妖刀戦鬼
「ぐォオオオッ!」
爆炎に包まれ、地面へと墜落し、激突する。
叩きつけられた衝撃と攻撃による激痛に悶える間すら惜しんで、即座に立ち上がり空を見る。
目を凝らさねば視認できない距離に、人が浮いていた。
一人、ではない。ざっと数えて五人。
その中でも目を惹くのは。
「クソガキめ……」
銀髪の、子供。それも女。少女──いや、女児。
女児が率いる連中に追い込まれていた。
自分でも質の悪い冗談に思えてくるが、事実であり現実である以上、対応策を巡らせる──最中。
「く、ッそォオオッ!」
銃撃、否。隕石と呼んでも差異は無い程の爆撃が俺目掛けて降ってくる。
悪態を吐きながら
いくら狂った領域で頑丈だろうと、痛いものは痛い。故に被弾するのは失点だし、副次効果である衝撃は消せない。
只でさえ常時激痛の上、
接近しなければ戦闘どころの話では無い。
『ほらほらァ、このままだとジリ貧だよー? がんばれがんばれ』
「うるせえ、今に見てろアイツらすぐにぶっ殺してやるッ!」
慣性を無視する勢いで直角に曲がり、
歩いていた、が……
『あーッはッはッはッはッはッはッはッ』
「……」
『はァーッはッはッはッはッはッはッはッ』
「………」
『ひィー、ッはッはッはッ、げほ、ふフフはハ』
「うるっせえな! てめぇいつまで笑ってんだ!」
『いや、だって、ふフっ、あ、ダメ、ツボには、ハハハハハハハ!』
野太い男の声で狂ったようにふざけて笑ってる邪神、ニャーに交渉を持ち掛けてからというもの、ずっとこの調子だ。
大きくため息を吐いて、再びニャーに問い掛ける。
「……それで。どうなんだ」
『はー……え? 何が?』
「俺がさっき話したことすら覚えてねぇのか、てめぇは」
『いやあ、真面目な話なのにシソウくんに誠意が見られないからさ。てっきりジョークの一つだったのかなーって』
「………」
こ、のクソアマは……!
怒りで奥歯が軋む程に強く噛み締めるが、落ち着いて話をするために、深呼吸して奴の望む態度で応答する。
「……先程申し上げた、私が根を上げるまで、私の家族に一切手を出さないという案についてなのですが」
『ギブアップしたら君と君の家族みーんな永久に私の玩具って件だよね。うん、いいよ』
……やけに、あっさりだな。くだらねえ冗談を挟む辺りもう少しゴネると思っていたが。
『ぶっちゃけ、私神サマだから破るも守るも気分次第なんだけど』
「……おい」
『ただ、悪魔の側面も持ってるから契約となると簡単に破れないんだよね』
「なら──」
俺が続けて何かを言う前に、普段のふざけた調子の声とはまったく違う、正気が削れ、嬲られ、冒されるような声でニャーが告げる。
『我ガ無数ノ貌ヲ以テ汝ノ祈リヲ受諾シヨウシカシ心セヨ汝ガ挫ケタソノ時ニハ永劫ヲ越エテ尚我ガ奴隷デアリ続ケルト』
「う……ぐ……」
気持ち悪い。ただ、それしか言えない。
恐怖よりも怒りよりも、ただ、ただ気持ち悪い。吐き気が込み上げてくる。
『返答ヤ如何ニ』
ニャーが、催促している。こた、答えねば。
今の気持ち悪さに冒されている状況に怒りを燃やして、吐き気を呑み込んで声を張り上げる。
「上、等だ!」
『はい、オッケー。契約かんりょー。これからも頑張ってねー』
また、元のふざけた調子戻ったニャーに肩透かしを食らったように感じ、溜め息を吐きながら、再び、サンタくんがいるであろう藪へと向かった。
暗くなった藪に入り、巨大生物──サンタくんの元に辿り着くと、バリバリモシャモシャと何か肉塊を貪っているサンタくんと、触手のような髪飾りを着けた白髪の少女、ムンがちょこんと地べたに座ってサンタくんの食事を眺めていた。
「あ」
「あ……」
ムンと俺は互いに認識すると間の抜けた声を上げていた。
そういや、抜刀してからそのまま放置してたな……
「シソウさんお疲れさまです……って凄い格好ですね。
「半日ぶりに会って言う事がそれか」
ムンの罵倒に辟易しながら己の格好を確認してみる。
