに歪んだ。
わたしが弾いたボールを一人の男子がキャッチする。
さあ、まずはこっちから攻撃だ。そう思いながら、その子がボールを投げるのを待つ。
「いくぞ沖!」
どうやら狙いは沖くんみたい。強い子を真っ先に倒そうとしているのかな。そう思った。だけど……
へろっ――
投げられたボールは、それはそれは弱々しいものだった。
沖くんがどれだけ運動が得意かは知らないけど、もちろんそんなヘロヘロなボールでやられるわけがない。これじゃもうシュートって言うより、相手へのパスだ。
思った通り、何の苦もなく楽々キャッチされる。
「ちょっと、なにやってんの!」
「悪い悪い、手が滑った」
ボールを投げた子に文句を言うけど、その子はヘラヘラ笑うだけだ。
だけど、いつまでもその子にかまってもいられない。相手のコートでは、今まさに沖くんがシュートを放とうとしていた。
わたしはそれをキャッチしようとして、だけどボールが放たれた瞬間、急いで真横に飛んだ。
(速っ!)
沖くんのシュートは、凄いスピードでわたしの立っていた場所を通り抜け、不運にもその後ろに立っていた子を直撃した。
多分あのままキャッチしようとしていたら、取りそこねてアウトになっていたと思う。それくらい、沖くんの投げたボールは速かった。
運動が得意だってのは他の子から聞いていたけど、ここまでとは思わなかった。
「よーし、いけるぞ!」
早速一人倒したことで、相手のコートから大きく声が上がる。
だけどわたしだって、このまま終わるつもりなんてない。さっきの沖くんのシュートにはビックリしたけど、よけることはできたし、用心すればキャッチだってできると思う。
「反撃するよ!」
かけ声を上げながら転がっていたボールをつかみ、今度はわたしがシュートを撃つ。放たれたボールは見事相手に命中して、これで一人やっつけた。
「よしっ!」
それからは両チームの投げ合いが続いて、少しずつ人数が減っていく。
ゲームをしながら観察してみたけど、やっぱり沖くんは他の子と比べても動きがいい。彼のシュートで何人もやられてるし、背中に目があるんじゃないかって思うくらい、どこから狙っても軽々と避けている。
わたしの撃ったシュートもキャッチされた。他の男子ならほとんど一発でやっつけられたから、少しショックだ。
だけどわたしだって、沖くんのシュートを止めもしたし、何人もやっつけている。
他の子も頑張っていて、両チームとも少しずつ数が減っていく。相手チームにいた涼子ちゃんも、ついさっきボールに当たってアウトになったところだ。決して有利ってわけじゃないけど、この調子ならいけるんじゃないかって思ってた。
だけど、思わぬところに落とし穴が潜んでいた。
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