No.14 Fマンションについて
私たちが住むこのFマンションが常に膨張を続けていることは、周知の事実である。
現在七十五階建てのFマンションであるが、母から聞いた話によれば、私が生まれた頃、七十二階より上の階は存在しなかった。さらに遡ると、母が生まれた頃のFマンションは七十階が最上階で、祖母の生まれた頃は六十九階が最上階だった。Fマンションの増設のスピードはだんだん加速していて、大昔は千年か数百年に一度のペースでしか最上階の階数が更新されることはなかったと、科学の本で読んだことがある。
Fマンションは常に拡大を続けているが、この事実から導き出されるのは、何千、何万年前という大昔、Fマンションは一階建てであったという仮説だ。信じがたい話だが、最新の研究によれば、どうやらかなり信憑性の高い説のようだ。
科学が発達した現代であるが、Fマンションの外に何があるのか、詳しいことはよくわかっていない。
マンションの外に出たことがあるという人物の話によれば、そこには無限と錯覚させるほどの広大な空間があるのだという。
その広大な空間の中に、Fマンションの他には何もないと主張する科学者がいる一方で、Fマンション以外のマンションがどこかあると主張する科学者もいる。そして他のマンションが存在すると考える科学者の中には、そのマンションに我々のような知的生命体が生活していると考える者と、Fマンション以外のマンションは全て無人であると考える者がいるそうだ。
私は、Fマンションが存在する以上、他のマンションが存在する可能性もゼロではないと思うが、我々の他に知的生命体がいるというのは、ちょっと荒唐無稽すぎるんじゃないかと考えている。
私が夢中になって、以上のような話をすると、友人たちはいつも呆れた顔をする。
Fマンションの成り立ちなんてどうでもいいじゃないか。Fマンションの外に他のマンションがあろうがなかろうが、自分たちの生活になんの関係があるんだ。いつまでもそんなつまらない話をしてないで、映画や結婚、株式の話をしよう。と、彼らは言う。私は寂しく思ったり、あるいは腹をたてながら、結局彼らに合わせて映画や結婚、株式の話をする。
子供の頃、もっと勉強しておけばよかったと、私はいつも思っている。もっと勉強して科学者にでもなっていれば、いくらFマンションの成り立ちについて話しても馬鹿にされないだろう。同じ志を持った仲間と、Fマンションの外の世界について夜通しで議論することだってできたに違いない。
しかし、まあ、後悔先に立たずだ。
私は今日もFマンション五十三階の自室で、アルコールを舐めながら、一般向けに書かれた平易な科学書を読んで過ごしている。
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