邪神の玩具、斬首、斬首、斬首す
鞘を振り下ろす。
眼下にあるモノが潰れる。
刀を振り下ろす。
眼下にある頭が砕け散る。
何度も。何度も。
頭が時間を巻き戻す様にして元通りになっていく度に──俺は鞘と刀を交互に、淡々と振り下ろす。
ただ適当に振り下ろしているわけでは無く、一振、一振、渾身の力と怒りと殺意を込めて。
ほぼ死体と化している
頭蓋を砕く度に手足が魚の様に跳ねるが、無視する。
死ぬまで殺す。殺し続ける。
肉体の勝負なんかじゃあ、無い。
こんなのは……そう。
ただの我慢比べだ。
俺と、
どちらかが、根を上げるだけの、根比べ。
「──らぁッ!」
──俺は、刀を振り下ろした。
「………ぐ、うッ」
「は、ッ……はぁ……はぁ…………」
いくら……怒りに任せて縦横無尽に暴れてたとはいえ……チートスペックの
『ふフッ、おッつかれー、シソウくん。いやァー……激戦だッたね!』
俺の脳内で、不愉快な程に明るい野太い男の声……ニャーの声が響き渡る。
俺の生死を握っている邪神の声に、収めかけた怒りが再び燃え盛る。
「相変わらず……タイミングが絶妙に不愉快だな……てめえ……」
『私はいつも君が
「……俺の状況を把握してるんなら、タイミングとか色々考慮できるだろうが」
『いやいや。考慮できるからッて、君の丁度良いタイミングで話しかける訳無いじャん。私は君の言う、“クソアマ”だからねェー』
「ちっ……」
ニャーのいつものからかいに、舌打ちで返し、立ち上がる。
眼下には、アクリアの頭部と首の無い鎧を纏った上半身がそこにあった。
……首だけのアクリアは、茫洋とした表情を浮かべており、おおよそ俺が首を斬り落としてきた
俺が思うに……
一度死んだからなのか……“自分はそうそう死なない”という驕りから来るものなのか……
それとも。単に俺の感性が狂ってるだけなのか。
いずれ答えは出るものと、思考の奥底へと一旦沈める。
まだ、終わりではないのだから。
「……ウーさーん」
激戦の疲労を多少なり癒すべく休憩していると、背後から、間が伸びたマヌケな声が聞こえてきた。
振り返れば、白髪のおかっぱ頭の少女、ムンが、こちらに走ってきて……跳躍、両足を揃えた飛び蹴り──
「うおッ!」
ごく自然に放たれたドロップキックをギリギリで回避する。
着地を綺麗に決めたムンは振り返り、白んだ目で俺を睨み付けてくる。
いや、そんなことよりもだ。
「てめえ、何なんだいきなり!」
「それはこっちの台詞ですよ。ご飯を美味しくもぐもぐしてたら、どっかんばっかん……嫌がらせですかアナタ」
すたすたと此方に歩いてきながらムンは嫌味を垂れ流していく。
そんなムンを見下し、俺も負けじと言い返す。
「のんびり飯食ってたお前に、うだうだ言われる筋合いはねえよ」
「ええ、私もこんなクレームなんか入れたくなかったですけどね。周囲の建物までぐちゃぐちゃにするような戦いしてたら、余波が来るんですよ。こっちに。お陰ですでにちょっとお腹空いてるんですけど、どう責任取ってくれるんですか」
「知ッるか、ボケェッ!」
ムンの苦情に業を煮やした俺は、鞘に収めた刀を振り回し、ムンに、一撃……入れようと、するが。
「どうしたんですかシソウさん。今回はやけにキレやすいんですね。カルシウム摂ったらどうです? 小魚とか。ほら」
「うる、せえッ! こちとら、
俺の攻撃を悉く、ムンは回避し……あまつさえ、服のポケットから煮干しらしき物体をちらつかせてくる。うぜえ。
『あッひャッはッはッはッ! シソウくんとムンちゃんのコントは飽きないねェ! もうホント娯楽としてサイコーだよ!』
邪神の嗤い声が頭に響く中、俺はサンタくんがのっそりと現れるまで、ムンに刀を振り回していた。
『えー、シソウくんプレゼン、“ニャーさまが好きそうな光景(はぁと)”の結果だけど。ん~……まあ、面白かッたよ。微妙に』
「……判定としては、どうなんだそれ」
『ギリギリ合格、ッてとこだネ。次にあんなんだッたらマジで逆さ吊りで空の旅だから。うん』
サンタくんの手綱を握り、空を飛翔していた俺は、
そしてムンはというと……
「うーん。このライター火力低い……こんなんじゃ中まで火通るか、わかんないですね」
俺の背後で、手に持った槍で巨大な……鳥……? らしきモノを串刺しにし、ライターから巨大な炎を噴き上がらせていた。
……どうでもいいか。
