No.24 子羊とラッパ吹きを探して

 神が長い眠りから目を覚ますと、地上は酷い有様だった。人間の大半は死に絶えていたし、人間たちの作り上げた建築物や機械の数々は機能を停止して、ただそこに存在するだけの、無意味な物体に成り果てていた。鳥や獣や魚たちもほとんど生き残ってはいなかった。

 なぜ、こんなことになったのだろうか。

 神はiPhoneを取り出し、複数人の天使に電話、メッセージ、LINE、Twitter、スカイプ、メール、その他ありとあらゆる手段で連絡を取ろうとしたが、神が使おうとした連絡手段は、全て使えなくなってしまっていた。

 どうしようもないので、神は状況を探るべく、企業のロゴが入った赤色のTシャツに、紺色のジーンズ、スニーカーという格好で、地上に降り立った。

 人類の中で、生き残った数少ない人々は小さな集落をいくつか作って、そこで生活をしているようだった。

 最初に神が訪れた村は、非常に排他的で警戒心の強い場所だった。よそ者である神を信用せず、村の中へ一歩も立ちいらせてくれなかった。神は村の入り口で門番の男に、なぜ世界はこんなことになっているのか尋ねた。門番は「あんた正気か?」と言って、冷たい目で見るばかりで、神の質問に答えてくれなかった。

 二番目に神が訪れた村の住民は、問答無用で神を捕縛した。彼らは神が新品のTシャツやジーンズといった、この世界にふさわしくないものを着ていることを怪しんだのだ。彼等は神を拷問にかけた後、着ているものやiPhoneを奪い取って、村外に放り出した。神は一度住まいに戻り、新たなTシャツとジーンズに着替えなければならなかった。

 それ以外の村々でも神が歓迎されることはなかったが、比較的--あくまで比較的--親切にしてくれた村の住民たちから聞いた話を統合すると、どうやら神が眠っている間に、大きな戦争があったらしい。大都市に爆弾が落とされ、中規模の街には細菌がばらまかれ、小さな村では銃撃戦が起こった。人の住む地域は徹底的に破壊され、人の住んでいない地域も放射性物質やウイルスやありとあらゆる化学物質で汚染された、ということだ。何十年か前の話だ。生き残った人々が知る情報は断片的で、食い違う部分も多かった。

 七つの村を回った後、神は一度、自らの住まいに帰り、甘い酒を飲みながら一九八〇年代のヒップホップミュージックを聴いた。そして、一度世界を滅ぼしてリセットしようと思った。

 神は家の中をひっくり返して、本棚の片隅から自分で作った業務マニュアルを探し出すと、「世界の滅ぼし方」のページを広げた。それによれば、世界を滅ぼすには、七つの目と七つの角を持つ子羊と七人のラッパ吹きと七つの鉢が必要であるということであった。七つの鉢と七つのラッパは、物置にあったが、問題は七人のラッパ吹きと子羊だった。神の手元にiPhoneはなく、また電話会社やTwitter社が潰れた今となっては彼等と連絡の取りようがなかった。

 神は再びベッドに横になり、八時間眠った。そして目を覚ました後、ラッパ吹きと子羊を探すためにまた地上に降り立った。しかし、文明が失われて久しい地上には、七人どころか一人としてまともなラッパ吹きはいなかった。七つの目と七つの角を持つ子羊も見当たらなかった。

 やれやれ、とため息をつきながら、神は荒廃した世界を旅し続けた。

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