実食、イカ料理(5)

 店頭の立て看板や店内のポップによると、今の時期は夏のイカフェスタを開催中との事で、その目玉として、アオリイカの天ぷらをお安く、さらに増量サービスで提供しているらしいのだ。


 その増量された天ぷらが思ったよりも山盛りで出てきたので、少食なミオが食べきれるかどうか気がかりだったのだが、この分だとそれも杞憂きゆうに終わりそうである。


「ねぇお兄ちゃん。お塩の横にある、この緑色の粉ってなぁに?」


 天ぷらを食べている間に、天つゆから粗塩へと味変しようとしたミオが、塩皿に盛られている粉末を指差して尋ねてきた。


「ああ、そりゃ抹茶塩だよ」


「まっちゃじお?」


「そう。抹茶っていうお茶を粉にして、塩と混ぜてあるんだ」


「それってどういう意味があるの?」


 という質問をぶつけてくる事から察するに、おそらくミオは、抹茶自体をよく知らないのだろう。


 そりゃまだ十歳になって間もないショタっ娘だもんなぁ、抹茶塩なんて小洒落こじゃれた調味料が未知のものであったとしても、何ら不思議ではない。


「えーとな。ここのはそうでもないけど、天ぷらって基本的に、油っこい食べ物だろ?」


「うん」


「で、その天ぷらに抹茶をつけると、お茶の成分が油こいのを打ち消してくれるから、サッパリと食べられるようになるんだよ」


「そうなんだ! じゃあ、普通の塩よりもこっちの方がいい?」


「まぁその辺は好みの問題かな。黄金色こがねいろの天ぷらに緑の色味を足して、見た目を楽しむって食べ方もあるしね」


「なるほどー」


 今説明した色味が云々うんぬんという話は、どちらかと言うと通の食べ方という意味合いが強く、実は抹茶を混ぜる事で塩の分量を抑えられるため、結果として減塩にも繋がるのである。


 要するに、塩分過多や高血圧が気になる年頃の大人であっても、比較的ヘルシーに天ぷらを食べられるという事。


 あとは香り付けという意味合いも大きいだろう。


 天ぷらに抹茶塩をまぶしていただく事で、衣と抹茶のいい香りが両方楽しめるのだから、ただ普通の塩を付けるだけよりは、相当通好みな食べ方になると言えるわけだ。


 ……という話をミオに聞かせたところ、好奇心旺盛なミオはさっそく、残った天ぷらに抹茶塩を振りかけて食べ始めた。


 果たして、抹茶の風味は子猫ちゃんのお口に合うのだろうか。

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