微熱 6

42

 学校では平静を装う。これは暗黙のルール。アリッサムへの想いも、二人の同居生活も、学校に知られてはいけない極秘事項だからだ。


 アリッサムに纏わり付く生徒達に軽くヤキモチを妬きながら、俺は教師という立場をずっと守ってきた。


 ただし、俺の心をざわつかせるジョーンズは別格だ。ジョーンズはアリッサムの傍を片時も離れない。


 アリッサムに相応しい女子が現れたら、俺はアリッサムへの想いを封印する。そう心に決めていたのに、最近の俺はイジイジしていて女々しい。


 俺はみんなの前で堂々とアリッサムの肩を抱くジョーンズに、嫉妬をしていた。


 一度嫉妬でざわついた心は、なかなか収まることはなかった。


 ◇


 ―ランチタイム―


 俺はいつものようにランチボックスを手に立ち上がる。


「ジョンソン先生、今日も別室ですか? たまには職員室で一緒にランチしましょうよ」


 ブラウン先生が俺に視線を向けた。

 眼鏡の奥の瞳が妙に色っぽい。


「すみません。生徒に配布するカレッジのパンフレットとか整理したいので」


「それならここでやればいいじゃないですか? 私、手伝いましょうか?」


「ここはなんだか落ち着かなくて。一人で集中したいので」


「ジョンソン先生は本当に熱心ですね。ランチタイムくらい少し肩の力を抜いた方がいいですよ。困ったことがあれば、みんなで協力しますから」


「そうですよね。でも自分でやらないと気が済まない性分なんで。では、失礼します」


 俺はカレッジのパンフレットや資料を片手に職員室を出る。俺の向かう先は、休憩時間は誰も使用しない視聴覚室だ。


 視聴覚室の鍵を開け中に入ると、机の上にパンフレットや資料を置き、椅子に腰を落とす。


 生徒に配布するカレッジのパンフレットはもう整理している。職員室でランチできない理由は他にあるんだ。


 俺はランチボックスを机の上に置く。包みを解き蓋を開けた。


 ランチボックスの中にはサンドイッチ。アリッサムの手作りで、必ずどこかにハートが潜んでいる。


 ハムだったり、卵だったり、チーズだったり。様々な食材を器用にハート型にしているんだ。


 だから職員室でランチボックスの蓋を開けることが出来ない。

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