三日連続のカラオケ

「じゃあ、また明日」


 カラオケを出て姫野さんにそう言った。


「あ、あの秋月君!」


「どうしたの?」


「連絡先交換しよ?」


 姫野さんは上目遣いで俺にお願いしてきてた。


 正直いって反則である。

 そんなお願い方されたら断ることなんて不可能だ。

 いや断る理由もないのだけれど。


「いいよー!」


 なるべく平然を装いながらも俺はなんとかスマホのアプリを取り出して連絡先を交換した。


「じゃ、じゃあまたカラオケとか誘うね!」


「う、うん!」


 そう言って姫野さんは笑顔で去っていった。


(やっぱり可愛いなー)


 なんて事を思いながら俺はにやついた顔を抑えることが出来なかった。

 あんな美少女と連絡先を交換したのだ。

 しかも、またカラオケ誘うねって……


 高校生活が始まって約2週間。

 早くも青春の予感がするぜ。


「ただいまー」


 特に理由はないが、スマホを手に握りしめたまま俺は家へと帰った。


「おかえりー……ってお兄ちゃん何ニヤニヤしてんの?」


 結に変な顔をされながらそう言われた。

 どうやらニヤニヤはまだ治ってなかったらしい。


「に、ニヤニヤしてないし! とりあえず風呂入るわー」


 俺は逃げるように風呂へと向かう。

 洗面所の鏡で自分の顔を見ると驚いた。


 思ってるよりもニヤニヤしている。


(さすがにこれだと言われても仕方ないな……)


 なんせ昨日は憧れにも似た感情の美少女が、実は同じクラスで自分と関わりがあって、一緒にカラオケまでいって連絡先まで交換したのだから。


 それに、よくこれからは一緒にカラオケ行かない? なんて言えたものだ。

 あの時は流れに身を任せたけど、今思い返してみればすごい事をしたかもしれない。


 

 それから風呂を済ませ、結と一緒にご飯を食べることになった。


「お兄ちゃん昨日といい今日なんかやけに遅かったね」


「あ、あぁカラオケ行ってたんだよ」


「二日連続で?」


「あ、あぁ」


 なんか結の言葉に圧があるように感じる。


「ふーん」


 なんか疑ってるような目をする結。

 変な汗が出てきた。


 それから、俺と結はいつも通り会話をしながらご飯を食べたのだが、まだどこか何かを疑ってるような気がするんだよな。

 本当にカラオケなんだけどな。


 

 部屋に戻り、いつものように録画してるアニメを見ていると、スマホに何かの通知が来ていた。

 見てみると、姫野さんからだった。


『今日はありがとうございました。またカラオケ行きましょう』


 その通知を見て、またにやっとしてしまう。

 

 それにしても律儀である。

 連絡先を交換してその日の晩にお礼を言ってくるなんて。


『こちらこそありがとう。またカラオケ行こう!』


 なんてありがちな返信をしといた。

 ここで、また姫野さんの歌聞きたいな。なんてくさいことを言う勇気はまだなかった。


 

 それからは少しだけやりとりをしてお互い寝る事にした。

 といってもまだ時刻は22時。

 寝るには少しだけ早い。というより寝れない。


 後少しだけアニメ見てから寝るとしよう。



 次の日。


 学校に着き、いつものように朝日と高杉の元へ向かう。

 のだけれど、その途中に姫野さんから小さな声で「おはよう」と挨拶された。


「お、おはよう!」


 少し驚いたが、俺もすかさず姫野さんに挨拶を返す。

 姫野さんの顔が少し赤い気がする。

 けど、俺の顔も赤いだろう。すごく顔が熱い。



 それからお昼休み。

 今日も朝日と高杉で食堂へと来ていた。


「なぁやっぱり秋月、姫野さんと出来てるんじゃないのか?」


 思わず食べてる炒飯を噴き出すところだった。


「な、なんでだよ!」


「いや、今朝も初々しい感じで挨拶してたしさー。ほら、あそこ」


 そう言って朝日が俺の後ろを指さした。

 するとそこには姫野さんがいたのだ。


 またも炒飯を噴き出しそうになったが、なんとかこらえる。


「な?」


「あぁ、でも残念だが朝日が想像するような関係ではない」


「そうなんだ……でも仲は良さそうじゃん」


「そうだな。少し仲良くなったかもしれない」


 と、思いたい。


「これは秋月に春が訪れるかもなー」


 朝日はにやにやしながら俺にそう言った。


「付き合ったらちゃんと報告してくださいね」


 高杉が表情を変えずにぼそっと言った。


「そんな事にはならないよ」


 なんて会話をしながら、後ろの姫野さんをちらちらを見つつお昼を済ませた。

 

