二人の名所めぐり(4)

「お兄ちゃん、綺麗にしたよー」


「よーし。それじゃ拭き拭きしたら、お参りに行こうか」


「うん。でもお兄ちゃん」


「ん? どうかした?」


「この神社って何の神様がいるの?」


 という当たり前の質問をされて、俺は初めて、ここが一体誰をおまつりしているのか分かっていない事に気が付いた。


 単に神社と言っても、祀られているのは神話上の人物だけではなく、現人神あらひとがみと呼ばれた実在上の人物の場合もあるのだ。


 という事で、神社で配布されている冊子をもらって読んでみると、どうやらこの佐貴島神社では、主に〝縁結び〟を司る神様をお祀りしているらしい。


 ……縁結びねぇ、俺に関係あるのかな。


「どうしたの? お兄ちゃん」


 無言のまま冊子を読んでいると、ミオが不思議そうに俺の顔を見上げた。


「いやその。ここ、縁結びの神社みたいなんだよ」


「エンムスビってなーに?」


「えーと。簡単に言うとな、好きな人と結婚できますようにってお願いする事で、ご利益りやくがあるかも知れないというか」


「そうなんだ!」


 疑問が解け、なおかつ結婚と聞いたせいか、ミオの表情がパッと明るくなる。


「じゃあお参りしようよー。早くー」


「分かった分かった。でも、ミオは誰と縁結びするつもりなんだい?」


「え? お兄ちゃんとだよ?」


 ミオがさも当然かのように答えた。


「俺と?」


「うん。歯医者さんに行った日、お兄ちゃん、ボクと結婚してくれるって約束したでしょ?」


「あはは。そ、そうだったかなぁ」


 さすがと言うか、子供は記憶力がいい。


 あの時は妊娠の話をした流れで、成り行きに任せて、お互いノリだけで約束したつもりだった。


 というのはあくまで俺の解釈であり、当のミオは、今でも本気で俺と結婚したいと思っているようだ。


「お兄ちゃんと結婚できますようにー」


「ミオ、そんな大きな声で言わなくても……」


「えー? でも、そうしないと神様に聞こえないでしょ?」


「うーん、そうなのかなぁ」


 という拝殿でのやり取りを見て、社務所に詰めている巫女さんたちがクスクスと笑っていた。


 これまでは、神社でお参りする時は心の中でお願いしていたが、本当は、ミオみたいに声に出してみるのが正しいのかも知れない。


 ただ、隣で堂々と「俺と結婚したい」ってお願いされると、嬉しい反面、照れくさくもある。


 さて、俺は何をお願いしよう。


 とりあえず、ここの本殿に祀られている神様は、縁結びの他にも〝禁厭きんえん〟というを受け付けているそうだ。


 なので、女運のカケラも無いような俺は「ミオに悪い虫がつかないように」と、災難・厄除けのおまじないをかけてもらう事にした。


 さて、神様へのお参りも済んだし、この神社ならではのグッズ、という呼び方は適切ではないが、とにかく授与してもらおう。


 真っ先に目を引いたのが、神社なら定番と言ってもいい〝おみくじ〟で、この神社では普通のおみくじと、縁結びに関わる〝恋みくじ〟の二つがあるようだ。


 俺は普通のものを、まだショタっ娘ながら結婚願望の強いミオは、迷いなく恋みくじを引き、各々開いてみた。

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