イマドキのJK、惚れた相手は女の子

縁の下のぼたもち

第1話 出会いと矢野ちゃん


「ねぇねぇ、えりちゃんえりちゃん!」


その声で一気に現実へ引き戻される。六時限目の数学が退屈すぎて居眠りをしてしまっていたらしい。顔を上げると複数人いるクラスメートの中の一人の女の子が興奮気味になにかを言っている。


「今日、男子バスケ部の練習にめっちゃイケメンのOB来るらしいから、えりちゃんも来なよ!」


「また寝てたのかえり、てか、あんたってホントイケメン好きだね」


「それな!鼻息荒くしてチョーウケるぅ~」


「ったく、俺らは眼中にないってさ、なぁ、和樹かずき?」


「そうだな、一体俺たちはいつリア充になれるんだろうなぁ、大和やまと?」


私はもう少しほんのちょっとだけ寝ていたかった気もするが、友達の誘いとあっては断るわけにもいかない。私は友達が多いけれど、すべて私の大切な友達なのだ。


きゃはははっ、と笑うクラスメートたちに「行く行く!」と返事をして、一緒に体育館へ向かうことにした






――さっき居眠りをしていた時、ある夢を見た。その夢の中では、私のまわりにはたくさんの男がいた。皆がみんな、私が頼めばなんだってしてくれるし、顔も整っていて、私に恋愛感情を抱いているようであった。イケメン好きのクラスメートが聞けば、とてもうらやましがられるような夢であった。でも私はなぜか、あまりいい気はせず、むしろ、夢なら早く覚めてくれとまで思っていた。だから今、体育館へ向かっているのは、友達に誘われたからであって、イケメンが目当てなわけではない。


私は生まれてから今、高校二年生まで、男に惚れたことがないのだ。










そんなこんなで体育館に着いた。


さてさて、噂のめっちゃイケメンのOBとやらは今まで男に惚れたことがない私を虜にさせるほどのお顔を持っていらっしゃるのか、若干わくわくどきどきしております!

――わくわくのあまり変なキャラになってしまった――


「あ!いたいた!あれだよあれ!かっこいいかっこいい!」


「うおっ、背たっけ」


「うわっ、まじでイケメンじゃん!芸能人顔負けじゃなぁい?」


「そのままの意味でな」


「間違いない」


みんな私をおいてもう噂のOBを見つけてしまったようだ。私も乗り遅れないように体育館内を見回してみた。



「――――――っ!」



瞳がその姿を認識した瞬間、体に雷が落ちた――気がした――


心臓が通常時の何倍もの速さでリズムを刻み、内臓が破裂した――気がした――


「わぁ、あのえりちゃんが見惚れてるよ!」


「まじだ、固まってて全く動きやしねぇ」


「えぇぇぇ!いままで数々のイケメンに道端でアリの行列みつけたくらいの興味しか示さなかったえりぽんが本気で見惚れてるぅ!」


「いやそれ結構テンション上がんね?」


「お前くらいだよ」


みんな何か言ってるけど全然耳に入ってこなかった。


人の話はよく聞くように普段は心がけているけど、いまは突然舞い降りた天使エンジェルに五感をすべて奪われてしまっている。


「それよりあの人ちょーかっこいいね!まず顔がすごくイケメン!」


うん、確かにかっこいいと思う、でもそれ以上にとてもかわいいんじゃないかな。


「てか、ほんと背が高ぇな。190㎝はあるんじゃね?」


いや、見たところ170㎝といったところだろう。でも高いのには変わらない。


「それと、スタイルがやばいよ!程よくマッチョで肩幅もがっちりしてて守ってくれそう!」


うん、でもついている筋肉は表面にがっちりついているのではなく、体を引き締めるための程よい量で、身長のわりには華奢でモデルのようなスタイルをしている。


「それにしたってバスケしてる姿がよりカッコよさをひきだしてるなぁ」


「あぁ、男の俺でも釘付けだよ」


ちがう。


私が今、釘付けになっているのは、――男子バスケ部の練習している奥のコートで練習をしている女子バスケ部の、女の子だ。







奥のコートで練習をしている女子バスケ部は休憩に入ったようだ。私はあの姿を見てから一度たりともあの人から目が離せなくなっていた。


そして休憩に入ったためか、選手たちが私のいる入り口側に向かってきている。当然その中にはあの人もいるのだが、今も目が離せず、ずぅぅっと見つめてしまっている


不意にあの人がこちらのほうを向いた。ずっと見ていた私と目があってしまった。早くそらさなきゃとは考えたが、単純に目が離れてくれないのと、その美しい瞳をいつまでも見ていたいという思いが大きすぎて、数秒間見つめあってしまった。


それにしても、この人ほんと可愛いな、あ、でも相手に失礼かな、て違う違う!そんなことより今このわけもわからずただ見つめてしまっているだけというクソ気まずい状況を何とかしないと。


そんなこと考えていたら、彼女のほうから口を開いた――


「えっと……な、なんでそんな興奮してるんですか?」



――これが、私と、矢野ちゃんとの出会いでした――






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