実食、イカ料理(4)

 実際に食べてみるまで分からなかったイカ飯は、俺たちの判定によっておかず寄りの料理として分類されたわけだが、だからと言ってハズレを引いたわけではない。


 そもそも、おかずのイカ料理と一緒に主食のイカ料理を食べる行為自体がダブる事になるのは重々承知だったわけで、あえてここへ来た俺たちとしては、とにかく飯がうまけりゃそれでいいのである。


 そして、ここのイカ飯とぽっぽ焼きは現にうまい。さらに食い合わせもバッチリ。


 だから二人とも、何ら不満を抱く事はなかったのだ。


「イカスミ炒飯の方はどうかな?」


「えっとね。色は黒いけど、味は普通の炒飯と同じだよ」


 先に味見をしたミオの唇に、若干ではあるがイカスミの色が残っている。


 どうやらこの炒飯のイカスミは、味や香り付けというよりも、米の表面だけを黒くするための、ギミックとしての役割で用いられたようだ。


 この様子だと、食べた後で口をゆすがないと、お歯黒を塗ったみたいになっちゃいそうだな。


 見た目のインパクトはなかなかのものだが、現状、イカ飯よりもこちらの方が主食のご飯ものにふさわしい。


 俺は半分こにし、小皿に取り分けたイカスミ炒飯の上へぽっぽ焼きを乗せ、一緒に口に運んだ。


「うはっ、こりゃ贅沢な食べ方だな。甘辛いぽっぽ焼きと、炒飯に入ってる豚バラ肉のジューシーさがよく合うじゃん」


「うんうん。イカの足もコリコリしてておいしいよね」


 そう。このイカスミ炒飯には、細かく切ったイカゲソを混ぜ込んであるので、普通の炒飯とはまた違う食感が楽しめるのだ。


 かように具材が豊富で、かつ、濃い味付けをしてあるから、この炒飯自体が白飯のおかずになりそうな気もするのである。


 その昔、某ラジオ番組にて、「天津飯定食に白飯が付いてきた」という笑い話が投稿された記憶があるのだけれど、ここのイカスミ炒飯を食べると、それもまた有りではないかとすら思える。


 もっとも、実際に炒飯をおかずに白飯を食べると炭水化物の大量摂取になるから、体重を気にする女の子にはまず受けないだろうが。


「お兄ちゃんお兄ちゃん。イカの天ぷら、すごくサクサクしてるよー」


 ぽっぽ焼きを食べ終えたミオが次に箸をつけた料理は、揚げたてで熱々な、アオリイカの天ぷらだった。


 この天ぷらはそのまま食べてもおいしいそうなのだが、天つゆに浸すか、粗塩を付けるかの選択肢もある。


 最初はどちらで味付けをするか迷ったが、結局俺は、個人的に好みである天つゆでいただく事にした。


「んー、衣がサクサクして香ばしい。やっぱり天ぷらは、揚げたばかりのが一番だな」


「そだね。あんまり油っこくないから、ボクでも全部食べられるかも」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る