夢のリゾートホテル(10)

「わぁ、すごく大きなホテルだねー」


「だろ? 県内で一件しかないリゾートホテルなんだよ。そこのオーシャンビューの部屋が予約できたんだ」


「おーしゃんびゅーってなぁに?」


「簡単に言うと、お部屋の窓から海が見えるって事かな」


「海が見えるの!?」


「うん。海のすぐ近くにあるホテルだからね」


「そうなんだ。どんな景色になるのかドキドキするねー」


「あと、ホテルの土地からすぐのところに砂浜があるから、海で泳いだりして遊ぶ事もできるんだよ」


「そんなに近いんだー。お泊まりするお部屋も大きいし、ご飯もすごくおいしそうだね」


 ミオは、ホテルの魅力がたくさん詰まったパンフレットを、ワクワクした様子で読んでいる。


 そしてあらかた読み終えたあと、俺にこんなことを聞いてきた。


「でも、こんなにすごいホテルにお泊りするのって、いっぱいお金がかかったんじゃないの?」


「ん、まぁ。少しはね」


 具体的な金額は言わなかったが、二泊三日の二人分で、しめて六万五千円。


 佐藤には相当まけてもらったものの、それでも一人あたり一泊で一万六千円以上する計算なので、決して安くはないだろう。


 いや、あれだけの高級リゾートホテルにこの値段で泊まれるのなら、やっぱり安いのかな?


「お兄ちゃん、大丈夫? ボクのために無理してない?」


「そ、そんな事ないって。給料もちゃんと入ってるから、お金の心配はしなくても大丈夫だよ」


「ほんとに?」


 ミオが心配そうな顔で俺を見つめる。


「ほんとだよ。それにさ、学校の一学期が終わって、夏休みになったら、もうプールには行けなくなるだろ?」


「うん。そだね」


「だから、せめて一度くらいは、ミオを砂浜に連れて行ってあげたいんだ」


「砂浜に?」


「そう。それも、二人っきりでデートできるくらい静かなところにね」


「お兄ちゃん、ボクが二人っきりになりたいって言ってたの、ずっと覚えててくれたんだね」


「そりゃもちろん。かわいいミオの事だからな」


「ありがとう……お兄ちゃん。すごく嬉しいよ」


 ミオは俺の隣に座り、ほんのりと染まった頬をそっと寄せた。


「でもお兄ちゃん、無理だけはしないでね。約束だよ?」


「うん。約束するよ」


 まだ小さい子供だからお金に関しては突っ込まれないと思っていたけど、この件で、改めて、ミオがしっかり者のショタっ娘だという事が分かった。


 こんな子が大きくなってお嫁さんになったら、きっと家計のやり繰りも上手にこなしてくれるんだろうな。


 ミオは男の子だけど。


 とにかく、ミオの賛同も得られたし、これで来週はリゾートホテルへお泊まりすることが確定した。


 佐藤のおかげ、と言ったらあいつに悪いが、せっかく得られた機会だ。


 ホテルに着いたら仕事やら何やらはすっぱりと忘れて、思いっきり羽根を伸ばして、二人だけの楽しい思い出作りをする事にしよう。



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