憧れのウサちゃんパーク(11)

「ん。やっぱりカツカレーに外れはないな」


 ミオがニンジンをウサギの顔に加工している間、俺はカツカレーを半分以上平らげていた。


「ハンバーグはおいしいかい?」


「うん。口の中でじゅわーって汁があふれてきて、すごくおいしいよ。お兄ちゃんも食べる?」


「えっ? 俺はいいよ。まだカツカレーがあるから」


 という声が聞こえていなかったのか、ミオはハンバーグを一口サイズに切り、フォークに刺してこちらへ向ける。


「はい、お兄ちゃん。して?」


「ミオ、実はもうお腹いっぱいで――」


「早くぅー」


「わ、分かったよ。あーん」


 俺はミオが切ってくれた一口サイズの和風ハンバーグを、あーんして口に運んでもらう。


「どう?」


「うん。肉汁がたっぷりだし、ソースとの相性もいいからおいしいよ」


「でしょっ」


 と言ってミオはニコッと笑った。


 咀嚼そしゃくしながら視線を斜め前にやると、他のお客さんが微笑ましそうにこちらを見ていた事に気づき、思わず顔が真っ赤に火照ってしまう。


 こういうのって、本来は彼女とイチャついてる時にやるコミュニケーションだよな。


 その彼女役がミオだった事に関しては、俺には何の不平も無いし、むしろこんなかわいいショタっ娘であってくれて嬉しいくらいだ。


 ただ、そのイチャイチャを外出先でやるのは、恋人付き合いの経験が浅い俺には小っ恥ずかしかったのである。


 でも、ミオは好意でやってくれているんだもんな。


 もう開き直って、心の中で自慢しちゃおう。


 どんなもんだい、うちのミオは、こんなにかわいい男の子なんだぞ。


 そんなかわいい子から、あーんして食べさせてしてもらえるんだから、俺はほんとに幸せ者だ。


「お兄ちゃん、オレンジジュースも飲む?」


「さすがにそれは遠慮しとくよ……」


 ――園内レストランでしばしの休憩を取った俺たちは、腹ごなしに〝ウサギさん資料館〟へと向かった。


 ここではウサギにまつわる歴史や各種知識、さまざま品種の剥製はくせいなどが展示されている。


 資料館は撮影OKとの事だったので、とりわけ大きい品種である〝ブラン・ド・ブスカ〟というフランス原産のウサギの剥製と、ミオのツーショットを写真に収めた。


 このブラン・ド・ブスカは、〝ブスカの白いウサギ〟という意味らしく、フランスにあるブスカという地方で産まれたウサギである事から、その名が付いたのだそうだ。


 見た目は日本白色種を二まわりくらい大きくした感じで、その体重は何と七キロにまで上るらしい。


 こんだけ大きいと、そのサイズに比例して、毎日食べさせるエサの量が大変な事になりそうな気がする。


 そう考えると、とても日本じゃ飼えそうにないなぁ。


 その後は約束通り、また見たがっていた世界のウサギさんステージへと戻り、しばらくさまざまなウサギを観賞した。


 ミオもウサちゃんパークの魅力を堪能できて、実に幸せそうだ。


 土曜日という事もあってか、さほど混雑はしなかったし、今日連れてきたのは正解だったな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る