No.19 供養

 海鳴寺の内部に設置された作業室で、マヒルの身体は住職によってバラバラに解体された。

 マヒルはヘテロセクシャルの女性向けに作られた、性欲解消を任務とする男性型アンドロイド……俗に言うセクサロイドだ。

 設定上の年齢は二十三歳だが、身長が低く、体格も貧弱で、十代前半を思わせる幼い顔立ちをしている。搭載されたAIの精神年齢も、見た目相応。無知で、繊細で、それでいて獣のような性欲を内包している。主人である人間に対して不必要に反発して見せたかと思えば、寂しがりやの子供のように甘えることもある。要するに、ほとんどティーンエイジャーみたいなセクサロイドだった。

 マヒルは中国の工場で身体を作られた後、海を渡ってこの国にやってきて、とある女性に購入された。AIをその女性好みにカスタマイズされた後、マヒルはセクサロイドとして、経年劣化により男性器が破損するまで、七年間働き続けた。メーカーによる無料保証の期間はとうに終わっており、女性はマヒルを修理に出さず、新品のセクサロイドを購入することを決めた。

 問題はマヒルの処分方法だった。

 女性は最初マヒルを下取りに出すことも考えたが、何しろ彼は七年間も彼女とベッドを共にしたパートナーである。ジャンクショップに連れて行くのには抵抗があった。

 結局、彼女はマヒルを海鳴寺という名の寺院に連れて行った。ロボット供養で有名な寺である。そして、住職に幾らかの金を払った。住職は念仏を唱えながら、マヒルの身体をバラバラに分解した。

 マヒルのパーツは、海外の発展途上国に送られ、そこで農耕機や浄水器の一部に使われるのだと、住職は説明した。マヒルのAIが停止した後も、マヒルの身体は人々を救い、徳を積み続けるのだという。

 女性は晴れやかな顔をして、マヒルと一緒にやって来た道を一人で引き返していった。寺の門前で女性を見送った後、住職は作業室に戻り、仕事を続けた。

 住職の話したことは半分は本当で、半分は嘘だった。マヒルの身体に用いられたパーツがどこかの発展途上国に送られ、何らかの機械の一部になるというのは本当だ。しかし、その機械がなんなのか、住職は詳しく知らなかった。農耕機や浄水器の一部になるというのは、ほとんど口から出まかせみたいなものだ。風の噂では政府の軍隊だか反政府軍だかに安く買い取られ、兵器の一部になっているとも聞くが、本当のところはよくわからない。

 AIが停止すると言うのも嘘だった。マヒルのAIは所有者であった女性の情報こそ消去されるが、停止などしなかった。

 マヒルのパーツの中でもっとも高い値がつくのはAIプログラムや、それを内蔵した小型コンピュータだった。アジアで取引されるセクサロイド用のAIプログラムは、欧米などで売買されるセクサロイドのそれと比して規制が緩く、比較的高品質なので、需要が高かった。特にティーンエイジャーを模したAIプログラムは、ほとんどの国で強い規制がかっているので、男女問わず高く売れた。

 マヒルに搭載されていたコンピュータから、元の持ち主の女性に関する記憶を完全に削除したところで、住職の携帯端末が振動した。

 確認すると、四十代の男性から、サユキと言う名の女性型セクサロイドを供養してほしいと言う、依頼のメッセージが届いていた。

 住職はメッセージに添付されていたセクサロイドの型番情報をゆっくりと読んだ。そして、依頼を承ったと言う旨のメッセージを、男性に送り返した。

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