……なるほど、確かにこれは酷い。
黒いスーツは所々浴びた返り血でよりドス黒く変色し、白かったワイシャツは薄汚い赤に染まっていた。
ムンとは少し距離を置いた所で地べたに座り込んで告げる。
「……サンタくんの食事が終わり次第、出発するぞ」
「はい。……水浴びとかしないんですか?」
ムンの疑問に、自分の身なりを一瞥して吐き捨てるように返す。
「死人を洗った所で意味なんかねぇだろう」
俺は、死んだ。
車に轢かれて、不様に、間抜けに、死んだ。
死んだのならば、速やかに土に還って塵になるべきだ。
なのに。理不尽に動かされ、関わりたくもない
家族さえ──家族さえ人質に取られていなければ……
あの
俺は不安に苛立ちながらサンタくんの食事を眺めていた。
サンタくんの食事を見届け終わり、ムンと共にサンタくんの背に乗ってイスエ・クアイの空を翔ていた。
後ろに座っているムンが時折欠伸をかいてるのが無性に腹が立つが……
とっとと転生者を見つけるべく、俺は鼻をひくつかせて
……相変わらず吐き気を催すような匂いが鼻腔を冒しまくるが、怒りで吐き気をねじ伏せて、匂いの方へと向かっていく。
ふと、気になった事があり、ニャーに呼び掛ける。
「おい、ニャー」
返事は、無い。苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら、もう一度呼び掛ける。
「……ニャー様、よろしいでしょうか」
『うわ、シソウくん何その喋り方。気色悪っ』
「…………。いくつか訊ねたいことがあるのですが」
『シソウくん、その喋り方似合わないからフツーに喋りなよ』
ニャーの若干引き気味の返答に苛立ちながら、溜め息を吐いて、喋り方を元に戻して再び問い掛ける。
「いくつか訊きたいことがあるんだが」
『訊きたいこと、ねぇ……質問は簡潔にね。じゃないと無視するから』
どこまでいっても腹の立つカミサマだな。
まずは……
「転生者ってのは、神どもが絡んでんだよな?」
『そだねー。イスエ・クアイのカミサマたちヒマだから。人間オモチャにして遊ぶくらいしかやること無いんだよね』
ニャーの説明に罵りながら返答しようかと思ったが、なんとか堪え、続けて訊く。
「俺が転生者を始末して、転生させた神どもはどうなるんだ」
転生者を駆除したところで、転生させた元凶が残ってるんじゃ、キリがねえからな……
『一番ヤバい奴以外は連座で死ぬようになってるよ。多分。じゃねーと終わんねーじゃん』
まとめて死ぬようにはできてんのか。いや、だが──
「一番ヤバい奴ってのは──」
『教えてもいいんだけど、時間切れみたいだね。ほら前』
ニャーの声で前方に注意を向けると光が煌めいて──
「う、ォオオッ!」
サンタくんの手綱を強引に繰り、急旋回させてギリギリ回避させる。
そのすぐ側を光の奔流が通り過ぎて行く。
首を無理矢理傾けさせられたサンタくんは非常に不機嫌な声で嘶いていた。
「今のは一体何だ」
「急にぐるんぐるんしたかと思えば何やってんですかシソウさん」
ムンが不機嫌そうな声で文句を言って来るが、無視する。
光が向かって来た方に目を凝らすと、遥か遠くに……何か……何かがいる。
「んー……人、が飛んでますね。あと武装もしてますね」
ムンが目を細めながらそんなことを言っていると、俺の脳内に声が響いてくる。
【こちらはネズ・ロルカていこくだいじゅうさんまどうりゅうきへいたい、たいちょうのヤニルタ・ノフ・ヒャチレグデだ。そして、ここはネズ・ロルカていこくのりょうくうだ。きさまのしょぞくをとう】
……口調そのものは厳めしい軍人のように感じるが──舌足らずな滑舌のせいでふざけてるようにしか思えない。
それに──何より。
「この
「あ、転生者っぽい人が居ますね……子供?」
ムンの発言を耳に入れながら刀──
そして、再び頭に声が響く。
【さいごつうこくだ。──きさまはだれだ】
