実食、イカ料理(6)

「あ! これ、そんなに塩辛くないよー。口の中で、お茶のすごくいい匂いがするの」


「天ぷらに合いそう?」


「うん。ボク、天つゆよりも、このお塩で食べる方が好きかも」


「そっかそっか、抹茶塩の良さが分かっちゃったか。ミオもこれで、大人の階段をまた一段上ったわけだな」


「ん? どゆこと?」


「ミオがちょっとだけ大人に近づいたって事さ」


「そうなの? じゃあボク、今からお兄ちゃんのお嫁さんになれる?」


「え! い、いや、それはもうちょっと先の話かなぁ」


「……むー。いいもん、じゃあ来年の誕生日まで待つもん」


 ミオはそう言って、再び耳心地のいいサクサク音を立てながら、アオリイカの天ぷらを食べ始めた。


 もうミオの中では、自分の次の誕生日に、俺と結婚するってのが決定事項になっているようだ。


 まいったなぁ、ミオがお嫁さんになりたいって言ってくれるのは嬉しいんだけど、来年、こんなに幼いショタっ娘と年の差婚しちゃったら、果たして誰に何を言われるやら。


 お盆にはこの子を連れて実家に帰省するつもりなんだが、ミオの事を親父とお袋に、果たしてどう紹介すればいいのか……。


「お待たせいたしました。こちら、ヒイカのバター炒めになります」


 来たる盆休みの事で頭を悩ませていると、店員さんが、作りたてでホクホクなバター炒めを届けに来た。


「わー、すごくいい匂いがするね、お兄ちゃん」


「うん、確かにいい匂いだ。たぶんこれは、バターと醤油をからめて炒めたんだろうな」


「でも、ボクたちが釣ったヒイカって、こんなに小さかったかな?」


 ミオは輪切りにされ、皿に盛られたヒイカを眺めながら、そのサイズに疑問を抱く。


「うろ覚えだけど、イカは熱が加わると、身が縮むって聞いたことがあるから、きっとそれなんだよ」


「なるほどー」


「ところでこのバター炒め、結構ボリュームあるな。イカ以外に何を使ってるんだろう?」


 バター炒めに使われている、ヒイカ以外の食材の正体が分からない俺は、ざく切りされた野菜らしきものを、さまざまな角度から眺めてみた。


 ひょっとしてカブを使っているんだろうか?


 でもカブは夏が旬の野菜じゃないしなぁ、やっぱり違うかな。


「すんすん……これ、ジャガイモだよ。お兄ちゃん」


 うちの子猫ちゃんは、お得意の嗅覚を駆使して、ヒイカ以外に用いられた食材を言い当てる。


「そっか、ジャガイモかぁ。という事は、じゃがバターとしても楽しめるってわけだな」


「じゃがバター?」


「居酒屋とかで出される定番メニューだよ。蒸かしたジャガイモにバターを塗って食べるんだ」


「へぇ、そんなのがあるんだね」


「きっとこれもいい味出してると思うよ。て事で、せっかく作りたてが来たんだし、温かいうちに食べちゃおっか」


「うん! ボクもじゃがバター食べるー」

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