「何が気に入らなかったんだ。お前ああいうの好きだろう」
『まずねー、シソウくんが思う“私の好み”について恐らくズレがあると思うから、そこの修正からやッてみよッか。じャあ、セイ!』
セイって……“言え”ってことか……? いまいちノリがわからんな……
「……惨劇、虐殺、殺戮、鏖殺、凌辱、弱いもの虐め──」
『あー、はいはい。シソウくんストップ。成る程ねェ……ッていうか、それシソウくんが好きなモノでしョー? どさくさに紛れて性癖暴露とか変態じャないですかァーやだァー』
「俺は微塵も好きじゃない。捏造するな」
『あッはッはッは。まァ、私のカワイイジョークだと思ッて諦めたまえよ。それで本題の“私の好み”だけど、別に誰かの生き死にとかどうでもいいんだよねホント』
「はぁ……」
嘘くせえ………俺が引き起こした惨劇でゲラゲラ嗤ってる癖に何言ってやがんだこいつは……
『そのリアクションさては信じてないなァー? チミィー。なら、シソウくんでも解るように低次元な話にしようか。シソウくんさ、犬ッてどう思うよ。犬。わんわんとかの方が通じるかな?』
「……強いて言えばあまり関わりたく無いな」
幼少の頃から何故か出会う犬全てに吠えられまくった記憶しかない。
おかげで妹は犬が非常に苦手になったし、俺は俺で騒ぎを起こしたくなくて、遠くから発見次第わざわざ道を変えたりした程度の思い出だ。
『マイナス寄りの感情は持ッてるッてことね。ならさ、犬が二匹いて、そいつらが殺し合いしてたらどうよ? 何か感じるかい?』
「何かって……別に──」
そこまで言って、気づく。
「つまり、お前は……」
『あ、解ッた? 同じなんだよ。シソウくんにとッての犬と、私にとッてのヒトのアレコレは。視点の違いからくる感傷だねェ』
この
『以上の点を踏まえると、私は別にシソウくんや
「……じゃあ結局何が好きなんだよ。てめえは」
『ふッ、それくらい自分で考えよーよ。シソウくーん。なんでもかんでも訊いた所で私が答える訳ないじャあーん。あッはッはッは』
焦らすようなニャーに、せっつくように問いかけると、鼻で失笑された挙げ句嘲笑され、そういえばこういう奴だったな、とムンの咀嚼音を聞きながらサンタくんの手綱をしならせた。
夜通しサンタくんを飛翔させ、空が白んで来た所でようやく
だが……しかし……
「……妙だな」
「シソウさんの顔がですか?」
『ぶふッ。ムンちゃん……それッ……それッ……!』
ムンとニャーの茶々を無視してサンタくんを街へと降下させていく。
妙だと思ったのは、臭いが薄い。
これまでの転生者どもは例外なく激臭で鼻をもぎたくなるレベルだったが……なんだこれは。
「シソウさん、黙ってないで何とか言ったらどうです」
「黙れクソガキ」
ムンの呼び掛けを一蹴して思考を続ける。
臭いが薄くて考えられるのは……
もしくは、余りにも弱いのか。
直ぐに思い付くのはこれぐらいだが……うだうだ考えても始まらんな。
街の広場らしき場所にサンタくんを地面スレスレまで降下させ、飛び降りた──瞬間。
「ぐ、おおおッ!?」
火炎の玉が俺目掛けて迫り、体勢を崩しながら転がって避ける。
顔を上げると、そこには軍服らしき制服に身を包んだ集団がずらりと並んでいた。
……真ん中にいる、黒髪の奴が
その
「とうとう、この国にもやって来たな“殺刃鬼”! 罪無き転生者やその他大勢の人々に損害を撒き散らす害悪め! ジェルモルタルが誇る
「転生者よ、今永遠の死を与える」
俺は即座に
纏めて殺す。
「──ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァッ!」
刀から与えられる激痛に絶叫しながら、渾身の力と凄絶な殺意を籠めて横一文字に刀を振り抜き、斬空を放つ。
その光景を眺め、周囲を注意深く観察する。
……いくら何でも、これで終わりは有り得ねえ。
まだ、どこかに──
『あッはッは。成る程、そうくるか。これは今回長引きそうだねェ』
「……? 何言って──」
『まだ死んでないよ』
ニャーの言葉で、直ぐに斬り裂いた奴らの方を見ると、
そして
「はぁッ!」
「ぐ……てめえ、ら……!」
「エミノーレ以外は、もう一人の方へ当たれ! 決して油断はするなッ!」
「うわ。こっちきた」
ムンは気の抜けた声を出しながら、サンタくんの手綱を手繰り、連中の攻撃を回避していく。
ムンに向かった奴らを先に始末するべきか……?