次は無い──そんな念に対して殺意を込めて応答する。
「転生者よ、今永遠の死を与える」
言いながら、サンタくんから滑り落ちて──抜刀。
「──ァアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!」
肌に感じる風ですら激痛を感じるが、それすら怒りに変えて突っ込んで行く。
『いやあ、空中戦とかアクロバティックで私好きなんだけど、それはそれとして無声映画みたいに地味な展開はノーセンキューだから、サービスでオプションつけたげるよ』
パチン、と俺の頭の中で指を鳴らす音が聴こえた。すると、ノイズ音が少し流れた後、声が頭に響いて来る。
【──隊長! アレは一体……!】
【だまれ。うろえるな。なんのことはない──しごとだ】
ヤニルタの発言と共に空に浮遊していた五人はそれぞれ蜘蛛の子を散らす様に散開した。
「手間が省けた……!」
元より狙うのは転生者のみ。
視認できる距離になって明らかになったのは、軍服を着こんだ子供。
だが──殺す。転生者である以上、見た目など良く出来た女装程度でしかない。
油断も、躊躇も、容赦も。一切しない。殺す、必ず殺す。
「オ゛ォオオオオオッ!」
今一度、憤怒と苦悶の絶叫を轟かせながら周りの景色ごとヤニルタを両断すべく刀を振るう──が、しかし。
「ッ、ちいッ!」
振り抜く寸前に目の前を一筋の弾丸が通り過ぎ、無理やり前方を蹴って速度を殺し、後転する。
【いまだ。デルタ、いけ】
ヤニルタの声が頭に響くと上から風切り音が鳴り、瞬間、衝撃が襲う。
「ぐぉオオオッ!」
見れば、緑色の肌の、巨漢がショルダータックルをかましてきていた。
「ぐぅ、こっ、のォオッ!」
引き剥がすべく刀を振り上げるが、腹を殴り飛ばされる。
「がッ、ア゛ア゛ッ!」
【に、いち、はっしゃ】
再び、ヤニルタの声が頭に響き、二発の銃声が聴こえると──俺は爆炎に包まれた。
──空中にて。
最初に撃墜されてからも、狂った様に空に駆け上がりは落とされを繰り返していた。
その度に、
『あーッはッはッはッはッは! シソウくん何? きみマゾなの? ふフフフはハハハハハ!』
激痛に次ぐ激痛と停滞する状況に怒り狂いそうになるが、痛みを気付け代わりにしてどうにか思考能力を残す。
まず、まず第一に。奴の、奴らの攻撃を避けるのが必須。
「──ッ、ア゛、ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!」
幾度発したかわからない絶叫を轟せて無軌道に飛び、跳ね、翔る。
【まるで獣ですね……】
【だが、馬鹿だ。突っ込む事しかしてねえぞアイツ】
連中の、嘲る声が、きこえる。
どうでもいいが、それはそうと腹が立つ。
殺す。殺してやる。身体は痛い。
【バカはきさまらだ。だれがむだばなしをきょかした?】
舌足らずな口調ではあるが有無を言わさぬ冷徹な発言に、それまで緩んでた連中の気配が一瞬にして引き締まる。
【それに、てきはわたしとどうるいだ。──わたしをたおすきでかからねば、しぬぞ】
奴の、ヤニルタの号令で、微かに遊び始めた奴らの動きに隙が無くなっていく。
『へえ、珍しい。大抵の
──燃えたぎる怒りが、爆発する。
「うるッせェエエエッ!」
どいつも、こいつも。
ナメられなかったから、なんだ。
態度が真面目だろうが慢心してようが、俺の
故に、考えるのは、何が、足りないかだ。
「ぐ──、ッ、がァッ!」
また、地面に叩き落とされる。
動け、動け、動かなければ、
刀を逆手に持ち変え、鞘と刀を杖代わりにして身体を無理矢理起こし、飛び上がる。
足りない。足りてない。何が、足りない。
激痛で回らぬ頭を必死に回転させ、辿り着いた答えは──
「速さが、足りない」
認識してからは、がむしゃらに翔け、撃たれ、落ちかけ、また、飛ぶ。
飛び回って、周りの景色すらも線になって流れて行く。
速く、速く! もっと! 速く!
