登校日

 翌日、社畜が吐きそうになる月曜日。


 昨夜は約束通り、ミオと同じベッドで横になってみたのだが、正直、ドキドキしてよく眠れなかった。


 ベッドの中でもミオが無邪気に甘えてきてくれるのは嬉しいし、それであの子のさみしさが紛れるなら何よりだと思う。


 しかし、俺はどうしてもミオの中にある女の子らしさを意識してしまうのだ。だから否応にも胸が高鳴って仕方がなかった。


 心の中では(この子は男の子だから)と割り切っているはずなのに。


 これからもミオと一緒に寝る日々が続くというのに、こんな体たらくで、俺は果たして間違いを起こさずにやっていけるのだろうか。


「おはよう、お兄ちゃん!」


 先に起きていたミオが、元気に挨拶する。


「おはよう。ミオはいつも早起きなんだね」


「うん。施設にいた時の癖で、ずっと早起きしちゃうんだよ」


「それって、施設の決まりだったりするの?」


「そうだよ。園長先生が『早起きは三文の得だから』って言い出して、それからずっと朝は早かったの」


 まあその考え方は間違ってはいないと思う。少なくとも早起きさえしてしまえば、寝坊で会社に遅刻することはないのだから。


しかもちょっと早めに出勤すれば、通勤ラッシュの時よりも比較的空いた電車に乗れるわけで、鮨詰め状態で押し合いへし合いになってストレスを溜めるリスクも少ない。


 そう考えると早起きにはメリットが多い、と言えなくもない。が、それはあくまで、充分な睡眠時間を確保できた上での話である。


今日のように、あまりよく眠れなかった場合の早起きは正直きつい。


 もちろん、睡眠が浅くなったのをミオのせいにするつもりは毛頭ないが、今の俺は、気を抜いたら二度寝してしまいそうなくらいにまぶたが重いのであった。


「そうだ……早く朝飯作らなきゃ」


 時計の針は午前六時半を少し回っている。俺は寝ぼけまなこをこすり、睡魔を追い払うべく洗面所へと向かった。


 今日からは、いよいよミオの学校生活が始まる。


 毎日はさすがに無理だけど、登校初日くらいは学校まで一緒に行ってあげようと心に決めていたのだった。


 俺たちは早めの朝食を終え、それぞれ出勤と登校の準備を始める。


 ちょっと大きめな、黒いランドセルを背負ったミオ。


その姿はどこか初々しく、そしてぎこちなかった。


「どうかな。ボク、変じゃない?」


 ミオが体をくるくるさせながら、心配そうに聞いてきた。なにぶんにもランドセルを背負うのは初めてだし、自分の服装にマッチしているかどうかが気になるのだろう。


「大丈夫。よく似合ってるよ」


「ほんと? よかったぁ」


 最近のランドセルは実にバラエティーが豊かで、黒と赤以外にも水色やピンクなどの派手な色のものもあるし、豪華な模様が施されたものも普通に陳列している。


ああいう品揃えを見ていると、男の子だから黒一色じゃないといけない、という規則や価値観も今は昔のものになってしまったようだ。


 ランドセルも今や、多様性の時代なのである。


そう考えると、ミオに買ってあげた黒のランドセルは、ちと地味だったのではないか、という気がしないでもない。

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