No.10 VRコックリさん
コックリさんをやってみたいけど、五十音が書かれた紙を用意するのは面倒だ。
コックリさんをやって、なにかの間違いで呪われるのが怖い。
そもそもコックリさんを一緒にやってくれる友人がいない。
以上のような理由でコックリさんを実行できない老若男女のために開発されたゲームが『VRコックリさん』である。
仮想現実の中に構築された放課後の学園に、VRゴーグルをつけた世界中の人々がインターネットを介して集合し、一斉にコックリさんを楽しむ。そういうゲームである。まあ、世界中の人々といっても、日本語にしか対応しておらず、プレイヤーも圧倒的に日本人が多いのだが……。
『VRコックリさん』の中で質問に答えてくれるコックリさんは、高性能コンピュータが呪術的要素を完全に排除した電子的コックリさんであるので、プレイヤーが呪われる心配はない。らしい。正直なところ、私は機械にも呪いにも疎いので、VR世界のコックリさんが現実のコックリさんと比較してどの程度安全なのかはよくわからない。
あの頃、私は毎日、会社で残業を終えた後、『VRコックリさん』の世界へ飛び込み、架空の高等学校の生徒となっていた。私以外にも大勢の人間がそこにいて、やけに目の大きな女子高生や、妙に脚の長い男子高校生のアバターを身に纏っていた。現実世界の彼らがどのような姿をしていたのか、私は知らない。三十代の男である私が可憐な女子高生のふりをしていたように、多分、女子高生の半分は男性で、男子高校生の半分は女性だったんじゃないかと思う。
私はいつも、フレンド登録したユーザーたちと無駄話を楽しみ、気が向いたら彼らとコックリさんに興じた。女子高生としての自分の運命や、架空の先輩である田崎先輩の好きな人、あるいは十五歳にして非業の死を遂げた架空の親友である松谷さんを殺した犯人について、私たちは電子のコックリさんに質問し、その回答に一喜一憂した。時々見ず知らずのプレイヤーともコックリさんをしたが、フレンドとコックリさんをするのと比較して盛り上がらないことが多かった。
ある時、『VRコックリさん』に大規模なバグが発生した。
「コックリさん、コックリさん、長谷川先輩の好きな人は誰ですか」
「……かばだうほうせいかんなすごつれ」
「コックリさん、コックリさん、私の親友の丸瀬穂乃果を殺したのは誰?」
「……深刻なエラーが発生しました。サポートセンターにお問い合わせください」
すぐに緊急メンテナンスが行われ、バグは取り除かれた。しかし、その事件を境に多くのプレイヤーが『VRコックリさん』から姿を消した。多分、冷めてしまったのだと思う。私はしばらくログインを続けたが、ひとり、またひとりとフレンドがいなくなっていくのには耐えられなかった。結局、バグ騒動の二ヶ月後には私も『VRコックリさん』から引退してしまった。
先日、『VRコックリさん』が年内いっぱいでサービス終了するというニュースを、友人から聞いた。それまでにもう一度『VRコックリさん』にログインしてみようかと私は考えている。しかし、なんとなく気が重くて、未だ実行できていない。
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