75
「お兄様、ボクはアスターが好きだよ。アスターが……好きなんだ……」
堰を切ったように、涙が溢れた。
「アリッサムの気持ちはわかってるよ。だけどな、アリッサムの気持ちがアスターを苦しめているんだよ」
「ボクがアスターを……苦しめている?」
「そうだよ。アスターを苦しめているんだよ。さぁ、鍵を渡しなさい」
ボクはバッグのポケットから別宅の鍵を取り出す。
――ボクが……アスターを苦しめている。
兄の言葉は、心にズシリと重くのしかかる。震える手で、別宅の鍵を兄に渡した。
――ボクたちは、このまま終わってしまうんだね。
ねぇ……アスター……。
ボクはアスターをそんなに苦しめていたの?
この数ヶ月、ずっと……苦しめていたの?
ボクに向けられたあの笑顔も、ボクを抱きしめてくれたあの逞しい腕も……。
全部、偽りだったのか……。
涙が……とめどなく溢れ、ポタポタと頬を濡らした。
「アリッサム……」
兄がボクを抱きしめてくれた。
いつもなら『やめろよ』って払い退けるけど、兄の逞しい腕の中で声をあげて泣いた。
「アリッサム、思う存分泣け。涙が涸れるまで泣け。そのかわり、明日から学校でアスターと普通に接するんだよ。アスターが好きなら、笑顔で見送るんだ」
「わああーー……」
兄の腕の中で、砕けたように崩れ落ちる。
学校でアスターの顔をまともに見れないよ。
アスターに逢ったら、離れたくなくなるから。
大人はみんな狡い。
ボクは狡い大人にはならない。
―――アスター……
ボクは迷惑だと言われても……
アスターが……好きだ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます