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「お兄様、ボクはアスターが好きだよ。アスターが……好きなんだ……」


 堰を切ったように、涙が溢れた。


「アリッサムの気持ちはわかってるよ。だけどな、アリッサムの気持ちがアスターを苦しめているんだよ」


「ボクがアスターを……苦しめている?」


「そうだよ。アスターを苦しめているんだよ。さぁ、鍵を渡しなさい」


 ボクはバッグのポケットから別宅の鍵を取り出す。


 ――ボクが……アスターを苦しめている。


 兄の言葉は、心にズシリと重くのしかかる。震える手で、別宅の鍵を兄に渡した。


 ――ボクたちは、このまま終わってしまうんだね。


 ねぇ……アスター……。


 ボクはアスターをそんなに苦しめていたの?


 この数ヶ月、ずっと……苦しめていたの?


 ボクに向けられたあの笑顔も、ボクを抱きしめてくれたあの逞しい腕も……。


 全部、偽りだったのか……。


 涙が……とめどなく溢れ、ポタポタと頬を濡らした。


「アリッサム……」


 兄がボクを抱きしめてくれた。


 いつもなら『やめろよ』って払い退けるけど、兄の逞しい腕の中で声をあげて泣いた。


「アリッサム、思う存分泣け。涙が涸れるまで泣け。そのかわり、明日から学校でアスターと普通に接するんだよ。アスターが好きなら、笑顔で見送るんだ」


「わああーー……」


 兄の腕の中で、砕けたように崩れ落ちる。


 学校でアスターの顔をまともに見れないよ。

 アスターに逢ったら、離れたくなくなるから。


 大人はみんな狡い。

 ボクは狡い大人にはならない。


 ―――アスター……


 ボクは迷惑だと言われても……


 アスターが……好きだ……。

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