第3話 ユーチューバーはダメなの?
わたしね、ユーチューバーになりたいの。
勇気を出して話した将来の夢だけど、それを聞いたお父さんは何だかキョトンとしてる。
あれ?もしかしてお父さん、ユーチューバーが何なのか知らないのかな?
「えっとね。ユーチューバーって言うのは、ネットに動画を投稿してお金を稼ぐ人のことだよ。動画投稿ってのはとっても簡単でね、友達のユキちゃんが持ってるスマホでもできるんだ」
「うん。それはお父さんもなんとなく知ってる。けどな、ユーチューバーとしてお金を稼ぐのって、すごく難しいって聞いてるぞ。もしかしたら、アイドルやスポーツ選手よりも大変かもしれないよ」
お父さんの顔は、なんだかちょっとだけ引きつっている。わたしがちゃんとやっていけるのか心配なのかも。
だけどそう思うのも仕方ない。お金を稼いでいるユーチューバーなんてほんの少しで、ほとんどに人は子供のおこづかい程度も稼げないって聞いた事がある。でも安心して。
「大丈夫だよ。わたしだって、出来ると思うから言ってるんだよ。絶対たくさんの人に見てもらえる方法を思いついたんだから」
「絶対見てもらえる? なんだいそれは?」
「それはね、忍者の活動を動画配信すればいいんだよ」
「なっ……」
驚いて声も出ないお父さん。だよね。これを考えた時は、わたしって天才じゃないかと思ったよ。
「飛んだり跳ねたりするくらいじゃ誰も驚かないだろうけど、火遁や水遁だったらきっと注目されると思うの。あと、まだ覚えてないけど分身の術もね」
もしかしたら、何かトリックを使ったんだって言う人も出てくるかもしれない。けどそれはそれで、きっと本物かトリックかで話題になると思う。
「すっごい動画を作るためにも、これからも忍者の修行はちゃんと続けるから安心してね。忍者のすごさ、世界中の人に見せるぞーっ!」
もしそれで有名になったら、弟子にしてくれって言う人が出てくるかもしえない。そしたら、お父さんが欲しがっていたプロの忍者の跡継ぎもその人に任せればいい。
わたしにとってもお父さんにとっても、いい事ばっかりの完璧な計画だ。こんなことを思いつくなんて、自分の才能が怖いよ。
「配信する時なら、タイトルは何にしようかな。忍者だから、『忍んでみた』なんていいと思わない?」
実際にやるのはまだ先になるとだろうけど、今のうちから色々考えておかないとね。
「…………真昼」
「なに?もしかして、お父さんもやりたくなった?」
もしそうなら、忍者親子って言うので何かできないかな。ああ、でもお父さんはわたしよりずっとうまいから、もしかしたらライバルになっちゃうかも。
だけどその時だった。未来に向かって想像を羽ばたかせているわたしに向かって、突如お父さんの声がとんできた。
「そんなのダメに決まってるだろーっ!」
「えぇーっ!」
見るとお父さんは、いつの間にか厳しい忍者モードに変わっていて、その姿はまるで背中に炎を背負っているようだった。
つまり、とっても怒ってるってこと。
「なんで、どうして?話聞くって言ったじゃない!」
「話を聞いた。そして、聞いてすぐにダメだと思った!」
「そんなー」
じゃあ、わたしのユーチューバー計画はどうなるの。だけど今のお父さんに、そんな抗議は通用しなかった。
「そもそも、忍者である事は秘密だといつも言ってるだろ。もちろん人前で忍法を使うのも禁止! それを動画配信なんて、全世界に発表する気か! だいたい忍んでみたって、ぜんぜん忍んでいないじゃないか!」
「タイトルはそんな感じのがウケるかなって思って……」
「とにかく、忍法を動画配信するのは許さーん!」
こうして、お父さんの猛反対によってわたしの忍者ユーチューバー計画は中止になっちゃった。そこを何とかとお願いしたんだけど、忍者の存在が世の中にバレたら困る人が大勢いるんだって。もちろんお父さんもその一人。
とっても残念だけど、たくさんの人に迷惑をかけてまでユーチューバーになりたいのかって言われたら、さすがにそうとは言えなかった。
「まあ、ユーチューバーになりたいのなら、忍者以外のものを考えなさい」
「はーい。あっ、お醤油とって」
長い長いお説教もようやく終わって、わたし達はいつもよりちょっとだけ遅い朝ご飯を食べている。お父さんの忍者モードも終わって、さっきの剣幕が嘘みたい。わたしも忍者の格好から着替えて、ごく普通のおうちの朝って感じだ。
「忍者以外の方法でもユーチューバーになりたいって本気で思うなら、どうすればいいのかお父さんも一緒に考えるから」
その言葉は嬉しいけど、そんな事言われたら、わたしは本当にユーチューバーになりたいのか分からなくなってくる。さっきまでは忍者を配信したらイケるって思ってたからなりたいなんて言ってたけど、それが無いなら苦労してまでやりたいかどうか分からなかった。
「まあ、将来のことはこれからまたゆっくり考えよう。ユーチューバーか、忍者か、もしかしたら全然違う夢ができるかもしれないしね」
「お父さんとしては、やっぱり忍者になってほしいんだけどね。ところで、もうそろそろ急がないと学校に遅刻するよ?」
「あっ、本当だ!」
時計を見ると、そろそろ家を出ないと危ない時間になっていた。さっきのお説教のせいで、いつもより時間が掛かってたんだ。
「そう言えば、学校では忍者だってことはちゃんと秘密にしてるよね?」
玄関に出ると、見送りに出てきたお父さんがそんな事を言った。
「もちろん。みんなにはナイショだって小さい頃から言われてるもん」
「うん、そうだね。でもついさっき、動画で全世界に配信しようとしてたよね」
「だから、その前にお父さんに話したんじゃない。わたしだって、だまって動画配信するつもりはなかったもん。それじゃ、行ってきまーす」
お父さんはまだ少し何か言いたそうだったけど、あんまり話をしてたら本当に遅刻しちゃう。
近くの家の屋根の上を通っていったらもっと早く学校に着くんだけど、忍者だってバレちゃダメって言われたばかりなんだし、ここはグッと我慢だ。
小学生と忍者修行。その両方をやるのは大変だ。
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