憧れのウサちゃんパーク(10)

 子供って、食事と一緒にジュースが並んでいても、割と平気なんだよな。


 俺が小さい頃もそうだったから、気持ちはよく分かる。


 でも、いつの間にか、食事のお供にはお茶か普通の水を飲むのが当たり前になっていた。


 トーストやハムエッグなど、洋風の朝食やランチならまだジュースも有りだと思うが、和食にはさすがに合わない気がする。


 これって俺がしつつあるって事なのかなぁ。


 もしくは、社会人になって、そういうマナーだと叩き込まれたかのどちらかだろう。


 ミオには、無理にしつけたり、考えを押し付けたりせず、好きなものを飲ませてあげたいな。


 ちょっと甘やかしすぎかも知れないけど、せめて子供のうちは、伸び伸びとやらせてあげたいのだ。


「お。ここ、ニンジンジュースがあるじゃん」


「ウサちゃんが喜びそうなジュースだね」


「うん。たぶん、一生懸命になってちゅーちゅー飲むんだろうな」


「うふふっ」


 その情景を思い浮かべたのか、ミオの顔から笑みがこぼれた。


「久しぶりに頼んでみるかぁ。すみませーん」


「はーい。お伺いしまーす」


 俺たちはそれぞれ別のメニューを注文した後、ここ、ウサちゃんパークの話をしながら、料理が出来上がるのを待つ。


「エサやり体験までで三つは回ったけど、他には何があるのかな?」


「えっとね。ここに〝ウサギさん資料館〟っていうのがあるよ」


 ミオがパンフレットに描かれた園内マップを指し示した。


「ほうほう、大きな見せ物としてはそれで最後か。後は〝ウサ散歩〟があるだけだな」


「ウサ散歩?」


「飼育員さんが建物の中で、ウサギを連れて散歩するイベントらしいけど、これは天気の悪い日限定だってさ」


「そうなんだ。見たかったなぁ」


「まあ仕方ないな。それより後でもう一回、世界のウサギさんを見に行くんだろ?」


「うん。行きたーい」


「じゃあしっかりご飯食べて、元気を蓄えないとね」


 なんて話をしていると、ウエイトレスさんが、二人分の料理と飲み物を運んできた。


「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」


「はい」


「かしこまりました。ごゆっくりどうぞー」


「さーて食うか……ん?」


 ようやく飯にありつけるかと思ったら、目の前に熱々の和風ハンバーグ定食を置かれたミオが、愕然がくぜんとした表情で料理を見つめている。


「ミオ、どうしたの?」


「ニンジンが、ニンジンがウサちゃんの形じゃないのー」


 鉄板の上でパチパチと音を立てている料理に目をやると、あろうことか、付け合わせのニンジンが普通の輪切りにされてしまっていた。


 メニュー表の写真に偽りありだ。


 察するに、最初のうちは気合を入れて型抜きしていたものの、次第に面倒くさくなってやめちゃったんだろうなぁ。


 ミオが残念そうで気の毒だけど、ここはそういうレストランだと思って諦めるしかないな。


 と思ったら、ミオがナイフとフォークを器用に使い、輪切りのニンジンをウサギの形にカットし始めた。


 ちょっといびつな形だけど、なかなかいい出来だ。


 こういう時は「食べ物で遊んじゃいけない」ってしつけるところなのかも知れないが、切った部分も残りも全部食べちゃった事だし、まぁいいでしょう。

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