【隊長、敵の速度が上がりました】
【かくいん、かんのうセンサーのはんのうをもういちだん、いや、にだんあげろ。てきのとっかんにあわせて、こうげきできるようにしろ】
この期に及んで連中は徹底的に俺を封殺するつもりでいるらしい──やりにくい。
だが、それでも。
「殺す。殺してやる」
最早自分でもどう飛んでいるのか解らない程に空中を、常軌を逸した速度で四方八方に翔け回っている。理屈は知らんが、景色の輪郭すら曖昧なのはそういう事だろう。
まずは、あのデカブツからだ。
忌々しい、巨漢、デルタとかいう、奴。
匂いは、薄い。が、勘で殺す。殺してみせる。
まだ……まだ……まだ──まだ、今!
一瞬、世界が止まったように感じ、逆手に持った刀の刃が、デルタの首筋にピタリと当たり。
「オオオオォッ!」
絶叫と共に体を極限まで捻り、回転しながらデルタの首を刎ねた。
刎ねられたデルタは糸の切れた人形の如く、重力に従い、鮮血を撒き散らしてまっ逆さまに墜落していく。
まず、一人。
尚も、速度を上げて、跳ぶ。
【ッ、隊長! デルタがッ!】
【ちっ……かくいん! しんけいをきょくげんまで、とぎすませ! もはやてきはわたしいじょうだとおもえ!】
仲間が一人やられて漸く本腰入れた連中だが……遅い。最初から全力疾走してる俺が、周回遅れのアホどもに、負けない、負ける訳が、無い。
【あ──】
【ガンマッ!】
ヤニルタの、近くにいた──小人……ドワーフとかいう奴だろうか──ガンマの、頭を、鞘ですっ飛ばす。
二人目、次。
跳ぶ──飛ぶ──猛禽の如く、矢の如く、
【──調子にッ】
【乗るな──!】
二人のエルフ──片方は褐色──が俺を迎撃するべくライフルを構えて、撃つ。
だが、遅い。弾丸は俺の後方に過ぎ去り、鞘と刀で二人の胴体を断絶する。
三、四。
残るは──
【……よくもまあ、やってくれたものだ】
嘆息しながら一人ごちる、ヤニルタのみ。
殺す、殺す殺す──殺してやる。
【ぶかにけいけんをつませようとしたのが、あだになったか。はんせいすべきことがらだな】
「何をごちゃごちゃと──」
【ひじょうにふほんいだが、カミのちからをつかうしかあるまい。じつにふゆかいだ】
言うやいなや、ヤニルタは俺を置き去りにするが如く上空へと飛んでいく。
「逃がさん!」
俺もまたヤニルタを追うべく、空を蹴り続けて飛翔していく。
【
俺の頭に、ヤニルタの声が響いていく。
何をやらかすつもりかしらんが、ぶっ殺してやる。
【
「待、ち、やがれェッ!」
クソ、クソ、追いつけねえ。訳解らん速度で飛んでるはずなのに、ヤニルタとの距離が縮まらない。
やがて、ヤニルタが上空で止まり、浮遊すると同時に銃口を此方に向ける。
【
最後の一言なのか、言い終わると奇妙な距離の開きが急速に狭まっていく。
「死ィイイ──」
ジグザグな軌道を描いてヤニルタの首を斬り飛ばすべく無茶苦茶に跳んでいく。ヤニルタの向きは先ほど俺がいた場所から変わっていない。刀を振りかぶり、激痛と憤怒を区切るために、今、いざ──
「
銃口が寸前まで接近した俺の方へ向き。間近で聞こえたヤニルタの言葉と共に眩く極光が放たれた。
「──ッ、はァッ……!」
痛い。痛い。体が痛い。違う。今、今何が、どう──これ、は。
光に、流されている。押し流されるような圧力で今も後方へと吹っ飛ばされている。
何は、ともあれ。確認。
