秘密の微熱恋愛 ~恋する人は女装令息!? それとも男装令嬢!?~

ayane

プロローグ

『アスター、アスター、決闘しよう!』


『アリッサムはワンパクなんだから。泣いてもしらないよ』


 三歳のアリッサムは毬栗みたいな髪型で、いつも兄のお下がりの洋服を身につけ、玩具のプラスチック製の剣を振り回し、鼻を垂らした悪ガキだった。


 遊びに行けば、アリッサムは俺に決闘を挑む。

 八歳年上の俺はいつも悪役で、アリッサムは騎士。アリッサムの兄のジンジャー・アダムスミスはチェスに没頭し、アリッサムの子守りは一切しない。


 俺は以前スーザン王国の富裕層が暮らすセントマリアンジェに住んでいて、アダムスミス公爵家のアリッサムが生まれた時から知っている。生まれたばかりのアリッサムは、一人っ子の俺には衝撃的な生き物だった。


 小さな顔。

 小さな目。

 小さな口。

 小さな手。


 触ると壊れそうな、セルロイドの人形みたいな赤ちゃん。俺にとってアリッサムは動く人形そのものだった。


 乳母に代わってアリッサムを抱っこしミルクを与える。ひと月ごとにアリッサムはグングン成長して、そのうち寝返りして、ハイハイして、ヨチヨチ歩いて、カタコトで喋った。


 そのアリッサムが、今は俺の体の上に乗っかっている。まるで俺を征服したかのように、勝ち誇った顔でゆっくりと俺を見下ろした。


 どうしてこんなことになってしまったのかって?


 それは、俺が聞きたい。


 ――出逢った時は、確かに、俺達は男と男だった。


 あの時の俺は、そう信じて疑わなかった。


 だが、それは、全部、全部、全部、ジンジャーの嘘だったとは!


 俺は本当に知らなかったんだ!

 アリッサムの真の正体を……!


「ボクを見て」


 大きな瞳……。

 長い睫毛……。

 ふっくらとした唇……。


「ふざけるな。俺は教師でお前は生徒だ」


「ボクはふざけてないよ」


 小生意気だが、悩ましい眼差し。


 俺の体が、カッと熱を帯びる。


 ――もう……平熱には戻れない。


 オトナの理性を壊す……。


 甘い……微熱……。

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