二人の名所めぐり(5)

「見て見てお兄ちゃん、大吉って書いてあるよー」


「おー、やったじゃん」


 って、喜んでいいのかな?


 それはつまり、俺とミオの縁結びが万事うまくいくでしょう、っていう御神託なのではないのか。


「何が書いてあるんだい?」


「んーとね。愛情運のところに、何だかいっぱい書いてあるよ」


 ミオに見せてもらった恋みくじの一番上、愛情運の欄には、次のような事が書いてあった。


「片思いだった貴方の恋は成就するでしょう 自分の心の内を偽らず素直に伝えれば 想い人とは必ず結ばれます 浮気はつつしむことです」


 愛情運の欄は、すなわち神様のお告げ。


 という事は、やっぱり俺とミオの恋は成就するのか?


 でもこのお告げって、男同士というか、同性同士の恋愛でも有効なのかなぁ。


「お兄ちゃん、ここ何て読むの?」


「ん、これかい? 〝うわき〟って読むんだよ」


「うわきってなーに?」


「そうだなぁ。平たく言うと、すでに恋人がいるのに、他の人とも付き合っちゃうって事だね」


「えー。そんなひどいことするの?」


「まぁ、世の中にはいるんだよ。自分がモテているのを鼻にかけて、他の子にちょっかいを出そうという奴がね」


「ふーん。でもお兄ちゃんなら浮気はしないよね?」


「え? そうだな、絶対にしないと言ってもいいかな」


 そもそも、俺には浮気をする相手どころか、彼女すらいないし。


「ねぇねぇ。血液型のところ、恋人にするならA型の人にしなさいって書いてあるよ。お兄ちゃんは何型?」


「俺はA型だけど……」


「やった!」


 ミオが喜びのあまり、ぴょんと飛び跳ねた。


「ボクはO型だから、A型の人とは相性がピッタリなんだって。よかったぁ」


「そういや、ミオはO型だったね」


「うん。だからボク、お兄ちゃんの恋人になるー」


 と宣言したミオは、俺の腕を抱いてすりすりと頬を寄せる。


 ショタっ娘の恋人かぁ、悪くないって言うか、な俺にはむしろありがたい話だ。


 ただ、すごく微笑ましいところに水を差すのも何だから黙ってたけど、血液型で縁結びの相性診断ができる神様って、統計学でもやってたのかな。


「お兄ちゃんのおみくじはどうだったの?」


「俺はねぇ、えっと、〝末小吉すえしょうきち〟って書いてあるね」


「んー? どういう意味?」


「俺にも分からん……ちょっと調べてみるよ」


 末小吉の意味を調べるべく、俺はハーフパンツの尻ポケットからスマートフォンを取り出し、ネットで検索する。


「どうやら、末小吉は〝凶〟みたいな悪い運勢の一つ手前らしいね。つまりギリギリセーフだって事かな?」


「えぇぇ」


 あまりにも微妙な結果だと知らされて、ミオが気まずそうな顔をする。


「あ。でも、凶の一つ手前なら、悪くはないんだよね?」


「まぁ一応、吉とはついてるから、そんなに悪い事はないと思うんだけど」


「じゃあ、きっといい事あるよー」


 ミオの健気なフォローが心にみる。


 というか、このそんなに大きくない神社の百円おみくじで、そこまで細やかに運勢を分けてある事実に驚きだよ。


 書いてある内容も何だか微妙なものばかりだけど、こんなレアなおみくじを引けたのは、ある意味強運なのかも知れない。


 末小吉に関してはそう解釈する事にして、運気が上がりますようにというお願いも込めて、木の枝に結びつけておこう。


 大吉を引いたミオはおみくじを大事に取っておくらしく、さらに恋愛成就のお守りも授与してもらい、これが佐貴沖島さきのおきしまでの初めてのおみやげになった。

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