リゾートホテルの昼休み(6)

「人がいっぱいいるねー」


「うん。みんな涼みたいんだろうな。せっかくの無料サービスなんだし」


「プールはお金がかからないの?」


「そうだよ。厳密には、ホテルの予約を取った時にお金を先払いするんだけど、そのお金の中に含まれてるんだろうね」


「それって、幾らくらい?」


「ん? まぁまぁ、お金の事は気にしなくていいじゃん。ここには、二人だけの楽しい思い出を作りに来たんだからさ」


「でもぉ……」


 ミオはちょっと申し訳無さそうな顔で、手を後ろに組んでモジモジしている。


「ミオ、俺の事を心配してくれてるの?」


「そだよ。お兄ちゃん無理してないかなぁーって思って」


「ふふ。ミオはほんとに優しいね」


「そんな事ないよー」


「いや、そんな事ある!」


「えっ?」


 いつもは自己主張をしない俺がキッパリと断言したので、ミオに驚きを与えてしまったようだ。


「だって俺の元カノなんて、どこへデートするにもお金の心配なんか度外視でさ、いかに俺の金で豪華な飯を食べるかとか、高そうな服やバッグを買ってもらおうかとか、そんな事ばっかり考えてたんだぜ」


「えぇー、そうなの?」


「うん。で、それを断り続けていたら、案の定、長続きしなかったんだけどね」


 ミオには絶対に話せないが、その元カノに言わせれば、人に何かをねだるのは〝対価〟であるとの事なので、俺とは価値観が合わなかったのだ。


 デートなんだから財布のヒモを緩めるのは男の役割なのかも知れないけど、だからって対価は無いだろう。


 それじゃあまるでみたいな言い方じゃないか。


「ついでにぶちまけておくと、その子は性格も口も悪かったし、よくあれで一年近く持ったもんだと、自分の我慢強さというか、ハッキリと言い返せなかった意思の弱さを痛感するよ」


「その元カノさん、そんなに口が悪かったの?」


「ものすごく悪かったよ。前、海釣り公園に遊びに行った時、元カノの話しただろ?」


「うん、覚えてるよ。その時はボウズだったんだよね」


「そ。んで帰る時にこう言われたんだ。『アンタがシケたツラしてるから釣れないのよ』ってね」


「ひどーい!」


 よほど許せない発言だったのか、普段おとなしいミオが珍しく声を荒げ、髪の毛を逆立てそうな勢いで怒りをあらわにしている。


「お兄ちゃんの顔と魚が釣れない事なんて全然関係ないじゃん! ひどすぎるよ!」


「だよな、でもあれは傷付いたよ。俺ってそんなにシケた顔してたのかって、家に帰って何度も鏡を見てさ」


「そんな事ないもん! お兄ちゃん、すごくかっこいいんだからねっ」


「え? そう?」


 ミオに褒められて、シケた疑惑の顔が思わずにやけてしまった。


「うん。お兄ちゃんに初めて出逢ったあの時から、ずーっとかっこいいって思ってるよ」


 初めて出逢った時……それは四年前の、まだ六歳だったミオの頭をなでなでした時か。


「ありがとな、ミオ。そう言ってくれるのはミオだけだよ」


「そうなの? じゃあ、ボクがお兄ちゃんを独り占めしちゃうよー」


 そう言って、ミオは俺の腕をぎゅっと抱いた。


 嬉しいなぁ、こんなにまで俺の事を慕って、お嫁さんになりたいとまで言ってくれるショタっ娘がいるってのは。

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