花火で遊ぼう!(10)

 この子はまだティーンエイジャーにも満たないほど幼いのに、細かいところまでしつけや礼儀が叩き込まれているもんだから、全く手がかからないし、どこへ連れて行ってもハラハラするような言動や行動がない。


 それは勉学を始めとして、一般的なマナーや言葉遣いなど、あらゆる事をミオに学ばせてきた、児童養護施設の先生方における、熱心な教育の賜物たまものなのだろう。


「じゃあ一本ずつ遊んでみようか。こいつもヒラヒラが付いてるから、火花が出るまで少しかかると思うよ」


「なるほどー。今度はボクからやってみてもいい?」


「うん、いいよ。やってごらん。さっきと同じ遊び方で大丈夫だからね」


「はーい」


 ミオはジリジリと燃えるろうそくに、ススキ花火の先端にあるヒラヒラを近づけ、慎重に火を灯す。


「あ、燃えた! 次、お兄ちゃんねっ」


「はいよ。さーてこいつは、どんな色がついてるのかな」


 消火用のバケツが置かれた庭の真ん中でかがみ込み、火薬に引火するのを待っているミオを尻目に、一本目のススキ花火に火をつける。


 すると、ろうそくの火が燃え移った俺のススキ花火は、ヒラヒラがあっという間に燃え尽きてしまい、ミオの隣へと並ぶ前に、薄紅色の火花が音を立てて吹き出してきた。


「わっ! もう花火が始まっちまった」


「え? もう? こっちは火が消えちゃったよー」


「わはは。どうやらそのススキ花火は、各々にがあるみたいだな」


 蚊が飛び入りそうなくらい大口を開けて笑う親父をよそに、俺は、火薬に着火せず戸惑っているミオを呼び寄せる。


「ミオ、こっちに来て花火を差し出してごらん。俺が火を点けてあげるから」


「はーい。点けて点けてー」


「そうそう。そんな感じで俺の前に手を伸ばして、そのまま待っててね」


「うん」


「で、俺の燃えている花火をミオの花火に近づけると――」


「あ! ボクの花火にも火がついたよー」


 よもや湿気ているのではないかと心配していたミオの顔が、一転してパッと明るくなる。


 親父の言う「ムラ」が出た理由は、おそらくと言うか、ほぼ間違いなく手作りであるがため、個々で微妙に燃えやすさの違いが出たのだろう。


 ほんとは、花火から花火へ点火するのはお行儀が良いとは言えないんだろうけれど、そのおかげで今は、こうして恋人のミオと並んで、ススキ花火が彩り鮮やかに燃える様を見て楽しめている。


 だから、この小さなアクシデントも、二人にとっては絆と愛を深めるいい機会だった……と思っていいんじゃないかな。

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