優先順位に惑っていると、目の前の
「自己紹介の……続きをしようか。オレはシリオン。シリオン・アワルクムラだ」
「知るか。死ね」
短く告げ、
臓物と血飛沫を撒き散らしながら、シリオンは不敵に微笑み──千切れた身体を巻き戻すようにして復元していく。
完全に復元すると、動作確認も兼ねてか、俺の鳩尾に蹴り込む。
「ぐォ……ッ……!」
「そら、もう一撃っ!」
シリオンが、逆の……足で──なら、斬り落としてやる……ッ!
「がァ゛ア゛ッ!」
「おっと」
右腕をシリオンに蹴り上げられ、身を翻して後方へ間を空けていく。
「やれやれ。どうやら“殺刃鬼”にコミュニケーションは難しいようだな」
「クソムシごときと会話する気なんざねえよ」
着地の隙を狙い、居合の構えを取り、斬空を放とうとして──
「野蛮だな……エミノーレ!」
シリオンが叫ぶと、空気を切り裂くような高い音が響き。
「が、ッ! ぐぉオオオオッ!」
脇──腹に、衝……撃、これはッ……矢……!
横から衝撃を与えられたかと思えば、次の瞬間には建物に激突して、崩れる瓦礫が上から降ってくる……!
「……ぉオオオオオオオオッ!」
殆ど反射的に刀を振り回し、瓦礫を斬り砕いて、
シリオンと、少し離れた所にもう一人……ありゃあエルフか? 弓を……持ってやがるな。
クソ……クソ……激痛で、頭が……回らん……
『はァーい。シソウくん。調子どう? ギブ? ギブアップ? それなら刀を鞘にシューゥッ! 超、イクスプロージョンッ!』
「おいクソアマ。一つ訊きたい事がある」
激痛に苛まれつつ、冷えきった声で、
一拍置いて、シリオンどもを斬り飛ばした時に抱いた疑問を問いかける。
「……永遠の死を与えるんじゃなかったのかよ」
『んー……そこら辺の理屈を馬鹿なシソウくんでもわかりやーすく伝えるにはちょっと時間かかるんだけどなァー。平たく言えば、あの
「全然平たくねえよ。一言で纏めろ」
シリオンとエルフ……おそらくエミノーレだろう……が攻撃の構えを取るのに合わせ、ニャーを急かし、俺は身を屈めるようにして右足を踏み込む。
『はァ。シソウくん今回注文多いねェー。じャあ要望に応えて一言で、纏めてしんぜよーう。つまりね──胴体切断されたぐらいじャ死んだと想ッてないんだよ』
ニャーの一言を聴くと同時に俺は飛び出し、その直後に背後から爆音が轟き、瓦礫の細かい破片が後ろから雨粒のように降ってくる。
「が──ッ、ぐぅッ!」
背中に降り注ぐ小石で激痛を感じるが、堪える。宙を蹴り抜く勢いで、シリオンの周囲を跳び回る。
“胴体切断された程度じゃ死んだと思っていない”……つまり。
「不死身か」
『それも、“再生”じゃなくて“逆行”とはねェ。こりャあガチの不死者だよアレ。あッはッはッは』
邪神の嘲りを聞き流しながら、考える。
いや、普段から頭の片隅では考えていた。
もし──“殺しても死なないような奴が相手の場合どうするか”。
色々と、考えた結果──
「死ぬまで殺してやる」
小細工は要らん。百万回生き返るなら百万回以上死ぬまで殺してやる。
