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アリッサムがいなくなっただけで、屋敷の中がガランとした気がした。
賑やかだった室内が、妙に静かで寂しくて……。
「アリッサム……。やっぱり一人は寂しいよ」
中庭を挟んで見える本宅の明かり。
今は混乱しているが、俺もアリッサムもこの状況を理解する日がくるはずだ。
一人でいることが寂しくなり、バレット王国のラマンジェに住む母に電話をかけた。
『アスター? アスターなの? まあ久しぶりね? 元気にしてるの? セントマリアンジェ校はどう? 暮らしは落ち着いた?』
優しい母の声に、目頭に熱いものがこみ上げる。
「俺は元気だよ。バレット王国の王都ローズに戻ることになったんだ」
『まあバレット王国に? 転勤なの? それとも……』
「疲れたんだ。知人を頼ってフリースクールのスタッフをすることにした」
『アスター……まさか教師を辞めるの? 教師は天職だって言ってたのに。まだ赴任したばかりでしょう。真面目なあなたが短期間で教職を辞めるなんて、セントマリアンジェ校で一体何かあったの?』
「何もないよ。母さんは心配性だな」
『アスター、もしも辛いことや困ったことがあるのなら、王都ローズではなくラマンジェに戻っておいで。アスター……、母さんと一緒に暮らしましょう』
「母さん。俺は大丈夫だから。母さんの声を聞いたら、元気が出てきたよ。さてと、荷造りでもするかな」
涙が滲む目頭を、指で拭った。
『アスター、いつでも家に帰ってきていいからね。アスターの家はここなんだから』
「ありがとう。また電話するよ、おやすみ」
『新しい住所が決まったら知らせなさいよ。じゃあね、おやすみなさい』
久しぶりに聞いた母の声。
この歳で、ホームシックになるとは思わなかった。
母さん……ごめんな。
本当は教師に疲れたんじゃない。
俺は今でも教師は天職だと思っている。
今でも、学校が、生徒達が、好きだよ。
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