69
俺は……
こんなにも、アリッサムのことが好きだったんだ……。
アリッサムといると、毎日が楽しくてハラハラドキドキして、それでいて心は満たされていた。
――アリッサム……。
お前のことが……大好きだよ。
「アスター、いつ実家に戻るの? お願いだから教えてよ」
「母は今、バレット王国の病院に入院してるんだ」
「……バレット王国。隣国なんだ」
アリッサムが俺に抱きついた。
強く、強く俺にしがみつく。
そんなに強くしがみついたら、この想いが断ち切れなくなるだろう。
「アリッサム……。今まで世話になったな。ジンジャーには俺から話をするから」
「……ばか、一生の別れみたいに言わないで」
アリッサムがしゃくり上げて泣いている。
その背中を優しく擦りながら、寂しさが堪えきれずに涙が溢れた。
「あと二週間くらいで学校は退職する。この屋敷も出て行くよ」
「あと……二週間!? たったの二週間!?」
「後任の先生は明後日には着任するから、学業に支障はないから心配はいらない」
「あと……二週間……」
アリッサムが濡れた瞳で俺を見つめた。
「アリッサム、公爵令息だからといって職業を持たず、親のいいなりに政略結婚する時代はもう終わったんだ。今は誰しもが自力し職につく時代なんだ。俺は何処にいても、アリッサムを応援してるからな」
「……だから、どうしてそんな言い方をするんだ! ボクは政略結婚なんてしない。親のいいなりにもならない。ボクは……ボクは……」
俺は泣いているアリッサムを優しく抱きしめた。
「ほら、いい子だ。子供みたいに泣くんじゃない」
「アスター、ボクはアスターが好きなんだよ」
「アリッサム、気持ちは嬉しいが、それは恋でも愛でもない。幼なじみの情に過ぎない」
「……そんなんじゃない! ボクは……」
泣きながらアリッサムが唇を重ねた。
俺達は泣きながら抱きあった。
もしも俺達が教師と生徒でなかったら、もしも俺達が男同士でなければ、違った幸せを見つけることができただろう。
「アリッサム、ごめん」
アリッサムの体は女性のように柔らかくて、温かくて心地よくて。
本当はずっと抱きしめていたかった。
でもそれは……許されないこと。
「アスター……」
「俺にとってアリッサムは、可愛い弟なんだ。それ以上でもそれ以下でもない」
アリッサムの温もりは……
生涯忘れないからな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます