リゾートホテルの昼休み(7)

「もう誰にもお兄ちゃんあげなーい」


「ははは、じゃあ俺はミオだけのものになっちゃおうかな」


「うん! なってなってー」


 俺の腕を抱いたまま、ミオが嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねた。


 はぁ、めんこい。心がほっこりするよ。


 頭をなでなでされ、恍惚の表情を浮かべるミオに癒やされながら、俺たちは穏やかな休憩時間を過ごした。


「おっと、もう一時半だな。ミオ、グラスボートの乗り場を見に行ってみようか」


「そだね。予約ができるといいなー」


 程よく疲れも取れてきたところで、俺たちは宿泊客で溢れる屋外プールを後にして、再びプライベートビーチへと向かう。


 ホテルが所有する砂浜は結構広く、管理区画を端から端まで歩くとおよそ十五分くらいかかるのだが、グラスボート乗り場のある桟橋と管理小屋は、その端っこの方に建設されていた。


 現在その桟橋に一隻の船も無いという事は、遠巻きから見てもハッキリと分かる。


 つまりグラスボートは、今まさにツアーへと出ている真っ最中なのだろう。


 俺たちは管理小屋の窓口に足を運び、乗船の案内をしてくれる係員の人に話を聞くことにした。


「あのー、すみません。グラスボートの事なんですけど……」


「いらっしゃいませ。ボートは先ほど出航したところですが、乗船のご予約をなさいますか?」


「あ。予約ができるんですね?」


「はい。今からだと、三時からの便にはまだ空きがございますので、ご予約が可能になっております」


 やはり予約制だったか。と言うかすでに次の、二時の便まで予約が埋まっていたのには驚きだ。


 それだけこの時期のグラスボートは、人気のあるアクティビティなんだろうなぁ。


「えと、乗れるのは三時の何分くらいからですか?」


「出航時刻は毎時の四十五分になっております。ですので、出航の十分前には乗り場の方へお越しくださいませ」


「分かりました。ミオ、ボートは三時からのでもいい?」


「うん。それまでに他の事して遊ぼ?」


「そうだね。じゃあすみません、三時の便で二人分予約したいんですけど」


「二名様ですね、かしこまりました。それではこちらの用紙にお名前のご記入をお願いいたします」


 受付の係員さんに差し出された用紙には、三時四十五分出航分の乗船に予約していると思われる、先客の名前が数人分見られた。


 この用紙に俺とミオの名前を書き、大人一人、子供一人分の乗船料金を先払いすれば、これで予約完了だ。


「ありがとうございます。こちらが乗船チケットになりますので、乗船前にご提示くださいませ」


 俺たちが受け取ったチケットには乗船時刻は予め印刷されていて、左上の余白に今日の日付印にっぷいんが押してある。


 チケットは言うまでもなく当日限り有効。


 これを乗船前、係員さんにもぎってもらうシステムのようだ。


 島と海の美しい風景写真が印刷されている残りの半券は、記念として持ち帰りたくなるような、凝ったデザインになっている。

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