そう決意し、シリオンに突撃、斬って、砕いて、潰しまくる。
バラバラに斬り刻んで、砕き潰しても、シリオンの身体は元通りに復元されていく──前に。
「お、らあッ!」
中途半端に復元されていく頭蓋を砕き飛ばし、渾身の前蹴りで吹っ飛ばす。
直後。
「っ、ぐ──おぉッ!」
弓──矢、が。
直撃、するが……身体を無理やり捻り、矢を受け流す。
次の標的をエルフ……エミノーレに定め、一足で跳躍。突撃する。
至近距離に接近し、刀を振るう。
エミノーレは弓を持っていた腕で刀を防ごうとし、斬り飛ばす──
「シッ!」
「がふッ……!」
頬──を、打ち抜く痛み……に加え、
「弓兵だからって、別に至近距離がにがァえ、ッ──」
戯れ言を吐きかけたエミノーレの口を下顎ごと鞘で砕く。
そして、刀を右から切上げ──刻む。
斬り刻む。バラバラに。復元出来なくなるように。刻んで、斬って、斬って──
後頭部に、衝撃。
その数秒後に、全……身、に!
「が、あ゛ァアアッ!」
「お──っとお」
渾身の一振りを、危なげなく……フザけた声を出しながら避けたのは──シリオン。
「やれやれ。噂には聴いていたが……凄まじいな“殺刃鬼”。人の形をしているのが疑──」
「死ィねえええッ!」
死ね。死ね。こっちは何をするにも、されるのも。身体が痛くて痛くて──ムカつくんだよ。キザったらしい駄弁りなんぞ聞いてる暇も余裕も無い。
刀と鞘で斬空を連続で放つが……当たらない。
「何度も殺られてれば、猿でも覚えるし、避けるのは容易いさ」
『はッはッは! 随分な言われようだねェ! シソウくん!』
「殺られないと覚えないんじゃあ、てめえ猿以下の頭だな」
「……どうやら、“殺刃鬼”にもコミュニケート能力が残っていたらしい、なッ!」
シリオンがその場で剣を振り──身体に衝撃ッ……と、激痛。
絶叫しそうになるのを堪え、シリオンを見る。痛みにのたうち回るのは……後にする。
あの
シリオンが軽く剣を振りながら口端を吊り上げる。
「なるほどね。視界で範囲を決めて、振るった得物の軌道上に在るイマジニウムごと位相を動かして斬撃を繰り出しているわけか。まあ、初歩的な技術だ。違う点は……規模か」
得意げになってるシリオンの頭を吹っ飛ばすべく、刀の切っ先をシリオンの頭に向け、矢を番えるように構え──
「お゛──ッらぁ゛アアッ!」
刺突を繰り出し、穿空を放つ。
だが、しかし。
「よっと」
極自然に剣を振るったシリオンと俺との間で空気が破裂する音が響き渡る。
……穿空も防がれるか。
「仕組みさえ解れば、あとはどうとでもできる。というか……そんな初歩的な技だけで転生者達を殺したのか? もっと何かあるだろう」
「俺の猿真似した程度で見切ったつもりか。どうやら本当に猿以下の頭だったようだな」
俺の罵倒に無表情と化したシリオンに向かって──踏み込もうとした瞬間。
シリオンの視線が上を向き、表情が険しくなり、後方に飛び退く。
その直後、何かが俺の周りの地面に連続して突き刺さってきた。
ほぼ反射的に刀を振るおうとするが、止まる。そこには。
「こいつら……」