刀と鞘は──ある。意識は──今はっきりとしている。目的は──転生者の殺害。
ならば後は。匂いを辿り、今一度。
──
「──がァアッ、アアアアッ!」
憤怒の咆哮を轟かせて光の奔流をバラバラに斬り裂いて上空へとカッ飛んでいく。
匂いを真下に捉え、今度は垂直に、急降下する。
「死ィイイィイイ、ねェェエエエッ!」
ヤニルタの目前で前転し、刀と鞘を──叩き込む。
「な、ちっ──」
刀の方はライフルで僅かに逸らされ軍服を貫通し、鞘はそのまま肩を砕き貫いた。
落ちる──堕ちる──
「この、はなれろォ!」
「うるせえ! 死ねえ!」
怒号に怒号で応え、刻一刻と、地面へと迫り──そして。
莫大な衝撃と轟音が鳴り響いた。
「ぐ……ッ、がぁッ、はァッ!」
よろよろと、鞘と刀を支えにして立ち上がる。粉塵で周囲が見えんが……居る。近くに、ヤニルタが、居る。
巻き上がる粉塵に激痛と共に噎せながら、探す。
粉塵の中、匂いを頼りに、見つけた。
「……ッ──、──」
息も絶え絶えに鳴りながら横たわるヤニルタが、そこにいた。
……推察するに、地面に衝突する寸前に自爆か何かやったんだろうな。
──ヤニルタの足が綺麗さっぱり消し飛んでいた。
それでもしぶとく生きてんのは異世界転生者だからなのか……どうでもいい。殺す。
「ひとつ……きか、せろ……」
激痛に苛まれる体を引き摺ってヤニルタに近付くとそんなことを尋ねてきた──知らん。殺す。
奴の首に狙いを定め、逆手に持った刀を振りかぶり──
「お……まえは──」
──振り抜き、断頭した。
振り抜いた勢いでふらついて倒れながらも、刀を鞘に収める。
抜刀してる間に苛んでいた激痛も徐々に引いていき、大きく溜め息を吐いて、空を仰いだ。
『はい、おつかれちゃーん。今回もよくできましたー』
「……さっきの話だが」
『え? さっき? いや、さっきってどのくらい前よ。私そーいうふわふわした言い分嫌いなんだからね!』
俺はお前の全てが嫌いだ、と叫ぶのを必死に堪え、手間だが、詳細に説明する。
「神の中で一番ヤバい奴が居るとか……そこら辺の話だ」
『あー……うん。そういえばそこでエンカウントしちゃったんだっけ? あー……そこかー……』
何か……妙だな。
『まー、何かの手違いでエンカウントしてシソウくんがオシャカになるのも困るからね。良い機会だからここらで説明しましょ』
長い話になりそうと予感した俺は、その場であぐらをかいた。
……下手に動き回るとムンと合流できないかもしれないからな。
『そう、それは私がまだ若くピチピチしたコズミックゴッデスだった頃……』
「くだらねえ茶々入れんじゃねえ」
『黙って話も聞けんのか馬鹿』
「冒頭からふざけてたら突っ込まざるを得ないだろうが!」
『あーもー、うるさいうるさい! こっちだってすんごい昔のトラウマ発掘しながら語るんだから黙って聞きなさい!』
「ちっ……!」
ニャーの逆ギレに釈然としないものを抱えながら、一応の指示に従い黙って耳を傾ける。
『私が正気度直葬レベルの神格やってた頃にイスエ・クアイへ観光しにきたのよ。その時からイスエ・クアイは……あー、なんつーかね。変だったんだよね。前はこんなんじゃなかったというか、色々おっきくなってたというか。あー、もどかしい……シソウくんが超人なら脳ミソに直接私の記憶を
「…………続きを」
必死に、懸命に、沸き上がっては爆発していく怒りを抑え、脱線しそうな話題を軌道修正していく。