 

 放課後になり、今日はまっすぐ帰ろうと思いすぐに教科書をカバンにつめ帰ろうとすると、ある人から声を掛けられた。


「君、秋月君だよね?」


 その人の名前と顔は知っていた。

 いつも太陽のような眩しいグループの1人である、椎名しいな みすずだ。


 可愛いというより美人って感じの人で、いつも笑顔で明るいってイメージの人だな。

 あと胸がでかい。

 姫野さんも小さくはないと思うのだが、椎名さんはクラスでもトップクラスにでかいのではないだろうか。

 いや、勝手に姫野さんと比べて申し訳ない。


「そうだよ」


「この後時間ある?」


 今まで話したこともないのにいきなりなんだろうか。

 正直怖い。


「あ、あるけど……」


「じゃあ決まりね。ちょっと付いてきて」


 そう言われると俺はそのまま椎名さんについていった。

 学校を出て、自転車に乗って最近よく通る道を通りなんと3日連続同じカラオケ屋に来た。


(またここか……)


 なんて事を思いながら、なるべく嫌な顔をしないようにして平然を装う。


 部屋に入ると2人ともふぅーとひと段落する。


「それで……俺に何か用かな」


 カラオケまで来て言うのもなんだが、ずっと俺に何の用があるのか気になっていた。

 というよりこれで気にならない人がいるのであれば、もう少し警戒心を強めた方がいい。


「秋月くん、昨日このカラオケ屋に来てたでしょ」


 予想外の言葉が飛んできた。

 もしかして、椎名さんもたまたまこのカラオケ屋に来ていて見られたのか。


「しかも、姫野さんと2人っきりで」


「うっ!」


 昨日来ていたのがばれているのだ。

 そこまで分かっていてもおかしくはない。


「あなた達の関係については興味ないわ。それよりも……」


 そういうと椎名さんは俺の顔をじっと見てきた。


「な、なんでしょうか」


「私と……そ、その……」


 そこまで言って椎名さんは顔を赤くしてもじもじした。

 ここまでの事をして今更何を恥じらう必要があるのだろうか。


「お、お友達になって……くれませんか?」


 必殺奥義『上目遣い』発動。

 これにはさすがの秋月さんもびっくりしてしまったぜ。


「ど、どうして俺なんだ?」


 これで落ちてはいけない。

 きちんと理由を聞かなければならない。


「き、昨日あなた達がここで歌ってるのを聞いて」


「うん。それで?」


「アニソンを歌ってるの聞いたのよ」


「うん。それで?」


「私もアニメ……好きだし。でも私の周りにアニメ好きな人いないし」


 そこまで聞いたらなんとなくわかった。


 そもそも椎名さんが絡んでいるのは太陽みたいに眩しいグループなのだ。

 偏見だがアニメ好きな人は少ないだろう。


 だが、椎名さんは違った。

 きっと椎名さんはアニメ好きの友達がほしいのだろう。


「わかったよ。じゃあさ、今から精一杯アニメの話しよ! 友達になるかならないかはそれからでいいでしょ?」


「わ、わかったわ」


 それから俺と椎名さんは約1時間ほどアニメについて話し合った。

 話してみると本当にアニメが好きなんだとという事がわかった。


 それに今期の【異世界時計物語】もweb小説の頃から追いかけてるという本当にサブカルチャー好きだという事が伝わってきた。

 

 それに姫野さんも椎名さんも共通してるところがある。

 それはアニメの話をしてる時は、体が前のめりになるのだ。

 

 俺はそんな姿をみてくすっと笑ってしまった。


「な、なにがおかしいの?」


「いや、なんでもないよ。そろそろ帰ろっか」


「そうですね」


 2人して会計をした時にわかったことなのだが、なんと椎名さんはここでアルバイトをしてるらしい。

 それで、食べ物を運んでる時にたまたま俺達を見つけたらしい。


「あ、あの……友達の件は」


 帰ろうってなった時に、椎名さんは少し寂しそうにそう言った。


「あれだけアニメについて語り合ったんだから、もう友達じゃない? 少なからず俺はそう思ってるよ」


 俺がそういうと、椎名さんは表情をぱぁっと明るくした。


「じゃあね」


「待ってください!」


「ん?」


「れ、連絡先、交換しましょ!」


「そ、そうだね」


 そうして、俺と椎名さんはお互いの連絡先を交換した。

 なんと、驚くことに二日間で美少女2人と連絡先を交換したのだ。


 もしかしたらトラックにでも轢かれるんじゃないか。

 と、少し周りに気を付けながら家へと帰るのだった。


 

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