ムンに向かったであろう連中が、腹を槍で貫かれ、串刺しになっていた。
致命傷を避けているようには見えるが、不死身故に、各々苦悶の表情を浮かべ、嘆き、叫んでいた。
「あれ。シソウさん、まだ倒してなかったんですか? たかだか二人に手こずり過ぎじゃないですかね」
見上げると、サンタくんの手綱を片手で操り、空いた手で薄気味悪い槍を担ぐムンがいた。
『シソウくんもね……んぐ、この際だから、あふッ……しッかり覚えとくと、あむ……何これめッちャウマい』
「喋るなら食い終わってからにしやがれ! クソアマぁッ!」
『あハハ、メンゴメンゴ。で、初めてガチモンの不死者と戦うシソウくんに一つアドバイスしたげるよ』
ニャーの戯言に怒号を飛ばし、俺の後方から甲高い音が鳴り響く。
──エミノーレとかいうエルフが弓に矢を番え、その矢に光が集束していた。
渾身の一撃……というヤツか。
態々、射たせる義理は無い。潰して──
「うるさい」
俺が動くよりも、速く。
頭上のムンが、槍を投擲し、エミノーレの胸を貫く。
「ッ、が、アアッ……!」
「エミノーレっ!」
シリオンがエミノーレの下へ駆けつけようとし。
「させるかよ」
俺はシリオンに向かって斬空を放ち、接近していく。
「邪魔を……するなァッ!」
シリオンが負けじと剣を振って模倣した斬空で相殺させるが……所詮猿真似。気迫が違う。相殺される以上の斬空を放つまでだ。
『アドバイスだけどね、不死身は無敵じャないッてのを、ムンちャんのムーブから学ぶといいよ。この理屈は君にも適用されるから』
頭に響く邪神の声を思考の片隅に置いておく。
今は──奴を、シリオンをズタズタにするのが先だ。
奴の進行方向に斬空を放ちつつ、刀が届く間合いに入る。
「く……! うッ──」
「お゛ォオオオオッ!」
シリオンの剣を鞘で弾き、刀で両足を斬り飛ばし、すっ転ばせる。
体勢を崩したシリオンの頭が俺の足下に迫り。
「お──ッらァアアッ!」
刀でシリオンの頭蓋を斬り砕いた。
シリオンの頭を砕き続けてから、大分時間は経った……と思う。最初に頭蓋を叩き斬り、砕き潰してから、何度も何度も何度も何度も何度も。
頭部が完全に復元する寸前に、渾身の殺意を籠めながら、一刀を叩き込む。
もう、百を越えた先から数えるのは止めた。
日も傾き始め、ムンは時折串刺しにした連中を弄くり、欠伸混じりに拷問していた。
「ッ……! が、あァ゛ッ!」
死ぬまで殺してやるとは決意したものの。
こうも……代わり映えしないと、穴を掘って埋めてるような感覚に囚われる。
攻撃はあれから一切喰らって無いが、
シリオンも──この
「お゛──ォオオオオオオッ!」
今一度。己を奮い立たせる為に、叫ぶ。
喉に走る激痛すらも怒りに変えて、鞘と刀を太鼓の連弾の如く振るい続ける。
考えろ。考えろ。考えろ。
俺はどうして転生者を殺せた?
刀の
有るのは“死”の確定化……“死”を通過点にした
ならば。そこに至るまでの致命傷を、俺は今までどう与えてきたのか。
思い出せ。
たかだか首を刎ねた程度で死ぬような奴だったか?
