対決、ドッジボール!
第8話 ユキちゃんの不安
「──と言うわけで、お付き合いすることになりました」
「「おおーっ!」」
次の日、私たちは改めて涼子ちゃんから話を聞いていた。
勇気を出して先輩に告白したこと。初めは驚かれたけど、すぐに笑ってOKしてもらえたこと。だいたいの内容は昨日電話で聞いてたけど、照れながらも嬉しそうに話す涼子ちゃんはかわいくて、わたしもユキちゃんも、何度もキャーキャー言いながらそれを聞いていた。
「いいなー、わたしもステキな彼氏がほしいなー」
「えっ、まひるちゃんも好きな人いるの?」
「ううん。いないけど、涼子ちゃん見てたら幸せそうだなって思って」
わたしの場合、まずは好きな人を見つけるところから始めないとね。とは言っても、そんな簡単に見つかるとも思えないけど。
それからしばらく話をしていると、チャイムが鳴って先生が教室に入ってきた。朝の会の始まりだ。
いつものように出席や注意があって、そろそろ終わりかなと思ったんだけど、今日は、もうちょっとだけ続いた。
「4年生になって半月。みんな新しいクラスには慣れましたか? みんながもっと仲良くなるため、今日の6時間目は一時間使ってレクリエーションをやると昨日言いましたよね」
そう言えば、何をやりたいかアンケートをとってたっけ。みんなイス取りゲームだったり読書だったり色々書いてたけど、何になったんだろう。
「たくさんの意見があったが、一番多かったドッジボールにしようと思います」
ドッジボールは休み時間にやる人も多いけど、クラス全員でやることは滅多にない。とたんに、教室のあちこちから声が上がる。男子なんて特に大はしゃぎ。イスのから立ち上がる子までいた。
だけどわたしは、なんだか素直に喜べなかった。
言っておくけど、わたしはドッジボール好きだし、得意だよ。わたしはね。
だけど…………
チラリとユキちゃんの席を見る。思った通り、ユキちゃんはとても心配そうに顔を下げていた。
ドッジボールは多分小学生にとって一番人気のスポーツだと思う。もちろん野球やサッカーの方が好きって子もたくさいるだろうけど、ドッジボールをやったことのない子は探す方が難しいんじゃないかな。
だけど中には、ドッジボールが嫌いって子もたまにいる。ユキちゃんもその一人。
休み時間、また私とユキちゃんと涼子ちゃんの三人で集まったんだけどユキちゃんは泣きそうなくらいしょんぼりしていた。
「うぅ~。痛いのヤダよー、見学したいよー。わたしもまひるちゃんくらい運動が得意だったらよかったのに」
正確には、嫌いと言うか怖いって言った方がいいのかもしれない。ボールが勢いよく飛んできてバシッと当たる、それが怖くてたまらないんだって。
「ユキちゃんだって、運動オンチってわけじゃないでしょ」
「でも、ドッジボールだけはやっぱり嫌だよ。だって……」
ユキちゃんはそう言いながら、教室にいる一人の男子生徒を見た。
……だけだったらよかったんだけと、ユキちゃんがドッジボール嫌いになった原因でもあるんだよね。
「またわたしばっかり狙われたらどうしよう」
三年生の頃、岡田くんは何度もユキちゃんをドッジボールに誘ってた。わたしたちとお話ししてたり、一人で本を読んでたりしてた時も、何度も誘った。
だけど岡田くんは、いざユキちゃんが参加したら、いつも決まって、しつこいくらいにユキちゃんばかりを狙ってた。
いつもいつもボールをぶつけられて、おかげでユキちゃんはすっかりドッジボールが嫌いになっちゃった。もちろん、岡田くんのこともあんまり好きじゃない。
「岡田くん、きっとわたしのことが嫌いでイジワルしてくるんだ。今日も絶対狙ってくるよ」
ユキちゃんをこんなに怖がらせるなんて。岡田くん、許せん。
だけどわたしとユキちゃんがそれぞれ怒ったり怖がったりしている中、涼子ちゃんだけが首をかしげた。
「う~ん。岡田くん、本当にユキちゃんのことが嫌いなのかな?」
「だって、どう見てもそうじゃない」
わざわざ誘っておいて何度もボールをぶつけるなんて、よっぽど嫌いじゃなきゃやらないよ。そう言うと、涼子ちゃんはまだしばらくの間「そうかな?」と言って何か考えてるようだったけど、今はそれよりユキちゃんを元気づける方が先だと思う。
「大丈夫。岡田くんがそんな事してきたら、前みたいに私がやっつけてやるから」
安心させるように、胸を張ってドンと叩く。
実は、さっき言ってた岡田くんのイジワルだけど、そんなに長くは続かなかった。怒ったわたしがドッジボールに飛び入り参加して、あっという間に岡田くんをやっつけたからだ。
それを何回も続けたら、岡田くんも懲りたのか、とうとうユキちゃんを誘わなくなった。
「岡田くんの投げたボールなんて全部キャッチするし、またすぐにやっつけてやるから」
「まひるちゃん、ありがとう」
それを聞いてホッとしたのか、不安そうだったユキちゃんの表情も柔らかくなる。
だけどその時、怒った声がわたし達の間に割って入ってきた。
「やい、芹沢!」
見ると、そこには岡田くんが立っていた。
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