『ふんっ。そんで、観光しに来たときに色々調べたんだよ。イスエ・クアイの原理とか真理とかその他諸々。暇潰しにドラゴンとか発狂させてクジラっぽい生物と交配させたのは愉快だったなぁ。あッはッはッは。調べて解ったのは、君が認識するカミサマ連中は、イスエ・クアイの神域……便宜上、クアイ界って呼ぶけど、そこで眠ってたんだよ。寝てたんだよ!? 土着に坐しますヤオヨロズのやんごとなき、かつ比類無き神々が! スヤァって寝息をしそうに! 正直めっちゃ笑ったよね。と、まあ寝てるという形容詞を使ったけれど、驚く事にカミサマ連中はどうも寝ていながらも活動してるみたいなんだよね。試しに寝てた一柱をそのままバラバラにしたり戻してくっつけて発狂させて発情させたり実験したら、ある奴に行き着いたんだよ』
「まだ……続くか?」
正直、限界が近い。奴の、
『何言ってんの。こんなもんまだまだ序盤だよまったく。で、弄くり回したカミサマからある奴の情報を入手したのはいいんだけど、ソコからがまた物凄くめんどくさくてねー、まず名前が解らない。次に見た目。これもシルエットだけ。こんなんでどうやって探せっつーんだよ! って当時はめっちゃキレてたよね。考えてもみなよ。砂漠で宝石探せっていうのと変わらないからね。しかも宝石の手がかりは輪郭だけ! ね? 腹立つでしょ? けれどまあ、そこはコズミックビューティーゴッドのニャーさまたる私の健気で地道な捜索が功を成したのだ! えへん!』
ニャーの
『で、どこまで話したっけ?
……つまり、は。
「創造主、とかいう、やつが、一番ヤバいんだな……?」
『そだね。見れば一発でわかるオーラしてっから、見かけたら反応せずに逃げること──見られたら、燃えるからね』
ニャーらしからぬ真面目な忠告を肝に命じ──盛大にえづいた。
限界だった。もう何もかもが気持ち悪くてしょうがない。今すぐにでもこんなことを終わらせてとっとと永久の眠りにつきたい──という想いを堪え。怒りを、燃やす。
まだ、終われない。
何も、終わらせていない。
転生者を滅ぼし尽くし、その果てにニャーを、
その前に、話を整理しないとな……
「シソウさーん。ここにいたんですねー」
「ムン……か」
サンタくんの手綱を操り、颯爽と上空からムンが現れた。
「今回は……まぁ、そこそこって所ですね」
「殺ったのにその評価か……」
「なんというか、全体的にスマートじゃないです」
駆除にスマートさを求められてもな……そもそもとして
「そういや、お前の方は大丈夫か?」
「大丈夫って……何がです?」
「俺が戦い始めてから、その……流れ弾とか、余波とか」
俺の発言にムンが白んだ目向けながら、いぶかしむような声色で聞き返す。
「……シソウさんもしかして、心配してくれてます?」
「そりゃあな」
腹立つ事に、イスエ・クアイに関して俺は全くの無知。故に、
「シソウさん……ボコボコにされ過ぎて頭がおかしく……おいたわしや……」
「てめーまでニャーみたいなこと抜かしてんじゃねえ」
「って思ってましたけど、シソウさんは元々頭おかしいですもんね。茶番はそこそこに、次いきましょ、次」
「……ああ」
ムンの慇懃無礼さに呆れながら、俺はサンタくんに飛び乗った。
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