………不意討ちと闇討ちを駆使して首を刎ねた所で、恐らく死ぬ事は無かったはずだ。
そんな
「──そういう、ことか」
鞘と刀を振るのを一旦止め、仰向けに倒れているシリオンの肩を掬い上げるように蹴り飛ばし、うつ伏せにさせる。
「──ッ、は……がッ、あああああっ!」
シリオンの頭部が即座に復元するものの、間髪入れずに奴の心臓目掛けて鞘を突き刺し、身体を貫いて、串刺しにする。
そのまま、シリオンを盾にするように持ち上げ、ムンを襲っていた連中に向かう。
「な……何、を……ぐふゥ、する、つもりだ……!」
「うるせえ、クソムシ。喋るな」
「ッッッ〜〜〜! あ、ああああ──ッ!」
鞘を持っている腕の手首を捻り、身体の内部を抉り回す。
……奴の悲鳴で俺の全身に叩きつけられるような激痛が襲い、滴る血液が俺の左手を染めるように流れ、焼けるような痛みを味わうが、耐える。堪える。
ムンに串刺しにされている奴の前で止まる。
見た感じ……男の、エルフか。
「あ……あ、ぶほッ……! げふっ」
串刺しにされた箇所から、とめどなく血が溢れるも、不死身故に死ねず、苦しみ続けている。
──色々と、思う所はあるが。
今は。
「や、やめ……ろ……!」
シリオンが、息も絶え絶えになりながら制止を呼び掛けてくるが、無視する。
エルフの男と視線が合い。
──俺は刀を振り上げた。
「があ、あ!」腕を斬り落とす。「も、も──」顔を刀の柄で殴りつける。「や゛……や゛め……」──首を斬り飛ばす。
シリオンとエミノーレ以外の
男エルフを徹底的に痛めつけて、首を斬り落とし──復元しなかった事からも鑑みるに、どうやら死を意識させるのが鍵……らしい。
……というか、こいつら不死身の癖して痛みに耐性が無いのは何なんだ。メンタルが塵屑なのか?
『いやいやァ。多分君ぐらいだよ? 根性でそんな激痛に耐えられるの。
「痛覚を消すとかイスエ・クアイの理屈で何とかならなかったのか」
『んー……普通の即死レベルの致命傷なら痛覚を感じる間もなく復元だろうし、切断されても即座に感覚もシャットアウトするから、別に痛覚はあッても問題はなかッたんじャ無いかな? わかんないけど!』
「そうか。無駄話だったな」
「な……何言ってるんだ、お前……こんなことはもう、止め……」
「お前には関係無いことだ。クソムシ。黙って死ね」
「あ、ッ! がああ……ッ!」
話しかけてくるシリオンの胸に刺した鞘を激しく動かし、抉る。
連中を殺し尽くす度に制止を呼びかけて来るが……知るかよ。止まってたまるか。
そうして、エミノーレの前に立つ。
「止め……ッ、止めてくれ……! 頼む……ッ!」
制止の次は懇願と来たか。浅ましい。
散々馬鹿にした相手に、女の命乞いか。
屑め、塵め、虫唾が走る。
シリオンの言葉を無視して──エミノーレの身体を、刺して、抉り、刺して、抉り、斬り落とす。
シリオンが絶叫し暴れ、エミノーレの掠れた声で「殺して」の声を聴き──首を刎ねる。
「あ──あ、ああ……」
暴れていたシリオンは地面に落ちたエミノーレの首を見つめ、言葉にならぬ声をただ、漏らしていた。
「次は、お前だ」
シリオンに、告げる。
微塵も動く気配が無いが、反応を待つことなく淡々と語りかける。
「お前にまだ戦う意志があるなら、尋常に戦ってやる」
ここまで告げてもシリオンに動きは無い。
俺は、鞘を捻って大きく揺らし、シリオンの胸を抉る。抉った傍から瞬時に復元することから、いくら乱暴に動かしても鞘がすっぽ抜けるという事は無い。
……奴にしてみれば致命傷を受け続ける拷問でしか無いが、考慮なんかしない。
「──あ゛ッ、があああッ! あああッ!」
「答えろ、クソムシ。戦う意志は」
「ぞ、っそん゛なの、無いっ! あるわけが無い! 何なんだよお前! 何で! 何でッ!」
「──そうか。わかった」
喚くシリオンを余所に。
シリオンを突き刺した鞘を投げるように振りかぶり。
──渾身の力で振る。
「がッ──はぁ゛あああッ……!」
血を撒き散らしながら空高く飛んだシリオンを追うべく、俺も空を蹴って跳躍する。
シリオンと視線が合い。
「──死ね。死ね。ぶち殺してやる」
袈裟懸けにシリオンの右腕と右足を一振で斬り落とし。
振り下ろした刀の勢いのまま、切り上げて左足と左腕を斬り飛ばし──そして。
「お゛ォオオオオオオッ!」
怒りの限り、咆哮しながら、絶望と恐怖に染まったシリオンの首を刎ねた。
その数瞬。
俺は脚に激痛を覚えながら着地し。
残骸と化したシリオンの遺体が鈍い音を立てながら落ちてくる。
シリオンの肉体が復元しない様を見据え。
俺は
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